054 -Aono-
目的の駅に着く。プラネタリウムまでの場所は頭に入っている。上映時間までも余裕があったので、律の手土産になる紅茶を選びに行った。
毎日紅茶を飲むからと言っても、蒼乃自身が紅茶に詳しいわけではない。律に「何がお好き?」と聞かれても「普通の」としか答えられなかった。
「フレーバータイプのではないわね」
「それでも種類たくさんあるし……パッケージで選ぼうかな」
優柔不断なところがある律は、パッケージでも悩み抜いた。
蒼乃は店の外に目をやる。都会は地元と違いたくさんのカップルが彷徨っている。みんな浮かれている。
「お待たせ」
会計が終わった律が駆け寄ってきて、当たり前のように蒼乃の手を取る。店員さんが少しびっくりしていた。
「いいの買えた?」
「見た目がいいやつにしたから中身は分かんない」
蒼乃は見せつけるように腕を組み、店をあとにした。
「街なかキラキラしてるね。電気代すごそう」
「……確かに電気代値上げと聞くものね」
人混みで離れないように、お互い密着して歩く。公式サイトに載っていた案内を頭の中で思い出し、律を先導していく。プラネタリウムまで五分とかからなかった。
「プラネタリウムは小学生ぶりだなー」
宇宙を模した空間に、律のテンションは上がっているようだった。
「さ、行きますか」
屋内では律がリードをしてくれるらしかった。蒼乃は素直に引かれる手についていく。
「ちゃんとペアシートにしましたからね。や、でも思ったよりペア感強いな」
楕円形の厚みのあるソファ、というよりベッドだった。枕の代わりにクッションだったけど、寝転がるんだからベッドと言った方が正しい。
律が靴を脱ぎ、膝をついて、手をついて、ハイハイをして横になった。
「いい眺めだね」
本当に、と思う。このまま覆いかぶさりたいという気持ちを抑えながら、蒼乃はゆっくりとシートの上に腰を下ろした。まさに蒼い色のシート。
少しヒールのある靴を履いていたので、脱げてほっとした。
「律」
こちらを向いた律の写真を撮った。
「もう。どうせなら一緒に撮ろうよ」
律の手が伸びてきて、蒼乃の腕を引く。蒼乃も体を倒して、横に並んだ。片腕を律に回し、スマホをなるべく引きながら器用にボタンを押す。
「コート脱いでいい?」
さすがに室内は空調が効いているのか暖かい。律も「忘れてた」と言って、マフラーとアウターを脱ぐ。フードが見えていたから知っていたけど、暖かそうなパーカーを着ている。
律の私服は動きやすいアクティブなものが多い。靴は基本的にスニーカーで、上はパーカーが多い。
蒼乃の私服はと言うと、全体的に大人っぽいトーンでまとめてある。デートの時はヒールも履くので、律との身長差が広がる。
「カップルしかいないよ」
律が辺りをきょろきょろと見回す。
緊張しているのか、律の落ち着きがない。蒼乃は彼女の手に自分の手を重ねた。
「私たちもカップルでしょ」
学校ではカップルを通り越して、夫婦呼びされている。
「そうでした」
二人でシートの背もたれに寄りかかる。
「蒼ちゃんは星詳しいの?」
「全然」
「私も星座占い気にするくらいかなぁ」
星座占いは少し違う気がする。
「私、おうし座。蒼ちゃんはなに座?」
「しし座」
「かっこよくていいなー。私なんて牛だよ。牛乳嫌いなのに」
どんどん関係のない話になってきた。
「星座も相性あるって言うよね。蒼ちゃんはそうゆうの信じたりする?」
「あまり……律は?」
「いい話は信じるかな。朝の占いで運勢が良い時は信じるよ。でも血液型の性格とかは信じちゃうかも」
血液型の話もしたことがなかった。蒼乃は血液型による性格分析を信じてはいないが、律の血液型を予想する。二択で迷った。
「蒼ちゃんはずばりA型だね」
「当たり。ぽいかしら?」
「ぽい。きちんとしているところがね。さて、私はなに型でしょうか」
「……O型?」
「あはは、大雑把だからそう思ったんでしょう。ぶぶー違います。正解はB型でした」
悩んだうちの一択が正解だった。
しかし、蒼乃も聞いたことある相性の話で言うと、A型とB型はあまりよろしくなかった気がする。律も同じだったようで、苦笑いを浮かべていた。
「血液型とか関係ないよね。私と蒼ちゃんは仲良しだもの」
手を力強く握られる。
館内にアナウンスが入り、次第に部屋の中が暗くなる。見計らったように、蒼乃は律の方へ体を寄せた。
天井には無数の星の海が照らし出されていた。蒼乃が小学生の頃、校外学習で行った地元のプラネタリウムとは規模が違う。都会の方が、やはりオシャレな演出だった。
隣から「綺麗」と囁くような声がする。蒼乃も「そうね」と返す。お静かにと事前の注意事項であったが、これくらいはいいだろう。
いつか本物の満天の星を見たい、などとロマンチックなことは思わなかったけれど、プラネタリウムにまた律と来るのはいいなと思えた。
上映時間は五十分。映画と比べれば短いかもしれないが、ゆったりしている時間としては妥当な時間だった。律が寝起きのように腕を伸ばしている。脇腹を突っついてやった。全然怖くない「やめて」が返ってくる。
「市営のプラネタリウムとは違ったね」
「しょうがないわよ。ここは東京だもの」
「違いない。なんかグッズが売ってるところもあるみたいだけど見てみる?」
「えぇ」
手を繋ぎ直して、蒼い空間を歩く。
売店にはどうやら星などをあしらったグッズが売っているらしい。どれもキラキラと光っていて、女性の心を掴んでいるようだ。
そこで律の心を掴んだのは意外なものだった。
「ネイル?」
手や足の爪に色をつけるネイルである。言うまでもないが校則では禁止されている。
「蒼ちゃんもネイルまではしてないよね」
「管理が少し面倒くさいのよね」
「そうか。そうだね」
何事もなかったように、棚に瓶を返却しようとする律の腕を止める。
「律、一つ買って一緒に塗りましょう」
「でも冬休みすぐ終わっちゃうよ」
「足の指なら塗っててもバレないでしょ」
「蒼ちゃんは不良の天才だなぁ」
律が「何色にする?」と問いかけてくる。蒼乃は律が何気なしに手に取った青緑色、つまり蒼色の瓶を指す。
「これがいい」
「私もこれがいいと思ってた。蒼ちゃんのお家に行ったら塗りっこしようね」
そう言えば、律の足の爪を見たことはないかもしれない。……確かにないはず。いや、お祭りに行った時が素足だった。浴衣に見惚れて細かく見れていなかった。
会計を終えた律がネイルを大事そうに、鞄にしまった。
空は大分暗くなってきた。律が「お腹空いたね」と言うこともあり、寄り道をせず夕食を食べることにした。




