055 -Ritsu-
夕食は豪勢にしなかった。学生の身分でお金がないこともあるし、律は普通の食事でも蒼乃と一緒であれば特別なものに感じられるから。
県内にもあるファミレスで、いつも食べるようなものを注文する。でも一応クリスマスだからと、鶏肉料理を頼んだ。
「やっぱりハンバーグは美味しいね」
「ハンバーグにチキンって少し重くないかしら」
「だってクリスマスだよ。チキンは食べなきゃね。まぁ、明日も実家でチキンが出るはずなんだけど」
毎年クリスマスは夕食で骨付きチキンが出る。父親のこだわりであった。
「律はイベントを大切にしてるのね」
「蒼ちゃんとだから大切にするんだよ」
言い切ると、蒼乃がほんのり顔を赤くした。
律はイベントを言い訳にして、蒼乃と一緒の時間を過ごしたい。宗教などはどうでもいい。理由があれば。
「そう考えると六月ってほんとイベントないよね。学校行事もないし。あ、県民の日があるか」
「どこ行っても混んでるけれど……」
「そう。小六の時に家族で夢の国に行ったんだけど、私もお姉ちゃんも友達にめちゃくちゃ会ったよ」
「! 私も小六の県民の日に夢の国行ったわ」
「おお、ということはすれ違ってたかもねー」
同じアトラクションに乗っていたりして。
「蒼ちゃんはデートで夢の国行きたい?」
行きたがる女子は多いと思い、律は聞いてみた。
「うーん。私は別に……。律が行きたいなら全然行くけれど」
気軽に行きたいと言えば、蒼乃はパーク内の情報を全部暗記してきそうだ。
「私は別に夢の国にこだわらないかな。遊園地もすごく楽しかったし」
夢の国も興味がないわけではない。パレードも素敵だと聞くし、暖かい時期なら行ってみたい。
「そろそろ行きますか」
蒼乃と今までの料金を精算し、ここの会計も済ませる。お店の外に出たところで蒼乃が怪訝そうな顔をした。
「律って寒がりでしょ」
「そうね」
首周りがもこもこしている。スカートも厚手の生地だ。
「どうして手袋しないの?」
「そんなの蒼ちゃんと手を繋ぎたいからに決まってるじゃん」
だから蒼乃も手袋をしないでいるのかと思っていた。
「寒いなら無理しなくても」
「大丈夫。繋いでない方はポッケに入れてるから」
蒼乃の手を強く握ってやる。やはり素手に限る。
「そう、それならいいけれど」
「目一杯蒼ちゃんが暖めてよ。さ、行こ」
行こうと言いつつも、目の前からすでにイルミネーションがすごかった。ゴールドのLEDが無数に光っている。どこからかクリスマスソングも流れてきていて、今日がただの平日ではないことを表していた。
「さすがにこれは圧巻だねー」
律たちは手を繋いだままイルミネーションの中を歩いていく。目的地は別にある。
「なんか今までで一番デートっぽい」
「クリスマスだもの。恋人たちの中では一番のイベントになるんじゃない?」
「来年もどこか綺麗なイルミネーションを一緒に見に行きたいね」
「もちろん」
蒼乃から「絶対ね」と念を押される。間違っても風邪を引かないようにせねば。
架線を越え、オフィスビルも増えてきたが、どこに行ってもキラキラしている。
律にはどこも同じ建物に見えていたが、正確に地図を覚えてきているだろう蒼乃が「あそこ」と一つの建物を指した。
「寒い寒い。早く中に入ろう」
「やっぱり寒いんじゃない」
蒼乃の手を引っ張り、少し駆け足になる。建物の中は電気代が心配になるくらい暖かかった。
「うわっ、でかいなぁ」
見えてきたのは誰が見ても同じ感想を抱く、全長十メートルを超えるクリスマスツリーだった。写真を撮り、居場所確認をしたがっている蓮に送りつける。すぐに既読がついた。怖い。
蒼乃と一緒に写真を撮ったけれど、もちろんツリーは画角には収まらなかった。背景が白く光っているだけだ。
「雪が積もってるみたいだね」
イルミネーションは白で統一されていた。
「今シーズンは雪は降るかしら」
わりと温暖な地域なので、あまり雪は降らない。降っても薄っすら積もるくらいなので、律は雪かきなるものを数回しか体験していなかった。
「降ったら何する? 雪合戦? かまくら?」
「そんなには降らないでしょう」
「降ったとしたらなにしたいー?」
蒼乃は特にやりたいことがなさそうだった。考えた末に「彫刻」と答えた。なにを作ってくれるんだろうか。
「そろそろ帰りましょうか」
確かにあまり遅くなると相澤家に悪い。律たちは高校生なのだから、夜遊びはよくなかった。
蒼乃の案内で地下に降りる。地下から駅に行けるらしい。だだっ広い地下空間はダンジョンを彷彿させる。
地下はカップルよりもサラリーマンが多いように見えた。まだ平日の真ん中で、みんな疲れているように見える。
「帰ったらサンタになるのかな」
サンタの存在を知った律には、黒いスーツが赤い服に見えてきた。
「……蒼ちゃんの家にお邪魔するのドキドキしてきた……」
もうあとは帰るだけだと実感して、緊張してきた。律は人見知りでもある。蒼乃の家族に会うなんて、よくよく考えなくてもビッグイベントである。
「まだ一時間近く先の話でしょ。今から緊張しないでよ」
蒼乃と繋ぐ手に冷や汗が流れる。
なんと挨拶すればいいのか。今からなにか考えておかなければ。
「りーつ。聞いてる?」
「聞いてる……」
蒼乃が律の腕に抱きついてきた。
「こんな感じで帰る?」
「私が親ならびっくりしちゃうねぇ」
「そうね。普通に帰りましょう。気負うことなんてないから」
そんなこと言われても、律の緊張は解けなかった。




