034 -Aono-
大きな行事がいったん節目を迎えたので、蒼乃と律はデートらしいデートをしようという話になった。
晴れたら遊園地、雨が降ったら水族館とも決めた。三連休だから混むが仕方ない。
天気は予報通り晴れだった。
「お待たせ!」
律とは電車の中で待ち合わせをした。今日は長めの旅路となる。
今日の律は遊園地だからかパンツスタイルだった。でも脚のラインがしっかり見えるのがいい。触りたい。
電車は三人掛けの席が空いていたので座った。もちろん壁側に律を座らせる。
車内で人がいようが、蒼乃たちは構わず手を絡めていた。乗り換えまでおよそ五十分このままにするつもりだ。
「今日楽しみであまり眠れなかったよ」
「そうなの。それなら乗り換えまで寝ててもいいけれど」
蒼乃も大して寝てはいないが、いつでも肩を貸す準備は整っていた。
「帰りは寝ちゃうかも。でも行きは寝ないよ」
律が「今日なに乗る?」と遊園地の公式ホームページを開いて見せてくる。
「蒼ちゃんは絶叫系とか苦手な人?」
「得意ではないかも。でも律が好きなら一緒に乗る」
正直ジェットコースターの類は得意でない。しかし、優先するのは律と一緒に楽しむ時間である。
「私は結構絶叫系好きなんだよね。あ、落ちる系はダメ。あれはなんか魂が置いてきぼりになる感じする」
「バンジージャンプあるって」
蒼乃が律のスマホを操作する。
「無理無理。死にたくないよ」
蒼乃もできれば遠慮したかった。
「お化け屋敷は入りたいわね」
「意地悪だなぁ……。蒼ちゃんが入りたいなら入ってもいいけど……、絶対に手を離さないでね」
くっつくことが目的で入るのだから離すわけがない。普段からひっついている二人だが、お化け屋敷で恐怖から逃れるために求められるという名目が大事だった。
「最後は絶対観覧車がいいよね」
ありがちな順路であれど蒼乃もそれには賛成だった。そして、そこでキスをしたいと朝から邪なことを考えている。
「そういえば、今度の体育からバスケになるらしいよ」
思い出したように律が言う。特に昨日の体育では予告されていなかったと思うが、どこから入手した情報なのだろうか。
「ソフトボールで暇してる時に先生と話をしてさ。来週からはバスケだって教えてもらった」
体育の先生とも仲が良いのかと頭を抱えたくなる。人見知りをするくせに、人たらしで困る。歳上にモテることは身に沁みて分かっているが、歳下はどうなのだろうと考える。考え始めたら、気になって仕方がない。
バスケや遥の話をしている律に相槌を打ちながら、話が切れるのを待った。もちろんこの間も上の空にはならない。律の話すことは一言一句、この両耳で聞いている。
「ねぇ、律。律って軟式テニス部に入ってたのよね?」
「そうだよ。全然上手じゃなかったけどね」
律は運動ができる方だから、これは謙遜だと思われる。
「母数多かったし、私よりも上手な子たくさんいたからね。レギュラーにはなれなかったから、後ろでのんびり球遊びしてたよ」
「先輩、後輩との関わりは?」
「中学なんてもろ縦社会じゃん。そんなに関わりなかったなぁ。特に私今と違って勉強できてたから、頭の悪い先輩にへこへこしたくなくて関わろうとしなかったよ」
律は「ラケットどこにしまったかなー」と呟いている。
「後輩は? 可愛くなかったの?」
「うーん。別にー。まぁレギュラー組が厳しかったから、お遊びで部活やりたかった子にはわりかし好かれてたかもね」
わりかしってどのぐらいだろう。
というか、ファンクラブはどの層がメインだったのだろうか。
本人に自覚がないのだから、このあたりは遥に聞いた方がいいかもしれない。
「蒼ちゃんこそ後輩に好かれていたんじゃない? 頼りになるお姉さんって感じだし」
厳しい部活だったので、あまり先輩後輩の繋がりはなかった。というより、蒼乃の話ではなく律の話が聞きたい。
「律って後輩と連絡取ってたりする?」
「まぁ……。文化祭とかあったしねぇ」
それなりに連絡がきているとみた。しかし、彼氏に彼女以外の女と連絡取らないでと言うみたいなこと、……言えない。だって、男女ともに警戒しなければいけない。誰とも連絡を取るななんて非現実的だ。
「あっ、私からは連絡取ってないよ! 本当だよ。心配ならスマホ見てもいいし」
「大丈夫。律のこと信じてるから」
信じてはいる。でも不安な自分がいる。恋愛に向いてない性格だと思う。
「ちなみに」
律の頭が蒼乃の肩に乗る。彼女はぼそりと言った。
「蒼ちゃんが男子と連絡取っていたらやだな」
電車の中だったので抱き締めるのは我慢した。代わりに律の鼻先をつまんでおく。
「絶対取らない。律以外の連絡先消してもいい」
「そこまでしなくていいよ……」
県内の乗り換え駅で電車内の人がゴソッと減ったが、都内に入ると人がどんどん増えてきた。蒼乃と律の前にもこれから遊びに行くだろう人が立っていた。
どこで変なやつが来るか分からない。蒼乃は常に目を光らせていた。
「私、東京なんて親としか来たことないよ」
人で外の景色は見えなくなっていたが、律は嬉しそうに蒼乃の手を握っている。
「私もわざわざ東京まで出ないわね」
蒼乃には高校生らしい東京への憧れはなかった。
「律は都内でどこか行きたいところないの?」
「あるよ」
指を折りながら律は場所を羅列していく。
「墨田水族館でしょ、池袋サンシャイン、ドームシティ、ジョイポリス……あぁスカイツリーもまだ行ってない。全部蒼ちゃんと行きたい」
「いつでも行く」
「や、おこづかいがなくなっちゃうから適度なタイミングでね」
楽しい話に花を咲かせているうちに、新宿に着いた。さすが乗降者数世界一の名は伊達でないなと感じる。
ここで離れるわけにはいかない。律の手をしっかりと握りながら、次の路線に乗り換える。新宿駅の構内図も蒼乃はしっかり頭に入れてきた。
「蒼ちゃんは新宿マスターだね」
「駅のことしか分からないけど……」
懸念だった乗り換えもあちこちにある案内図のおかげで無事にクリアした。まだもう一回乗り換えはあるが、ここまでくれば安泰だった。
「ずいぶんと遠くまで来た気がする」
律の視線が車外に向けられる。いつも見る景色とは違い高いビルが連なっている。明らかに遠い土地だった。きっと大学生にもなれば、これが近い土地に変わる。
「蒼ちゃんって、大学って決めてる?」
「まだ決めてはないけど……国立かしらね。でも滑り止めで都内の大学も受けると思うわ」
「私も同じー。こうゆうのよくないと思うけど、同じ学校がいいねー」
「ね」
同意を一文字に込めた。しかし、同じ大学に行くなら律にはもっと英語を勉強してもらわないといけない。今は楽しいデート中なので言わなかったが、受験勉強は早めに始めさせようと思う。
「律、次で降りるからね」
駅名が遊園地の名前を冠しているし、窓の外から乗り物が見えていた。




