007 -Aono-
「夕飯には少し早いから、買い物でもしましょうか」
二人とも特段欲しいものはなかったが、せっかく大型ショッピングセンターに来たのでウィンドウショッピングをすることにした。
「今日のワンピース、律に似合っているけれど……ちょっと丈が短くないかしら」
「やっぱりそう思うよね」
「やっぱり?」
「もうこれもお役御免かなぁ」
「……お家デートする時に着てちょうだい」
「え、なんで?」
律の言葉に蒼乃は答えなかったが、目線がしっかりと律の太腿を捉えていた。細くて白い脚。健康的で誰が見ても魅力的であった。
「あっ! これ可愛い」
律が指をさしたのは、青い色の石がついたピアスだった。近くで見ようと蒼乃はグレーブラウンの長い髪を耳にかける。そこにちらりと見えたのは、蒼乃自身が選んで買った質素なピアス。
蒼乃たちの通う東高等学校は、真面目な生徒が集まるものの、むしろそのせいか規律が緩い。奇抜でなければ染髪も黙認されているし、ピアスの一つ二つで小言を言われることはない。
「ほら、|蒼あおちゃんによく似合うよ」
律は台紙を手に取り、小さな鏡に映るように蒼乃の耳にピアスを当てる。
「そうだ。私が蒼ちゃんにプレゼントしてもいい?」
値段は学生の蒼乃たちにとっても優しいものだった。それでも奢られるという行為は、高校生にはいささか重い。
蒼乃は考えた。彼女からのプレゼントである。しかも身につけられるもの。絶対に欲しい。
「そしたら私も律に何かプレゼントしてもいいかしら」
「気にしなくてもいいのに」
「いいじゃない。付き合った記念で」
口に出していて恥ずかしいと思いながら、蒼乃はポーカーフェイスを決め込む。まだ一緒に映画を観ただけなのに、舞い上がっている自分がいる。
律に似合いそうなもので、ピアスと同じ価格帯のものを店内で探す。一番に指輪が目に入ったが、それは気が早いと候補から外した。
おそろいのピアスという手もない。律はピアスホールが空いていないからだ。
できれば自分の名前を冠したものを身につけてほしい。こっそりと束縛が強めな蒼乃。
ちょうどよく見つけたのは、ヘアピンだった。ゴールドの土台の上に青い石が三つついている。
「律、こっちに来て」
彼女を呼び寄せ、栗色の柔らかい髪の上にピンをかざしてみる。
「これでどう?」
「なんかおそろいみたいだね」
心底嬉しかったが、蒼乃は表情に出さずにレジで会計を済ませた。
店を出てから、お互いに買ったものを交換する。すぐにつけてみようという話になり、近くのトイレのパウダールームで蒼乃はピアスを取り替えた。きっと新しいものをプレゼントされるまで、このピアスを替えることはない。
「どう? 蒼ちゃん。私似合っているかな?」
「似合っているわ。記念だし、一緒に写真を撮りましょう」
パウダールームの隅っこで律と一緒に写真を撮った。付き合ってから撮るのは初めてだった。蒼乃は嬉しくて、つい撮った写真を眺めてしまう。
「明後日からの学校でもつけるね」
「私も」
「お願いだから校則違反だって言われて、没収されないようにね」
「そんなヘマしないわよ」
蒼乃たちは、またショッピングに戻った。蒼乃が手を握っても、律は振り払うようなことをしない。ある程度は蒼乃のことを受け入れてくれてるらしい。
こんな大観衆の中で手を繋いでいても、きっと気に留めるような人はいない。例え見る人がいたとしても、恋人同士だとは思わないだろう。
実のところ、同じ学校の生徒とすれ違っている。律は気づいていないようだった。問題ない。どうせ学校中の生徒が蒼乃たちの関係性を知っている。遥に言われた時は驚いたが、結果的に蒼乃と律の関係はいいところに収まっている。
「そうだ。来たついでにノート買っていっていい? もうすぐ化学のノートなくなりそうなんだよね」
「それなら私もシャー芯買おうかしら」
大きな文房具店は、文房具以外のものまで多彩なものが陳列されている。ノートを手に取った律も誘惑に駆られ、必要のないものまで見ている。
「何それ。ビーカー?」
他にも理科室にありそうなものが並べられたコーナーだった。
「用途は思いつかないけど、なんか欲しくなるよね」
「そう?」
同意はできなかった。蒼乃にとっては授業で使うもの以上の魅力が感じられない。
「あれ」
レジに行くまでの間、すごく遠回りをして棚の間を歩いていると律がなにかを見つけた。すぐに蒼乃もその姿に気づく。
「ひなちゃん!」
クラスメイトの才川日向だった。銀縁眼鏡が印象的な黒髪の女子生徒だ。蒼乃は律と遥に日向を加えた四人で過ごすことが多い。
「律に蒼乃ですか。もしかしてデート?」
日向は少し大人ぶった雰囲気がある。
「あははー、そうなんだ」
デートであることを律から認めてくれたので、蒼乃は安心した。
「ひなちゃんは買い物?」
「家族で夕飯を食べに来まして。そのついでの買い物です」
日向は十センチ差のある蒼乃の顔を見た。
「デートの邪魔をしてすみません。お邪魔虫はすぐに消えますので」
「や、お邪魔虫なんて思ってないよ!? ひなちゃん、また明後日ねー!」
スタスタと姿を消していく同級生に、蒼乃も小さく手を振る。完全に気を使われていた。
「他人からデートって言われると照れちゃうね」
少し頬を赤くした律は、とても可愛らしかった。
「そろそろ会計をしに行きましょうか」
「そうだね。ノート買いに来たんだった」
レジに向かうと、同じ目的だった日向と再度出会う。手を振った後なので少しだけ気まずかったが、特に会話はせずデートは続行となる。
そろそろ夕飯の時刻だった。




