046 -Ritsu-
体調は回復して、お昼の時間になった。いつも律と蒼乃の席に四人が集合する。律の隣が蒼乃で、机を挟んで正面が遥、遥の隣が日向。
「りっちゃんがいないと思ったら、蒼乃までいなくなるからびっくりしたよー」
遥が海苔をパリッとさせながら話を始める。
「しかし、髪染めに、ピアス。それにサボりなんて蒼乃もなかなかの不良ですな」
そんなことを言う遥も髪は明るめに染めていた。理屈は地毛の律より明るくないからいいらしい。そんなわけない。
「はるちゃんだって染めてるでしょ」
「そんなこと言ったらー、真面目なのは日向だけか」
「いやいやなんで。私だって真面目だよ?」
髪も染めてないし、ピアスも空けてないし、体調不良以外で授業は休まない。
「それはね。不純異性……じゃなくて、不純同性交遊だからだよ」
うんうんと日向まで頷いている。蒼乃は罪状を重ねているというのに、平気な顔でお弁当のミニトマトを口に運んでいた。
不純じゃないよと返したかったけど、十分不純な関わりを持っていたので言い返せない。
「保健室でなにしてたの?」
「休んでたに決まってるじゃん……」
律もお弁当のブロッコリーを口に放る。律の家でブロッコリーが顔を出すと、三日は飽きずに続くのでおそらく明日の弁当にも入ってくる。
「カップルが保健室でサボりなんて不純だよ」
「南ちゃんいたから」
律が南のことをちゃんづけで呼ぶと、蒼乃の目が光った。
「もしかして南先生とも仲良いの?」
「呼び方一つで怖い」
迂闊なことを言えない。
「たまにお話するだけの仲だよ。保健の先生なんてそんなものでしょ」
遥と日向に同意を求めたが「いや」と返されてしまった。
「いやいやいや、みんなだって仲の良い先生いるでしょうよ。ほら、顧問の先生とかさ」
「事務連絡しかしません」
「あたしもしばかれる側だから、仲良いとは違うかなぁ」
「担任とか!!」
「八重ちゃんと仲が良いのはりっちゃんじゃん」
万事休す。蒼乃の顔を見た。冷めた目つきで律を見ている。
蒼乃は小さく手を上げて言った。
「彼女がちらちら浮気をします。どうすればいいですか」
「目を離すのがいけないんですよ」
日向がおそろしいことを言う。ただでさえ一分一秒を惜しんで一緒にいるのにどうしろと。
「もう犬みたいにリードで繋いでおけば?」
遥は適当なことをほざかないでほしい。
「律なら小型犬用の首輪でサイズあうかしら」
「つけないつけない。それに入らないと思うよ」
というかそもそも首輪は校則違反に値するのではないか。
「そもそも、浮気してません。一途です」
釈明をさせてほしい。
「でもりっちゃんって昔から人との距離近いから気をつけた方がいいと思う」
「そういうリアルな注意は彼女がいないところでしてほしい」
こんな話をしてしまうから、ご飯を食べ終わってから蒼乃の腕が律を離してくれない。
「トイレ行くだけだから……」
「私も行く」
「そんな小学生みたいなこと言わないで」
仕方がないから一緒にトイレに行った。個室までは入ってこなかったからいいものの、このままでは彼女がストーカーになってしまう。
「はるちゃんが変なことを言うから」
「え? あたしのせいじゃなくない? りっちゃんの日頃の行いのせいだよ」
律からすればみんなが淡白だなと思う。律は幼稚園の頃から先生と仲良くしてきた。お母さんたちにも良い子良い子とされてきたし、これがデフォルトである。
トイレから帰ってきて、腰を下ろしたのは蒼乃の膝の上だった。逃がしてはくれなかった。
「先生に対する好きと蒼ちゃんに対する好きは違うんだよ。はるちゃんやひなちゃんに対する感情と違うのと一緒。分かる?」
「あたしとは遊びだったのね」
「本当にやめて」
人の気も知らないで遥は軽く笑った。面白がっている。
「分かってる」
言動が一致しない。律はしっかりとホールドされたままだった。今日は彼女の情緒が不安定なのだ、そういうことにしとこう。
「律って歳上が好みなの?」
後ろからとんでもないことを聞かれる。
「好みって……私が好きなのは蒼ちゃんだけですが……」
「嗜好の話」
なんて答えても地雷な気がした。律はもう一度「蒼ちゃんだけだよ」と返す。
「そうじゃなくて」
不満足そうな台詞を満足そうに言われた。隣で遥と日向が「またいちゃいちゃしてますね」と噂をしていた。もうなんとでも言うがいい。
律に巻かれている腕に力が入る。あまり締めつけられると昼ごはんが逆流しそうだ。
「律」
「はい、なんでしょう」
「浮気しないでね」
「しないし、してません」
こんな美人な彼女がいて、他の人間になびくやつがどこにいるだろうか。




