037 -Aono-
最後に二人が来たのは、予定通り観覧車だった。一周するのに約十五分かかるらしい。
四人乗りの構造上、普通二人で乗るなら向かい合う形が順当だと思われるが、蒼乃は最初から迷いなく律の隣に座った。
「誰かと二人で乗る観覧車は初めてかも」
律が混じり気のない笑顔を向けてくる。いっそのこと律のまだ経験していないことをリスト化して、全てチェックをつけていきたい。
「律」
二人きり。個室で二人きりだ。
キスをしようとすると、律の腕が伸びてきて蒼乃の動きを牽制した。
「何?」
欲求不満だった蒼乃からは少し不服そうな声が漏れ出る。
「いや……二人きりだけど……意外と隣から見えるよ……」
「そんなこと」
そんなこと関係なかった。二人きりである事実は変わらない。見られてもいいと蒼乃は考え、再度律に迫る。
これで拒否られたら諦めようと思ったが、押しに弱い律は顔を近づけると腕をどけ、目を瞑った。
律に口づけをし、狭い空間でも逃げられないようにと腕を回す。たった十五分しかない。蒼乃は少々必死だった。
「蒼ちゃ、」
喋らせる隙も与えたくなかった。奥へ奥へと愛情を注ぎ込む。
蒼乃の背中を掴む手に力が込められる。
苦しいのかと思い、少しだけ口を離した。
「もっと、して?」
日向の言う通りだ。蒼乃の中身はオオカミである。貪るように律に齧りつく。このまま観覧車を何周も回してほしい。降りなくていい。
観覧車がてっぺんに来た時も、蒼乃は外の景色なんて気にしなかった。あと七分と時間を確認する程度の目安。
「律」
その名前を呼ばない日はない。
「愛してる」
愛を誓わない日もない。
毎日溢れるほどのこの愛を、全て彼女に捧げたい。指先、足先まで全て蒼乃で満たしたい。
「んんっ!」
背中を叩かれた。何度も。
「蒼ちゃん、もう着く、から!」
仕方ないと思い、律を解放する。その時隣のゴンドラに乗る家族連れのパパと思われる人物と目が合ってしまった。子供の情緒教育に影響を与えてしまったかもしれない。
「あっという間だったわね」
「そうだね……」
観覧車を降りた律は少しお疲れ気味だった。
「蒼ちゃんは本当に私のことが大好きだね」
手を取りながら律が当たり前のことを言ってくる。
「そんな蒼ちゃんのことを私も……愛してる」
人が多いからか、声がちょっと小さい。
「何? 聞こえないのだけれど」
意地悪を言ってみると、律は顔を真っ赤にして背伸びをしながら、蒼乃の耳元で「愛してる」と繰り返した。今日一番心に刺さったかもしれない。刺さったと言うか、もはや貫通している。
「大好き」
やり返してやろうと思い、耳元で大きい声を出してやった。夕方の冷えが気にならないほど、蒼乃の体はぽかぽかしていた。




