表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイザワ夫婦は全校生徒から祝福されている  作者: 妖精卿
相澤蒼乃は外堀を埋める
3/8

003 -Aono-

 八月の下旬(げじゅん)、夏休みの最中(さなか)、宿題をすでに終えた相澤蒼乃(あいざわあおの)は登校していた。九月頭に開催される文化祭の準備のためだ。


 少し早めに来たので、蒼乃(あおの)は席に座って冷房の風に当たっている。夏と冬の時期は自転車通学が(こた)える。


「あっつー! あ、おはよう。蒼乃(あおの)

「おはよう、(はるか)


 同じく自転車通学組の小谷瀬遥(こやせはるか)が教室に飛び込んできた。


(りつ)(はるか)って幼馴染(おさななじみ)なんでしょ?」

「ん? そうだけど」


 (はるか)蒼乃(あおの)(となり)の席に座る。クーラーの風だけでは物足りないのか、(はるか)はスカートをパタパタとする。「はしないわよ」と蒼乃(あおの)に注意されるも、教室に二人しかいないからかやめる気配(けはい)はない。


「あの子はバス通学でしょ。(はるか)は何で自転車通学をしてるの? 坂道大変なんじゃない?」

「大変だけど、筋トレになるからね!」


 (はるか)はバスケットボール部に所属している。この学校の部活動はあまり成績がよろしくないが、意欲的な生徒は多い。


「あたしも雨の日はバス使うよ? さすがにカッパ着てまでは乗らないよ」


 蒼乃(あおの)も雨の日は徒歩になる。傘をさして歩くのはだるいが、カッパはやはり着たくない。


「今日って(りつ)も来るのよね。もうすぐ来るかしら」


 昨日、(りつ)とやり取りをしたメッセージを開く。確かに今日の文化祭準備に参加すると書いてある。


蒼乃(あおの)ってさ」


 スカートをパタパタさせるのをやめ、椅子を横に寄せてきた。パーソナルスペースが広めな蒼乃(あおの)は、()けはしないが少し身を固くした。


「りっちゃんのこと好きなの?」


 スーッと体全体が(こお)る感覚に(おちい)る。蒼乃(あおの)のイメージである〈余裕のあるお姉さん〉から〈余裕〉がなくなった。


「やだなぁ、そんな怖い顔しないでよ」


 (はるか)はいつも通り人懐(ひとなつ)っこい笑顔を浮かべ、蒼乃(あおの)の肩を(たた)く。


(だれ)にも言わないって」

「何で。分かったの?」


 誤魔化(ごまか)すこともできたかもしれない。しかし、余裕をなくしている蒼乃(あおの)には自分のミスを探す方が優先された。


「私、態度に出てた?」

「いーや。仲の良い友達を演じられていると思うよ」

「じゃあ何で?」

「女の(かん)ってやつ?」


 蒼乃(あおの)(うたが)わしげに(はるか)を見る。(はるか)はそんなこと気にする素振りも見せず、話を続けた。


「りっちゃんって男女問わずにモテるからうかうかしてると(だれ)かに取られちゃうよ。それこそ中学の時にはファンクラブあったからねー」

「何それ!? 聞いてない!」


 思わず蒼乃(あおの)は身を乗り出す。それから距離が近かったと思い、椅子をずらした。


「りっちゃんはファンクラブのこと知らないもの。非公認ってやつ」


 納得は行く。(りつ)はとても可愛いのだ。本人に自覚がないところがまたずるい。性格も温厚(おんこう)で、人当たりも良い。モテないわけがない。そんなことは蒼乃(あおの)も承知していたが、ファンクラブの存在は聞いていない。


「もしかして今もファンクラブあったりする?」

「えーどうだろう。中学の方は分からないけど……、高校では今のところないんじゃない? でも文化祭に告白しようって(やから)はいると思うよ。具体的に誰とは言わないけど」


 (はるか)は思わせぶりな言い方をしながら、一枚のチラシを(かばん)から取り出す。文化祭の後夜祭で行われる名物告白コーナーの募集(ぼしゅう)チラシである。


「なにこれ」


 学校中に()られているものであるが、蒼乃(あおの)は興味を持っていなかったので内容は知らなかった。


「簡単に言えば全校生徒の前で公開告白する的な?」

「公開処刑(しょけい)の間違いじゃないの……」

「いや、あたしもそこは否定しないけどさ。ほら、りっちゃんって流されやすいと言うか、押しに弱いじゃない? 誰かに取られる前に外堀(そとぼり)()めといた方がいいんじゃないかなぁって」


 (りつ)が誰かに告白されるシーンを想像する。吐き気がした。(りつ)が自分以外の(だれ)かと付き合うなんて冗談(じょうだん)じゃない。


「どうして(はるか)は私の味方してくれるの? 女の子が好きだなんて気持ち悪くない?」

「気持ち悪くなんてないよ。それにあたしたち友達じゃん」


 この想いのことを誰かに話したことなどなかったので、蒼乃(あおの)は面を食らう。(はるか)は良い人だ。


「なによりも幼馴染(おさななじみ)のりっちゃんが変な男に捕まるくらいなら蒼乃(あおの)がいいなーって」


 良い人、なのだろうか。もしかしたら愉快犯(ゆかいはん)かもしれない。


「頑張れー、蒼乃(あおの)


 不本意(ふほんい)な形であれど、(はるか)の言葉は蒼乃(あおの)の背中を押すこととなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ