052 -Ritsu-
クラスメイトと「良いお年を」と挨拶をし、蒼乃とは「また明日ね」とハグをして分かれた。帰路につかないまま向かったのは、学校からバス一本でいける駅だ。ここなら万が一にも蒼乃と鉢合わせすることもない。
待ち合わせ場所にいたのは、わざわざ部活を休んでまで時間を作ってくれた親友の遥だ。
「ごめん、はるちゃん!」
「いやいーって。でも二人で会ってることバレたら、あたし刺されそうなんですけど」
「その時は……私が土下座でもなんでもするから……」
遥と二人で出かけるのもかなり久しぶりだが、慣れ親しんだ居心地の良さを感じる。
「目星は?」
「まったく……蒼ちゃんが私以外になにを欲しているのか分からない……」
「それはそれで異常だね。蒼乃の好きなものかぁ」
ひとまず歩き出した。駅直結のデパートに入ってみることにする。少子高齢化のせいか、デパートもずいぶんと年齢層が下がった。
「蒼乃の好きなものなんて、本くらいしかあたし知らないよ? りっちゃんは?」
「チョコ、本、私」
「もうりっちゃんのことは分かったから、引き合いに出さなくていいよ。胸焼けがする」
律も蒼乃の好きなものを必死に考える。ピアスは前にあげてしまったし、欲しい本も分からない。
「アクセサリーとかは? 蒼乃、指輪とかもらったらすごく舞い上がると思うけど」
「さすがにまだ指のサイズ知らない……」
「いつ必要になるか分からないから、こそっと測っておいた方がいいよ」
「どうやって」
「紙をこう細長く切って、巻いて印をつけるの。その長さで何号って分かるから」
「はるちゃんはそんなことまで知ってるんだね」
「常識だよ」
目についたお店に入って、鞄やポーチ、アクセサリーなどいろんなものを見ていく。可愛い手袋とかあったけど、手を繋ぐために手袋をしてくれなさそうだったので断念した。
「でもまさかりっちゃんに恋人ができる日がくるとは……去年まではそんなこと微塵も考えなかったよ」
「私だって考えてなかったよ」
「恋愛してみてどう?」
「うん、楽しいよ」
雑貨屋を三箇所、本屋を一箇所、アクセサリー店を二箇所回ってみた。それなりに収穫はあった。マフラー、水筒、ブックカバーが候補に挙がる。
「身につけてもらうならマフラーだけど、季節を選ばないのは水筒とブックカバーだよねー」
休憩用の椅子に腰掛け、律は唸る。
「値段も大差ないから悩んじゃうよね」
遥の言う通り、差がつくポイントがない。
「はるちゃんはどれがいいと思う?」
「それはりっちゃんが悩まなきゃダメでしょう」
律の頭の中で候補の三品がぐるぐると回る。あけた時のシミュレーションをしてみても、どれも同じくらい喜んでくれそうだ。
悩みに悩んで、律はプレゼントを決めた。
「水筒にしようかな」
「その心は?」
「学校で使ってもらえるから」
「いいと思うよ。それなら色を選びに行きますか」
一度立ち寄った雑貨店に戻る。外身はマットな質感をしていて、色の種類も多い。無難なグレー、名前から取ったブルー、律が個人的に気に入ったホワイト。またもや三択だった。蒼乃が使っているところを想像する。どれも良しだったので解決にはならない。
結局、最初に手に取ったグレーを選んだ。レジで会計を済ませ、ラッピングを頼む。
「はるちゃん、本当にありがとね! おかげで無事にクリスマスを迎えられるよ」
「お役に立てたなら本望です。蒼乃ならきっと喜んでくれるよ」
正直なところ、律があげたものであればなんでも喜んでくれそうだが、だからこそ実用的なものがよかった。
ラッピングはすぐに終わり、商品を受け取る。
「はるちゃん、なにか食べていく? お礼におごるよ」
「ほんと? でも蒼乃に刺されない?」
「刺さないよ」
律は「多分」と小さい声でつけ足す。遥は苦い顔で笑った。
二人は駅チカにあるカフェに入る。中学の時は外でゆっくりお茶をすることなんてなかった。今よりもっとお小遣いが貴重であったし、どうせ家が近いのだからカフェを選ぶ理由がない。
「またメロンソーダなの」
「これはクリームソーダだよ。普通のメロンソーダはなかったよ」
律はクリームがメロンソーダに溶ける前に食べてしまおうと手を動かす。
遥はカフェラテを頼んでいた。遥がコーヒーを飲めるということを律は初めて知る。
「りっちゃんたちはいつもどんなデートをしているの?」
「放課後は教室かフードコートで喋ってることが多いかな。土日は買い物したりかな」
普段は女子高生らしいことをしている。手や腕を絡めて歩いたり、ハグをしたり、同級生のラインを越えたことはしているものの、大きく逸脱はしていないと思われる。
「最近蓮ちゃんはどう?」
「出かける度に「デートかっ!」ってうるさいよ。たまにつけてくるから走って撒いてる」
「普通の姉妹がすることじゃないね。蓮ちゃんを見ていると一人っ子でよかったなと思う」
遥が言うと重みがあった。父親は律が知る頃からいないし、母親も多忙でほとんど見かけたことがない。
「あたしにとってはりっちゃんが妹みたいなもんだし!」
「えー私の方が誕生日早いよー」
とは言いつつ、遥は律よりもずっと大人びていた。大人にならざるを得なかったのだけど。
「りっちゃん、冬休みをエンジョイするのは勝手だけど、宿題はちゃんもやらないとダメだよ」
「いつも蒼ちゃんにノート見せてってせがんでる人がよく言う」
「あたしはほら、部活っていう名目がありますからね」
「反則だぁそれ。ていうか、ノート見せてもらう代わりに蒼ちゃんに写真送ってるでしょ!」
容姿に執着をしない律であっても、昔の写真を彼女に晒されるのは恥ずかしい。
「いいじゃん、減るものじゃないし。ていうか、蒼乃がりっちゃんの家に来た時に卒業アルバム見なかったの?」
「みつからなかったからね。見てないよ」
ファーストキス云々で、お互いそんなこと忘れていた。蒼乃の家にお邪魔した時も同様である。
「りっちゃんだって彼女の昔の写真見たいでしょ」
「それは見たい……」
今の髪の長さ的にずっと髪は長いのかなぁとか、ランドセルは何色を選んでたかとか、中学の制服はどう着こなしてたかとか、いろいろ知りたいことはある。
「でも私は蒼ちゃんの写真を見てないのに、蒼ちゃんだけ私の写真を見るのは不公平だ」
「蒼乃に頼んでみたら? 意外と見せてくれるかもよ」
遥は「お腹空いちゃった」と言い、追加でパンを買ってきた。夕ごはんをここで済ませるつもりなのかもしれない。
「はるちゃん、ちゃんとごはん食べてる?」
「お母さんか。食べてますよ、毎食ね」
「前みたいにうちに来ていいんだよ。母さんもはるちゃん来ると喜ぶし」
「もう。蒼乃の前でもこの話しちゃダメだからね。あたしだって料理できるようになったし、そんな心配なさらんで」
親友に気を使われたくなかったが、律のせいなので強くは出れなかった。
「でもたまに来る唐揚げの宅配便は楽しみにしてまーす」
「また母さんに頼んでおくね」




