004 -Ritsu-
この日は七時間目まである日だった。相沢律は昼休みに、蒼乃からお誘いを受けていた。
「放課後、ちょっと付き合ってほしいの」
いつも遊びに行く時は六限終わりの日だから、どこかに出かけるわけではない。いったい何の用なのか、律には見当がつかない。何の用なのか聞きたかったが、昼休みは昼休みでも終わり際に言われたので「いいよ」しか返せなかった。
移動教室の時は他にも友達がいたから聞き出せず、今こうしてショートホームルームの途中そわそわしている。付き合っている上で付き合うとは何だろう。頭が混乱してきた。
「律」
ショートホームルームが終わってもぼーっとしていると、律の席の前まで蒼乃がやって来た。鞄を引っさげている。どうやら用が済んだら、そのまま帰るらしい。
「ごめんね、今急いで支度するから」
「ゆっくりでいいわ」
蒼乃は律の机の端に軽く腰かける。
ゆっくりでいいと言われたものの待たせている身なので、急いで支度をした。スマホさえ持っていれば、忘れて困るものなどない。
「行きましょう」
蒼乃が教室を出るので慌てて追いかけた。
「ねぇ、蒼ちゃん。用って何なの?」
「行けば分かるわ」
どんどん階段を下っていく。あっという間に四階から一階へ。蒼乃は昇降口で靴を履き替えようとしている。
「どっか行くの?」
どこかへ行くことは分かっている。律は外に行くのかという意味で聞いた。
「大丈夫。すぐ終わると思うから」
思う、ということは蒼乃が主体で動いているわけではない。誰かが蒼乃と律を呼んだ。そういうことらしい。
蒼乃は正門と真逆の方法に歩き出す。この時に蒼乃は律の手を握っていた。恥ずかしかったが、付き合っていることは全校生徒にバレているので振り払うことはしない。
蒼乃が使用している駐輪場も過ぎた。グラウンドに行く道を脇に逸れた。
「蒼ちゃん?」
律は蒼乃の手が少し震えていることに気がついた。何が彼女を恐怖させているのかは分からない。
「大丈夫だよ」
根拠のない励ましであったが、蒼乃はいくらか落ち着いたようだ。着いたのはプレハブ小屋の裏手だった。さすがの律もこういったシチュエーションにはいくつか覚えがある。一つは告白、次に決闘。漫画の受け売りであった。
しかし、告白とすれば二人を呼び出すなんておかしな話だった。決闘についてもおかしい。この学校の特色は真面目さにある。決闘をするような輩は受かっていない。
考えあぐねているうちに、一人の男子生徒が現れた。クラス章の色からして二年生らしい。律は彼の名前も顔も知らなかった。
「二年の高柳宗介と言います」
やはり聞いたことのない名前だった。宗介は真っ直ぐ律を見ている。ちょっとした人見知りを発症させた律は、蒼乃の腕にしがみついた。
「相沢律さん、好きでした!」
何とも変わった告白の仕方だなと思った。普通、好意を伝える時に語尾を過去形にはしない。
「一目惚れだったんです。でも、今は相澤さんとの交際を応援してますので!」
何の告白だろう。拍子抜けして「はぁ」としか言えない律に蒼乃が言った。
「今朝、私の下駄箱に手紙が入っていてね。どうしても好きだった気持ちを伝えたいから機会をくれないかと書いてあったの」
「なるほど?」
全然事情が飲み込めない。彼は律のことが好きだったことを伝えたいと?
「応援してるってことを伝えたかったんです!」
付き合いたいわけじゃないのなら、黙っていても変わらないのでは? と律は思うが、彼の言葉からは誠意を感じていたので、感謝の言葉を短く返した。満足したらしい先輩は「部活があるんで」と言って去って行った。
「蒼ちゃん、事情分かってたなら言ってよー」
「律に私以外のこと考えてほしくなかったから」
さらっと照れることを言う。
「さぁ私たちも帰りましょう。バス停まで送っていくわ」
「でも帰り道逆じゃない?」
「五分でも長く貴方といたいの」
さっきは照れるだけで済んだが、今回はダメだ。律の顔は熱くなる。
「律、もし今後告白をされたら教えてね」
「えー、されないよ」
「今さっきされたじゃない」
「私より蒼ちゃんがされると思うなぁ」
律は隣の美人を見る。モデルでもやっていそうな出で立ちだ。
「じゃあ二人とも告白されないくらい、周りに仲の良さを見せつけましょう」
蒼乃が律の腰に手を回し、体を引きつける。シャンプーの良い香りがした。
「ふふ、こんなところでくっついていたら何をしてたと思われるかしらね」
「なにもしてないよ!?」
「それなら何かする?」
「しません!」
蒼乃が楽しそうに笑う。楽しそうなら、いいか。




