053 -Aono-
駅の改札内で律と待ち合わせをした。ここにくるまで意外とクリスマスムードはない。今日は平日で、大人のみなさんは働いているからかもしれない。
「蒼ちゃん、お待たせ」
今日も蒼乃の彼女である律は可愛らしかった。ロングスカートの下は靴下なのかタイツなのか気になったが、理性がまだ機能しているので覗くことはしない。
「蒼ちゃんのコート可愛いね。すごく似合ってるよ」
「律も可愛い」
服は何を着ても可愛い。元が可愛いのだから、可愛くないわけがない。
そんなわけで浮かれ気味の蒼乃は、律の手を引いて電車に乗る。行き先は都内だが、新宿よりはずっと近い。始発電車だったので、端っこに律を座らせた。
「今日は楽しみなことがたくさんあるから大変だね」
今日の大まかな日程は、プラネタリウムに行き、外食をし、イルミネーションを見て、律を連れて相澤家に帰る。同じ家に帰る。家族がいるけれど胸は高鳴る。
「蒼ちゃん、家にお邪魔する前になにかお土産買いたいんだけど、お母さんと妹さんの好きなものってなに?」
正直、同じ家で暮らしていても詳しくは知らなかった。ただ、相澤家で習慣化されているものはある。
「毎朝みんな紅茶を飲むわね」
「紅茶か。どこかで買えるかな」
律がスマホを取り出す。ロック画面は蒼乃のままだった。ちなみに待ち受けは二人で一緒に撮った写真だ。
「駅の周りで買えそう。寄っていい?」
「えぇ。時間には余裕があるからゆっくり見てみましょ」
クリスマスなんて毎年図書カードをもらうだけのイベントだった。父親が単身赴任でいないせいか、大々的に執り行ったりしない。サンタの存在も小学生に上がる頃には分かっていた。
「蒼ちゃんの妹さんってどんな感じ? 蒼ちゃんと似てるの?」
「あまり似てるって言われたことないかも」
「私はよくお姉ちゃんと似てるって言われる」
律の方が可愛いけど、確かに雰囲気は似ていた。どちらも美形。
「私と蒼ちゃんってあまり似てるところないよね」
「そうね……血縁上の繋がりはないから。でも二人とも手が大きくて指が細い」
蒼乃は繋いでない方の手を広げる。すると律もスマホをしまい、手を重ねてきた。少しだけ蒼乃の方が大きい。ついでに靴のサイズも同じ。
「あとはそうだなぁ、同じくらい好きってことかなー」
蒼乃と同じくらい想ってくれてるなら最高に幸せだった。
「今日もとても楽しみにしてまして、朝早く目が覚めてしまったので、ちゃんと昼寝をしました」
「何よそれ」
「だって今日早々に眠くなったらもったいないでしょう。寝溜めです」
律が眠いと言っても、はなから寝させるつもりはない。
「今日家出る時にね、お姉ちゃんに捕まったの」
「でも全然早くに来たじゃない」
「抱きつかれて行かないでって泣かれたから、蹴り飛ばして出てきた。明日帰ったらまた泣かれるかもしれない……」
姉を蹴飛ばすなんて強い妹だなと思う。蒼乃の妹は、蒼乃と似て普段は物静かである。
「昨日なんて同伴するって言ってくるんだよ。どこの世界にデートに姉を連れてくるやつがいるんだって話だよね」
「お姉さんはデートじゃないの? 彼氏さんいるんでしょ」
「明日どっか行くとか言ってたかな。ドライブデートだって」
「ドライブか……」
移動式の密室という見方しかできない。
「私、受験終わったら車の免許取るわ」
「助手席は私ねー」
「律は取らないの?」
「私は……車を運転する系のゲームも苦手だし、アクセルとブレーキ間違えるタイプだと思うんだよ……」
本当にやりかねない気がするので、運転は蒼乃が担当しようと決めた。
「律、他の人の助手席に乗らないでね。いや、後部座席もダメ」
「父親の運転する車と、公共交通機関は許してほしい」
「いい? そこまで送るよとか言われても、絶対に乗っちゃダメだから」
「分かったよ、乗らないよ」
可愛い彼女を持つと何もかもが不安になる。律の姉もこの気持ちを抱えているのだろうなと、最近親近感を抱き始めていた。
「ドライブデートできるようになったらいろんなところ行きたいね」
まだ手に届く範囲も回りきれていないというのに、律は新しい提案をしてくれる。
「あとお酒飲めるようになったら、蒼ちゃんとも飲みたい」
「それは違うわ、律。私とだけ飲んで。私がいないところで飲んじゃダメ」
「蒼ちゃんが弱い可能性もありますが?」
「それなら二人きりの時にだけ」
律は小さく笑った。いや、冗談ではない。
「蒼ちゃんは早く大人になりたい?」
「なりたい」
律といろんなことをしたい。不埒なことはもちろんだが、そうでないことも、早く自由になりたい。だから大人になりたかった。
「私は今でも幸せだよ」
まだデートが始まって間もないのに、蒼乃は絆されそうだった。




