005 -Ritsu-
土曜日の夜。夕食も食べ、シャワーも浴びた後の自室。時刻は九時過ぎ。
相沢律は悩みに悩んでいた。ベッドの上に何枚も洋服を広げ、悩んでいた。原因はそう、〈デート〉という言葉だ。今日の昼まではいつも通り蒼乃と出かけるつもりでいたが、夕方になって姉がデートの服の相談なんてしてくるから混乱した。
経験豊富な姉に相談する? いやいや、そんなことすれば根掘り葉掘り聞かれてしまう。悩んだ末、律は幼馴染に電話をかけることにした。時間が遅くないならここまで来て選んでほしかったが、さすがに自重した。それに蒼乃と付き合っているのに、遥を部屋にあげていいのかなと悩んだのも一つだ。
『もしもし。りっちゃんが電話なんて珍しいね』
メッセージを送ろうかも悩んだが、細かくアドバイスをもらいたかったため通話にした。
『何? もしかして蒼乃とデート行くから服に悩んでるとか?』
もしかしたらこの部屋には盗聴器が仕掛けられているのかもしれなかった。
「なんで分かったのさ」
『蒼乃からデートに行くって聞いてたから』
いつの間にそんな話をしていたんだろう。蒼乃と遥は、律が思っているよりも仲が良いのかもしれない。
『さすがにジャージとかで行かない限り、蒼乃は何でも喜ぶと思うよ?』
「そういうことを聞きたいんじゃないの」
具体的な案が欲しい。このままでは律は寝ずに夜を明かすことになってしまう。
『いつも二人で遊んでるじゃん。絶対にりっちゃんの方が蒼乃の好みを知ってると思うけどなぁ。そうだなー、きっとパンツよりスカートの方が喜ぶよ』
「そうなの?」
『あたしなら可愛い彼女にはスカートをはいてほしい。あ、でもパンツルックで変化球狙われるのもいいかも』
「どっちなの!」
電話先で遥はけらけらと笑った。律をからかって遊んでいるようだ。
『りっちゃんは可愛いんだから、可愛い系の服を着れば可愛さ二乗だよ。ほら、白いワンピース持ってたでしょ? あれにしなよ。絶対ウケるって』
ちょうどベッドに出しているうちの一枚だった。
「でもこれって丈が少し……短くない?」
『だからいいんじゃん。あ、ストッキングとかはいちゃダメだからね。まだまだ夏なんだし、生足でいかないと』
九月は夏なのか。三十度超えと暑いから夏でいいのか。生足なんて正直制服で見せている。今さらアピールするものなのかと律は疑問だった。
『髪もせっかくだからアレンジしなよ』
「私そんなに器用じゃないよ」
『蓮ちゃんにやってもらえば?』
蓮とは律の三つ上の姉のことだ。
「嫌だよ。あれこれ聞かれる。それにお姉ちゃんも明日デートだって言ってたから、頼んでもやってくれないと思う」
『そっか。じゃあ髪型はおいおい課題として……、あんまり深く考えずに楽しんできなよ』
「うん、そうする。ありがとね、はるちゃん」
『アドバイスした分、何があったかは教えてね』
「なっ、なんもないよ」
『まだ分かんないじゃん。きっと蒼乃はりっちゃんが思っているよりもりっちゃんのこと好きだよ』
律にとって少し重たい言葉だった。責任があった。その責任を負えるほど、律の覚悟が足りているのか分からない。
その後、遥は三十分ほど律のお喋りの相手をしてくれた。考え過ぎないように気を使ってくれたのかもしれない。
当然、長年の幼馴染である遥のことを律は好いていた。それが蒼乃に向ける好意とどう違うのか悩んでいる。
「そろそろ切るね。はるちゃん、ありがとう」
『全然。寝坊しないようにするんだよ』
「約束は午後だよ。おやすみね、はるちゃん」
『おやすみ』
通話が終わり、部屋に静寂が訪れる。ずっと耳に当てていたスマホ画面を見て気がつく。蒼乃からメッセージが入っていた。
『明日楽しみにしてる』
たったそれだけの言葉に、律は体があったまるのを感じる。蒼乃からのメッセージが嬉しいと思えたことに安堵した。
『私も楽しみにしてるね』
明日の服も決まったことだし、……まずは服で散らかした部屋を片付けよう。片付けはあまり好きでなかったが、律の心は無意識に躍っていた。




