029 -Ritsu-
言われた通り、扉に『あおの』と書かれた札がかかっていたので、すぐに蒼乃の部屋は分かった。予想通り、綺麗に片付けられた部屋だ。律はベッドの近くにリュックを置き、部屋の中を見渡す。
本棚が大きくて存在感を放っていた。その本棚を覗くと、以前蒼乃が読んだと言っていたえっちなことが書かれている本もあった。
手に取っちゃ悪いかなと思いつつも、好奇心が勝る。全三巻だったので、一巻目を手にする。ライトノベルらしい。挿絵の女の子は二人とも可愛い。挿絵からやらかしてそうなページを探る。こんなものが予習にならないことは百も承知だったが、気を紛らわせるにはちょうどいい娯楽だった。
慣れない縦書きの活字に目を通していく。読めないことはなかったが、普段は使わないような漢字がいくつもある。それはどれもいかがわしいことを表す漢字だった。
「律、お待たせ――」
扉を開けた蒼乃と目が合う。蒼乃の視線が律の手元に落ち、本をひったくられてしまった。
「子供が読むものじゃありません」
「同い年じゃん」
それに別に十八禁とは書いていなかった。
「蒼ちゃんもそういうの読むんだね」
見た目こそ清楚からはかけ離れているかもしれないが、蒼乃が生真面目なのを律は知っている。
「私だって高校生だからこれくらい読みます。律は読まないの?」
心無しか蒼乃の頬が染まる。
「私はまだまだ子供なので……」
誕生日は律の方が早い。
でも正直な話、そういった話には些か疎い律であった。しかし、疎かろうと今の空気がどういうものかは察知している。
蒼乃は律から取り上げた本を元の場所に戻す。空になった手で律の右手を取り、引いた。
この部屋にはテーブルが置かれていなかった。置かれていればその横に座ればよかった。椅子は一つしかない。勉強机の前にある。そこに二人座るのも無理な話である。
蒼乃に手を引かれて律が座ったのはベッドの縁だった。青というより紺色でまとめられたベッドだった。
「律」
迫ってきた顔を律は拒まなかった。抑えていた鼓動が速くなる。キスをして、もう戻れないと思った。戻りたいとも思わなかった。
教室でしたキスよりも、ワンランク上のやつである。蒼乃の舌が律の口内に入り、隅々まで検査されているよう。求められているのが分かる。
唾液が混じり合う。どちらのものなんて区別はつかない。
だんだんと蒼乃の押す力が強くなる。大してない腹筋を使って耐えていた律だが、蒼乃が腕を使って押し倒してきたので容易く倒れた。マットレスは硬めだ。
「律……いい?」
ここまできて真面目な少女だ。
「蒼ちゃん、好きだよ」
蒼乃の影とともにキスが降ってきた。蒼乃は器用に舌を動かしながら、律のネクタイに手をかける。片手で簡単に解いてしまった。
ブレザーは元々着ていなかった。多分、蒼乃にとって邪魔だったのはネクタイとカーディガンだ。カーディガンのボタンは普段外していないので固い。
蒼乃は片手で外せないとすぐ判断したのか、一度上半身を起こした。さすがに自分のボタンとは言え、手伝うのは違う気がしたので蒼乃に任せた。
カーディガンの前が開けられると、少しだけ涼しい風が通ったが、すぐに蒼乃の体が密着して熱を取り戻す。
「律、愛してる」
耳元で囁かれた時、律の中で何かが傾いたような感覚があった。そして、耳のふちを舐められたことにより何かが落ちていく。
「蒼ちゃん、あおちゃんあおちゃん……」
上に乗る彼女を逃さないように抱き締める。名前を何度も呼ぶ。全部に「りつ」って返ってきた。
蒼乃の手がシャツのボタンにかかった。まだキャミソールは着ていなかったので、すぐそこには下着がある。何で今日は一番可愛い下着じゃないのだと後悔した。
鎖骨のあたりに蒼乃の髪が落ちてきてくすぐったい。
「可愛い」
蒼乃はシャツの前側まで開け広げた律を前にして言う。
「ねぇ、蒼ちゃんも脱いで?」
「それなら律が脱がして」
蒼乃が体を落としてきた。律は横になったまま、蒼乃の服のボタンを外していく。シャツが下に垂れたところで、律は腕を蒼乃の首に回した。
「だいすき」
長めのキスをされた。そろりと背中に何かが這う。蒼乃の手だ。器用に片手でホックを外す。
残念ながらブラがあってもなくても変わらぬ膨らみである。それでも蒼乃は大事なものを扱うように、律の胸の輪郭を辿る。
自分で触る時はなんともないのに、蒼乃に触れられていると呼吸が荒くなる。
普段大人っぽい蒼乃が子供に戻ったかのように、律の胸の先端を吸った。思わずよく分からない、形容のしたくない声が出る。
その後も蒼乃は律の胸から肋骨のあたり、腹をゆっくり撫でる。何度も律の名前を呼びながら。
腹まで下りた手が、太腿に移る。
「あおっちゃんっ!?」
手はさらりとスカートの中に入った。
チカチカする頭の中で、律はやっと自分が蒼乃と何をしているのか認識する。
前置きのように優しいキスをされた。そっと触れ合っていると、長い指が遠慮がちに下着の上を沿う。
律は思わず奥歯に力を入れた。空いている蒼乃の左手が律の頬に触れてきたので、食いしばりをやめる。また、キスをする。
「あおちゃん……」
律には自分のそこがどうなっているのか分からなかった。埋もれていく理性の欠片が、これだけしてもらって感じていなかったらどうしようと思った。
杞憂であった。
伸びてきた細い指が滑る。良かったと思うのと同時に恥ずかしさが込み上げてくる。蒼乃が優しく優しく触れるものだから、なおのこと恥ずかしい。
「律。こんなに感じてくれていたのね」
蒼乃の方もほっとしたのか、少しゆとりを保てるようになったのか、やり始めてからの中では長めの台詞だった。
「好き。大好き。愛してる。ずっと一緒にいて」
重みのある言葉がたくさん降ってくる。全てが隕石のように脳を焼き消そうとする。
中が熱い。蒼乃の輪郭を感じ取る。
咄嗟に蒼乃に腕を回した。何かくるものを見て見ぬふりしようと、ギュッと抱き締める。
「可愛い」
蒼乃はとても満足そうだった。




