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アイザワ夫婦は全校生徒から祝福されている  作者: 妖精卿
アイザワ夫婦はスリルを味わう
35/58

035 -Ritsu-

「着いたー!」


 正確には遊園地の入り口手前だった。移動用のゴンドラを降りたので、(りつ)的には到着と言ってよかった。


(りつ)


 蒼乃(あおの)はなにかと(りつ)を呼ぶ。枕詞(まくらことば)(りつ)なのかもしれない。


「ほら(りつ)、チケット買うから」


 写真を撮っていると(そで)(つか)まれた。ついでとばかりにエスコートする彼女の写真を納めておいた。


 チケットを購入して、やっと正式に入場できた。一度(はな)していた手を(から)める。浮かれた気持ちに任せて蒼乃(あおの)の腕にもへばりつく。


「なにから行く? ジェットコースター系乗るなら食事前がいいよね」


 (りつ)の案が受け入れられ、(しょ)(ぱな)からジェットコースターに乗ることとなった。


「高いねぇ」


 コースターのレールが入り口からも見える。たまに叫び声が聞こえてくるのはそこからだろうか。


「大丈夫そう?」


 下から蒼乃(あおの)の顔を(のぞ)く。


「平気よ。代わりにお化け屋敷も入るからね」


 ファミリー層も訪れる遊園地のお化け屋敷だ。なんとかなるだろうと(りつ)は思っている。


(あお)ちゃんはジェットコースターで手上げられる?」

「それは無理……」

「手ぇ(つな)いでてあげるね」


 交わらせている指をにぎにぎとする。

 さて、ジェットコースターの乗り位置は後方寄りだった。この手の乗り物は後ろ側の方が怖いと聞いたことがある。


 蒼乃(あおの)は悲鳴をあげないタイプだった。「(あお)ちゃん、楽しいね」とかけた声にも答えてもらえなかった。


「飲み物買ってこようか?」


 明らかに口数が減った彼女をベンチに座らせる。


「いらないから(となり)にいて」


 腕を(つか)まれた。大人しく(りつ)もベンチに腰を下ろした。いつもとは立場が逆転して、蒼乃(あおの)の頭が(りつ)の肩に乗る。シャンプーのいい香りが(ただよ)う。こっちが酔いそうだ。


 十一月に入り、季節もやっと秋と言えるようになった。蒼乃(あおの)の気分も涼しい風が()でてくれる。


「今度から(あお)ちゃんがいる時は絶叫系やめるね」

「大丈夫……ちょっと休めば平気だから」

「そう見えないけどなぁ」


 電車でやられた仕返しに蒼乃(あおの)の鼻を(つま)む。


「私は別に絶叫系乗らなくても楽しいし、ゆったりしたので行こうよ」


 蒼乃(あおの)の鼻を(つま)むのをやめて太腿(ふともも)を軽く叩いた。(はげ)ましのつもりだったが、細い(あし)だなとか考えてしまった。


「時間はまだあるし、もう少し休んで元気になったらなにか食べて。それから時間的にお化け屋敷かな。時間があったらフラワーパーク行って、なんか乗れるやつにでも乗って、最後に観覧車」



  ◆  ◆  ◆



 (りつ)は悲鳴をあげる方だった。きゃーなんて可愛いものじゃない。「うわっ!」から始まり、最後は「もうやだぁ」と嗚咽(おえつ)した。十六にもなる大きな子供が。


 そもそも高校の文化祭レベルのお化け屋敷で声を上げるレベルの(りつ)だ。プロが作ったものが怖くないわけがない。


 お化け屋敷はストーリー仕立てになっていて、中にはプレイヤーの選択肢(せんたくし)によって道が分岐(ぶんき)した。最初こそは相談の余地(よち)があったが、後半は全て蒼乃(あおの)が一人で選んでなかなか進まない(りつ)の腕を無理やり引いた。


「そこまで怖がりなら言ってくれればよかったのに」


 予習不足であった。あとから調べて分かったことだが、ここのお化け屋敷はレベルが高いらしい。

 蒼乃(あおの)がくれたティッシュで鼻をかむ。とても情けない姿だった。


「……でも私は、また(りつ)とお化け屋敷行きたい」

(おに)……」


 (りつ)の怖がる姿が蒼乃(あおの)には面白く映ったらしい。


「悪魔……」


 追加で言っておいた。蒼乃(あおの)はなんと言われようと気にしないようで、子供をあやすように(りつ)の頭を()でていた。


「映画の時もそうだったけど、(あお)ちゃんってホラー系まったく怖くないんだね……」

「作り物だから」

「心霊写真とかは?」

「信じてないわ」

「それなら(あお)ちゃんはなにが怖いの?」


 蒼乃(あおの)()でる手を止めて考え込む。


(りつ)に……」

「?」

(りつ)に嫌われるのが一番怖い」


 人の心が弱っている時になんて可愛いことを言ってくれるのか。


「嫌いにならないよ」


 ティッシュはポケットに押し込み、(となり)に座る蒼乃(あおの)に抱きつく。


「こんなに人を好きになったことないもの。嫌いになんてならない」

「……そもそも(りつ)って人のこと嫌うの?」

「そりゃあ私だって好き嫌いありますよ」

「牛乳嫌いだものね」


 牛乳ほど嫌いな人はいないかもしれない。しかし、蒼乃(あおの)に悲しい思いをさせる人がいたら嫌いになるだろう。


(あお)ちゃん、好きー」


 安心してもらおうと想いを口にする。あまりにも人が多過ぎてキスができないことがもどかしい。


「私も好きよ」


 (はた)から見ればバカップルである。女子高生が抱き合いながら笑っている。見る人が見ればとても尊いものに見えよう。


「次はフラワーパークだったかしら」

「その前にソフトクリームが食べたい」


 目先にソフトクリームの模型(もけい)があった。(りつ)はあれを見る度に食べたくなる(やまい)にかかっていた。


「買ってくるからここで待っていて」


 蒼乃(あおの)が立ち上がり、腕の中が寒くなる。そろそろソフトクリームを外で食べるのも(つら)い時期になるかもしれない。


「バニラとチョコにしたけど、どっちにする?」


 (りつ)はバニラの方を選んだ。蒼乃(あおの)がチョコを好きだからだ。


「牛乳は嫌いなのにソフトクリームは平気なのね」


 乳製品にかぶりつく(りつ)を見て蒼乃(あおの)は分からないという顔をする。


「牛乳とソフトクリームは別ジャンルだよ。生クリームだって好きだし」


 蒼乃(あおの)は首を(かし)げた。


「トマト食べれないけどケチャップはいけるってやつだよ」

「それはなんとなく分かるけど」


 (りつ)が食べているソフトクリームに蒼乃(あおの)(かじ)りついた。クリームに食べあとが残る。飲み物と違ってはっきり残るので、口を重ねるのを戸惑(とまど)わせる。


「こっちも食べるでしょう」


 なにも考えずにチョコのソフトクリームに食いついたので、見事にはみ出た。

 蒼乃(あおの)が新しいティッシュを取り出し、(りつ)の口元を(ぬぐ)う。


「子供みたい」

「彼女には言われたくないセリフだ……」


 アイスを食べて体が冷えたからか、涼しく感じていた風が肌寒く感じるようになってきた。暖を求めるように片手を蒼乃(あおの)に伸ばす。しかし、蒼乃(あおの)の手も冷たい。


「もしかして寒いのにソフトクリーム付き合ってくれたの?」

「そんなことないわよ。でも体が冷えてきたのは確かね。そろそろ歩きましょうか」


 手を引かれる。おそらく遊園地内のマップも暗記している蒼乃(あおの)が歩き始めた。

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