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049 -Ritsu-

 (りつ)の姉である(れん)は夕飯時には帰ってきて、妹と並んで食事をした。その後、(りつ)がソファでスマホをいじっていると(となり)に座ってテレビを見始めた。


「お姉ちゃん、バイトって楽しい?」

「楽しいわけないよ。生意気な子供の面倒みるだけなんだから」


 (れん)は塾講師のアルバイトをしている。ストーカー基質(きしつ)の姉だが、これでも頭はいい。


「なに? りっちゃん、バイトするの?」

「うちの学校はバイト禁止だよ」

「校則意識するんだったら、スカートをもっと長くした方がいいとお姉ちゃんは思います」


 もはや昭和のオヤジみたいなことを言う。いや、昭和のオヤジだって本当はスカートが短い方がいいと思っているに違いない。


「でもりっちゃんがバイトする時は教えてね? ちゃんと事前リサーチしてくるから」


 大抵のところは不可とされそうだった。


「ちなみにどこなら働いていいの?」

「職場がママさんたちのところとか」

「給食センターかな」


 真面目に(れん)の話を聞いていてはなにもできない。


「お姉ちゃん」


 (りつ)はスマホをテーブルに起き、(れん)の方に向き直る。せめて形だけはちゃんとしようと、ソファの上で正座をした。


「なに?」


 (れん)は今からする話をまったく予想していないようで、テレビをぼーっと見つめている。番組は昔から放送されている歌番組だった。


「私、恋人ができました」


 テスト前にバレるのも、せっかくのデートのあとにバレるのも嫌だったので、しっかりと告白することにした。


「は?」


 テレビの電源が落とされる。部屋には母親が洗い物をする音だけが流れていた。


「なんて?」

「だから、私に恋人ができました」

「どこの馬の骨!?」

「骨は人間だけど……」

浮気(うわき)かっ!」

「まったくもって浮気じゃないですね」


 彼氏がいるくせになにを言ってるんだ。


「どこの誰?」

「えーそこまで聞く? 私、お姉ちゃんの歴代の彼氏の名前知らないよ」

「じゃあ今言うね。最初の彼氏は高校の時の――」

「いや、いいから。いらないから今さらそんな情報」


 (りつ)的にはこのあたりで話を止めるのが理想であった。


「いやいや(だれ)よ。まさか歳上(としうえ)に手ぇ出されたりしてないでしょうね。犯罪だよ、犯罪」

「同い年だよ……合法だから」


 テーブルの上で(りつ)のスマホが鳴った。ギリギリまでやりとりをしていた蒼乃(あおの)からだと思われる。


「彼氏か!」


 食いついてきてしまった。(りつ)は「(だれ)でしょうね」とすっとぼけたが、(れん)の腕がスマホに伸びる。それはとてもよくない。


「不正アクセス禁止法!」


 普通だったら覚えなくてもいい法(りつ)の名前を叫ぶ。そんな法一つで、(れん)の行動は止まらない。スマホを持った(れん)の手を(りつ)が押さえる。ちゃんとスマホを裏返して置いといてよかった。


「彼氏じゃなくて彼女だな」


 痛いところを突かれ、腕の力が(ゆる)んだ。手加減を知らない姉は、妹のスマホを引ったくると電源ボタンを押した。そこにはメッセージの通知なんかよりも堂々とした証拠があった。普通、ただのクラスメイト写真をロック画面にはしないのである。


「やっぱり」


 そう言われるだけの情報はばらまいていた。まず誕生日プレゼントがそうだった。(りつ)蒼乃(あおの)折半(せっぱん)しているのだから、普通おかしいなと思う。


「美人だからってお姉ちゃんは許しませんよ」

「いや、そもそもお姉ちゃんの許しはいらないと言いますか」


 反対されようと別れる気はない。


「あぁ……あんなにお姉ちゃんお姉ちゃんって後ろをついてきたりっちゃんが……」

「りっちゃんりっちゃんって後ろから追いかけてきたのはお姉ちゃんでしょ」

「細かいことは気にしない。そんなことどうでもいいの」


 支離滅裂(しりめつれつ)で困る。


「とにもかくにも、私は(あお)ちゃんと真剣に交際していますので、ご承知ください」

「え、普通に嫌」


 真顔で拒否してくる(れん)に、後ろから影が忍び寄り頭に拳骨(げんこつ)が落ちた。


「あんたは過保護過ぎ。大人しく応援してやんなさい」

「母さんは知ってたの?」

「ほら、(れん)は早くシャワー浴び的な」


 (りつ)は母に感謝して、スマホを取り返して自室に逃げ込んだ。


『お姉ちゃんに蒼ちゃんと付き合ってることカミングアウトしたよ』


 急いで蒼乃(あおの)にメッセージを送る。


『お姉さんは何だって?』

『嫌がって母さんに(しか)られてた。でもこれで堂々と(あお)ちゃんとデートできるよ』

『でも(りつ)の家には行きづらいわね』

『それは本当にうちの姉がごめん』


 ごめんねのスタンプを送り、(りつ)は背中を壁に預ける。壁の向こうは姉の部屋だった。


 落ち着いたら、(れん)にも(りつ)の恋路を応援してもらいたいなと傲慢(ごうまん)なことを考えた。

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