表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイザワ夫婦は全校生徒から祝福されている  作者: 妖精卿
相沢律は気を使われる
50/58

050 -Aono-

 十二月に入ると同時にテスト期間に入った。蒼乃(あおの)が見る限り、(りつ)の様子は上々だった。(しり)に火がついてから頑張る子みたいだった。


 そして、見事に(りつ)が全教科赤点を逃れたことを確認し、蒼乃(あおの)は重くのしかかっていた責任から逃れることができた。自分の勉強は自分が頑張ればいいのだから、そこまで気は重たくならない。


「いやぁ(あお)ちゃんのおかげで無事乗り切れたよ」

(りつ)が頑張ったからよ」


 どうしてもっと早くにエンジンをかけてくれなかったのかというくらい、今回の点数は高かった。平均点近くまで伸びている。これには担当の八重樫(やえがし)も驚いていて、「頭でも打ったの?」と言っていた。


「清々しいですな」


 (りつ)の気持ちはそうかもしれないが、場の空気はとても清いとは言えなかった。今日は全校生徒で大掃除をする日である。あたり一面ほこりだらけ。


 蒼乃(あおの)(りつ)と同じ掃除班で、音楽室の担当だった。今は二人で音楽準備室の掃除をしている。蒼乃(あおの)の中で、以前(りつ)が言ったことが渦巻いている。事を()すなら音楽室がいいと。


「一年でこんなに汚くなるかね。これ絶対去年担当だった人サボったよね」


 (りつ)は真面目に雑巾(ぞうきん)で棚を()いている。多分、蒼乃(あおの)みたいに不埒(ふらち)なことは考えていない。


「中学の時、特別仲の良かった先生って、音楽の担当だったんでしょ」


 (はるか)から聞いた話を背中にかけると、(りつ)の動かしていた手の動きが(にぶ)くなった。(りつ)がチャーハンの作り方を教えてもらったという先生も同一人物だろう。


「まぁ確かに、音楽の先生とは良い関係を築いてたと思うよ」


 どうも締まらない言い回しだった。(りつ)動揺(どうよう)が面白くて、蒼乃(あおの)はつい意地悪をしたくなる。


「何ていう先生だったの?」

「……吉田美樹(よしだみき)先生」

(りつ)は何て呼んでたの?」

「…………美樹(みき)先生」


 やはり下の名前呼びかと、蒼乃(あおの)は心の中で舌打(したう)ちをする。


「八つしか違わなかったんだものね。それは仲良くなっても仕方ないわね」

「仲良くって言ったって……卒業後は一回しか会ってないよ」


 その話は聞いてない、聞いてないと蒼乃(あおの)は目を丸くした。蒼乃(あおの)の感性からしたら、中学の先生と卒業してからわざわざ会うことなんてことしない。からかうつもりで質問をしていたが、ここからは詰問(きつもん)に変えなければならなかった。


「会うってことは、連絡先交換してるのね」

「まぁ……でも聞いたのは卒業式の後だよ。私以外だって交換してたし……」

「で、いつ会ったの?」

「ゴールデンウィークの終わりだったかな。二人とも誕生日が連休にあったものだから、一緒にご飯しようって」


 蒼乃(あおの)もしていないことを、教師にされていて愕然(がくぜん)とする。ショックでもあったし、煮え切らない嫉妬心もあった。


「いや、美樹(みき)先生も婚約者いるし、本当になんもないよ?」


 蒼乃(あおの)の前だというのに、未だに名前呼びをすることに少々腹も立ってきた。


 本人がどんな言い訳をしようと、日向(ひなた)のお墨付(すみつ)きもあるくらい(りつ)は可愛いのである。婚約者がいようとも、その教師が(りつ)に対して(よこしま)な気持ちを持っていないとは言い切れない。


「私ね、音楽の成績もあまりよくなくて。手がかかる生徒だったんだよ」


 (りつ)の目が泳いでいる。八重樫(やえがし)以上に、吉田(よしだ)という教師が(りつ)の近くにいることは何となく分かった。蒼乃(あおの)は頭の中で冷静な理論を構築していく。付き合う前の(りつ)の距離感、周囲からの愛され具合、友達でもないのに二人で会う関係。


 間違いなく――


「手は(つな)いだことあるでしょう」


 蒼乃(あおの)の言葉に(りつ)は「なんで分かったの?」という顔をする。もう少し(かく)す努力もしてほしい。蒼乃(あおの)は大きなため息をついた。


「付き合う前のことにどうこう言わないけれど」


 言ってるかもしれないけれど。


(りつ)の恋人は私だけだからね。愛人とかなしだからね」

「そんなのないよー」


 (りつ)が可愛い顔をして笑うものだから、蒼乃(あおの)は掃除の時間ということを失念した。片手に雑巾(ぞうきん)を持っていようと関係ない。(りつ)の胸ぐらをつかんで自分に寄せ、キスをした。


(あお)ちゃん!?」

「私のこと忘れないで、片時も」


 忘れないようにもう一度キスをした。

 掃除は全然進まなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ