047 -Aono-
律の体調が全快したところで、蒼乃たちは放課後デートにきていた。特段用事というものはない。二人で過ごすことが主目的だった。
「あっという間に寒くなったねぇ」
律はマフラーを巻いている。上半身は暖かそうだけれど、下半身は寒そう。スカートが短い。蒼乃的には生脚が見えた方が嬉しいが、冷えて体を壊してほしくない。
「蒼ちゃんの手はあったかいね」
蒼乃は思わず両手で律の手を握る。改札の手前で動きが止まる。迷惑な客だった。
「改札通れないでしょ」
一度手を離してバラバラに改札を出た。それからすぐに律から蒼乃の体に抱きついてくる。彼女は付き合う前から、物理的な距離が近かった。
頭を撫でてやると律は体を離して、手を絡めてくる。
「蒼ちゃん、何か食べようよ」
「フードコートにでも行きましょうか」
この時間は制服姿の少女たちをよく見る。蒼乃たちも集合の一部であるが、ここまで密着している個体はない。
フードコートに行く途中、生鮮食品のコーナーを横切っていく。まだ二人には縁のない場所である。普段買い物に来ないからか、律は物珍しそうに野菜を眺めている。
「いつかこうやって蒼ちゃんと買い物に来るかねー」
律は気軽に言ってくれる。蒼乃が言うとどうしても重みが出てしまう。
「早く一緒に暮らせたらいいね。大学に入る時、一緒に住めるかな。建前、別の部屋にはなるなもしれないけど、寝る時は一緒がいいなぁ」
一緒に住んで、一緒に寝たら、蒼乃の気持ちをセーブできるだろうか。……できない。
「最近は卵も高くなってるって、母さん言ってた」
律が卵の棚を覗き込む。蒼乃も棚を見てみたが、さすがに相場までは分からなかった。
「今日は何食べよっか」
「律の好きなものでいいわよ」
「蒼ちゃんはいつも私に選択権を譲ってくれるね。たまにはわがまま言っていいんだよ」
それなら「律」と答えたいところだった。
「ナゲットとか?」
「それはいいね。えーっと今は五ピースか十五ピースだって」
「五ピースでいいでしょ。私、二つでいいから」
「優しー」
ナゲット一ピースで感謝されるなんて安いものだ。
やはり高校生で賑わうファーストフード店でナゲットとドリンクを購入し、フードコートの一角に陣取った。もちろん横隣に座る。そして、律はやはりメロンソーダを注文していた。
「律、今日の小テストはまともな点数だったみたいね」
「そうなのさ。私だってやる時はやるのですよ」
「次のテストこそ頼むわよ」
曖昧な返事が律から返ってきた。
「律が赤点取ったら、本当にクリスマスデートはしないし、私ももっと怒るからね」
トーンを落として真面目に伝える。律は罰が悪そうに「はい」と答えた。
「ちゃんと私が教えるから。頑張りましょ」
律の口に食べかけのナゲットを押し込んだ。
「クリスマスデートはどうする?」
外堀を埋める再び作成を実行していく。
「イブとクリスマス、両方デートしてくれるんでしょ」
「もちろん、二日とも空けてあるよ」
「よかった。それなら二十四日の夜、うちに泊まりに来ない?」
律が間抜けな顔をする。どうも話が飲み込めていないようだ。
「泊まり?」
「泊まり。あ、もちろん母親と妹はいるけれど」
なぜか律は胸を撫で下ろしていた。
「いいよ、行くよ、行きます。帰ったら母さんに話しておくね。そっちに電話しろって言われるかもしれないけど」
「いつでも電話してちょうだい」
「お泊まりするなら……二十五日は蒼ちゃんの部屋でゆっくり過ごしたいな」
ホラー映画でも厳選しておこうかなと思う。
「二十四日はどこに行く?」
律の意見が聞きたい。顔を少し彼女に近づける。
「えっと、どこがいいかな。イルミネーションとか見に行くのはどうかな。きっと綺麗だよ」
デート慣れなんてしていないはずなのに、随分とロマンチックな提案だった。
「大々的にやってるのは東京かなぁ」
律が繋いでいない方の手でスマホを操作する。
「東京駅周辺であるねー」
東京駅なら新宿駅の半分くらいの時間で行くことができる。
「夜はイルミネーションで、昼間は東京散策しちゃう?」
魅力的な提案に蒼乃は「する」と答え、一緒に一つのスマホを覗いていく。
「近くにプラネタリウムがあるわね」
とてもデートらしくて、ドキドキする。しかも調べてみると、ペアシートなるものが今時はあるらしい。
「律、私プラネタリウムがいい」
「いいよー。一緒に行こ。……クリスマスだから事前に買っといた方がいいよね。うち帰ったら母さんに頼んでみるよ」
「ありがとう」
こういう時、親公認だとありがたいなと思う。蒼乃も母親に話そうか悩んだこともあれど、結局言えていない。蒼乃の母親は専業主婦で、些か世間に疎い。多様性なんて言葉知らないと思う。
「律は出かける度にお母さんから何か言われたりする?」
「母さんよりお姉ちゃんがうるさいね。そろそろ恋人がいるってことはバレるかもしれない。クリスマスは……さすがに誤魔化せない気がするよ」
律はメロンソーダを一口飲んでから話を続ける。
「友達の家とか、はるちゃんを言い訳に使うとかすればいいんだろうけどさ。あまりしたくないよね、そういうの。別にやましい関係じゃないんだし」
可愛い頭が蒼乃の肩に落ちてくる。
「まぁ、女同士だからきっと許されるのであって、相手が男だったらお泊まりなんて許されないだろうけど」
ずるくとも使えるものは使いたい。蒼乃は今できる限り最大に律を愛したい。
「女同士というのはお得でいいですな」
律くらい割り切れればいい。きっと母親に認められているのが大きい。
「クリスマスかー。もう今年も終わっちゃうね」
「ちょっと気が早くない?」
ぐりぐりと頭を押しつけられる。
「だってもう蒼ちゃんと出会ってから、えーっと八ヶ月弱も経ってる。付き合ってから二ヶ月半くらい。早い早い」
確かに律と出会ってからの日々は、新幹線並みの速さだった。
「このままだと一年記念日もすぐだね」
それはどうかと思う。半年記念日を飛ばしてほしくない。
「毎月、記念日にはちゃんと電話したいわ」
「それはもちろん」
律が最後まで残していたナゲットを口に放る。
「次の記念日は……テスト前ですね」
かしこまった言い方をしても、現実は変わらない。
「日曜日よね。一緒にまた勉強しましょう」
「神様仏様蒼乃様……」
「ふざけないで。今回は厳しくいくわよ」
情けない返事が返ってくる。言った手前、本当にクリスマスデートがなくなったらどうしようと内心ヒヤヒヤした。




