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アイザワ夫婦は全校生徒から祝福されている  作者: 妖精卿
アイザワ夫婦の初デート
7/18

007 -Aono-

「夕飯には少し早いから、買い物でもしましょうか」


 二人とも特段欲しいものはなかったが、せっかく大型ショッピングセンターに来たのでウィンドウショッピングをすることにした。


「今日のワンピース、(りつ)に似合っているけれど……ちょっと(たけ)が短くないかしら」

「やっぱりそう思うよね」

「やっぱり?」

「もうこれもお役御免(やくごめん)かなぁ」

「……お家デートする時に着てちょうだい」

「え、なんで?」


 (りつ)の言葉に蒼乃(あおの)は答えなかったが、目線がしっかりと(りつ)太腿(ふともも)(とら)えていた。細くて白い(あし)。健康的で(だれ)が見ても魅力的であった。


「あっ! これ可愛い」


 (りつ)が指をさしたのは、青い色の石がついたピアスだった。近くで見ようと蒼乃(あおの)はグレーブラウンの長い髪を耳にかける。そこにちらりと見えたのは、蒼乃(あおの)自身が選んで買った質素(しっそ)なピアス。


 蒼乃(あおの)たちの通う東高等学校は、真面目な生徒が集まるものの、むしろそのせいか規律が(ゆる)い。奇抜(きばつ)でなければ染髪(せんぱつ)も黙認されているし、ピアスの一つ二つで小言を言われることはない。


「ほら、|蒼あおちゃんによく似合うよ」


 (りつ)は台紙を手に取り、小さな鏡に映るように蒼乃(あおの)の耳にピアスを当てる。


「そうだ。私が(あお)ちゃんにプレゼントしてもいい?」


 値段は学生の蒼乃たちにとっても優しいものだった。それでも(おご)られるという行為は、高校生にはいささか重い。


 蒼乃(あおの)は考えた。彼女からのプレゼントである。しかも身につけられるもの。絶対に欲しい。


「そしたら私も(りつ)に何かプレゼントしてもいいかしら」

「気にしなくてもいいのに」

「いいじゃない。付き合った記念で」


 口に出していて()ずかしいと思いながら、蒼乃(あおの)はポーカーフェイスを決め込む。まだ一緒に映画を観ただけなのに、舞い上がっている自分がいる。


 (りつ)に似合いそうなもので、ピアスと同じ価格帯のものを店内で探す。一番に指輪(ゆびわ)が目に入ったが、それは気が早いと候補から外した。


 おそろいのピアスという手もない。(りつ)はピアスホールが()いていないからだ。

 できれば自分の名前を(かん)したものを身につけてほしい。こっそりと束縛(そくばく)が強めな蒼乃(あおの)


 ちょうどよく見つけたのは、ヘアピンだった。ゴールドの土台の上に青い石が三つついている。


(りつ)、こっちに来て」


 彼女を呼び寄せ、栗色の柔らかい髪の上にピンをかざしてみる。


「これでどう?」

「なんかおそろいみたいだね」


 心底嬉しかったが、蒼乃(あおの)は表情に出さずにレジで会計を済ませた。


 店を出てから、お互いに買ったものを交換する。すぐにつけてみようという話になり、近くのトイレのパウダールームで蒼乃(あおの)はピアスを取り替えた。きっと新しいものをプレゼントされるまで、このピアスを替えることはない。


「どう? (あお)ちゃん。私似合っているかな?」

「似合っているわ。記念だし、一緒に写真を撮りましょう」


 パウダールームの(すみ)っこで(りむ)と一緒に写真を撮った。付き合ってから撮るのは初めてだった。蒼乃(あおの)は嬉しくて、つい撮った写真を眺めてしまう。


「明後日からの学校でもつけるね」

「私も」

「お願いだから校則違反だって言われて、没収されないようにね」

「そんなヘマしないわよ」


 蒼乃(あおの)たちは、またショッピングに戻った。蒼乃(あおの)が手を(にぎ)っても、(りつ)は振り払うようなことをしない。ある程度は蒼乃(あおの)のことを受け入れてくれてるらしい。


 こんな大観衆(だいかんしゅう)の中で手を(つな)いでいても、きっと気に()めるような人はいない。(たと)え見る人がいたとしても、恋人同士だとは思わないだろう。


 実のところ、同じ学校の生徒とすれ違っている。(りつ)は気づいていないようだった。問題ない。どうせ学校中の生徒が蒼乃(あおの)たちの関係性を知っている。(はるか)に言われた時は驚いたが、結果的に蒼乃(あおの)(りつ)の関係はいいところに収まっている。


「そうだ。来たついでにノート買っていっていい? もうすぐ化学のノートなくなりそうなんだよね」

「それなら私もシャー芯買おうかしら」


 大きな文房具店は、文房具以外のものまで多彩なものが陳列(ちんれつ)されている。ノートを手に取った(りつ)誘惑(ゆうわく)()られ、必要のないものまで見ている。


「何それ。ビーカー?」


 他にも理科室にありそうなものが並べられたコーナーだった。


「用途は思いつかないけど、なんか欲しくなるよね」

「そう?」


 同意はできなかった。蒼乃(あおの)にとっては授業で使うもの以上の魅力(みりょく)が感じられない。


「あれ」


 レジに行くまでの間、すごく遠回りをして棚の間を歩いていると(りつ)がなにかを見つけた。すぐに蒼乃(あおの)もその姿に気づく。


「ひなちゃん!」


 クラスメイトの才川日向(さいかわひなた)だった。銀縁(ぎんぶち)眼鏡が印象的な黒髪の女子生徒だ。蒼乃(あおの)(りつ)(はるな)日向(ひなた)を加えた四人で過ごすことが多い。


(りつ)蒼乃(あおの)ですか。もしかしてデート?」


 日向(ひなた)は少し大人ぶった雰囲気がある。


「あははー、そうなんだ」


 デートであることを(りつ)から認めてくれたので、蒼乃(あおの)は安心した。


「ひなちゃんは買い物?」

「家族で夕飯を食べに来まして。そのついでの買い物です」


 日向(ひなた)は十センチ差のある蒼乃(あおの)の顔を見た。


「デートの邪魔をしてすみません。お邪魔虫(じゃまむし)はすぐに消えますので」

「や、お邪魔虫(じゃまむし)なんて思ってないよ!? ひなちゃん、また明後日ねー!」


 スタスタと姿を消していく同級生に、蒼乃(あおの)も小さく手を振る。完全に気を使われていた。


「他人からデートって言われると照れちゃうね」


 少し(ほお)を赤くした律は、とても可愛らしかった。


「そろそろ会計をしに行きましょうか」

「そうだね。ノート買いに来たんだった」


 レジに向かうと、同じ目的だった日向(ひなた)と再度出会う。手を振った後なので少しだけ気まずかったが、特に会話はせずデートは続行となる。


 そろそろ夕飯の時刻だった。


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