036 -Aono-
蒼乃たちは遊園地に隣接するフラワーパークにやってきた。一度は冷えた手も律と繋いだことにより温かさを取り戻していた。
「律って花には詳しいの?」
あまり花を愛でるタイプに見えないというか、花より団子なイメージがある。
「うーん。入院中の人に百合の花はよくないとかなら知ってる。蒼ちゃんは?」
「私も小学校にあった花くらいしか分からないわ……」
母親がガーデニングを趣味としているものの、深く関わってきていないので分からない。
花について一般的な常識しか持ち合わせていない二人が、花に囲まれた空間を彷徨う。
「正直に言ったら、蒼ちゃんは花束もらって嬉しい派?」
「くれるの?」
「欲しいなら……お金貯めるよ?」
花なんてもらったことはない。あげたことはある。母の日にカーネーションを一本。
「花は欲しいというより、あげたい派かも。律にプロポーズする時に花束あげたい」
景色のいい場所で、花束と指輪をプレゼントしたい。付き合った日から考えている妄想だった。
律は少し面を食らったような顔をしている。
「私はプロポーズされる側なの?」
「私の中ではその予定」
律は小さい声で「そうか」と何回か言う。
「ちなみに蒼ちゃんの中ではどこまでシミュレーションが済んでいるの?」
「死ぬまで」
「壮大ですな」
律が繋いでいる手を強く握る。ちょっと重たいことを言い過ぎたかもしれない。
「死ぬまで仲良くいたいねぇ」
蒼乃はどうして高校生はラブホテルに入れないんだろうと思った。
花に囲まれていたら、頭がお花畑になってきた。
「蒼ちゃん見て! 滝があるよ!」
律が腕を引く。視線の先に結構大きな滝があった。十メートル以上あるだろうか。
「昔さ、プールに行くとそこの公園に小さな人工の滝があってね。私、プールは好きだったんだけど滝の大きな音が苦手でさ、ギャン泣きしてたんだよね」
想像すると可愛い。お化け屋敷でべそをかく今と重なる姿。
「今は平気なの?」
「うん。平気だよ。でも大きい音は相変わらず好きじゃないかなぁ」
滝には長居せず、二人は建物内にある展示を見て回ることにした。
「フラワーシャンデリアだってよ。蒼ちゃん。これ、落ちてきたら死ぬね」
確かに落ちてきたら頭がかち割れそうな、大きな植木が天井からいくつもぶら下がっていた。
「律はもっと綺麗だね、とかそういう感想はないの?」
「…………。蒼ちゃんの方が綺麗だよ」
時折、蒼乃の隙を見た台詞を言ってくる。大体唐突にくるので、蒼乃の心臓に悪かった。
「私は花を眺めるより、蒼ちゃんを眺めている方が好きだな」
「……そんなこと言ったら、お出かけデートをする意味がなくなっちゃうでしょう」
尤もなことを言いながら、蒼乃も律のことさえ見られればどこに行こうと楽しさは変わらないと思った。しかし、雑草を背景にするよりは、綺麗に整えられた花を背景にしたいとは思う。
「律、写真撮りましょう。今日全然撮ってない」
「二人とも体調不良になってたからね。いいよ、あっちで撮ろう。なんかでっかいのあるよ」
画角に収まらないであろう大きな花のところに案内される。自撮り棒など持っていないので、精一杯腕を伸ばしていると通りかかったカップルのお姉さんが写真を撮ってくれた。
蒼乃も代わりにカップルの写真を撮って、お返しした。
「今のお姉さん、私たちのことどう思ったかな?」
「さぁ」
蒼乃は答えをはぐらかしたが、おそらくお姉さんは二人の関係を見破っていると思う。だから、わざわざ小娘二人の写真を撮るお手伝いをしてくれたのだ。なんとなくそう思う。
「そろそろ時間もあるし、行きましょうか」
例え手を繋いでいても友達にしか見えなくとも、蒼乃は彼女の手をしっかりと握る。
絶対にどこにも行かせない。




