027 -Ritsu-
「ただいま」
四日連続で蒼乃と放課後の勉強会をした。勉強もそうじゃないこともほどほどに捗った。
家に帰ると台所の方から母親が顔を出して、「ちょうどよかった」と言う。何かしらの頼まれごとがあるらしい。
「作り過ぎちゃったから、はるちゃんのところに持っていってくれる?」
田舎でよくあるやつだ。うちは田舎ではないが、たまにこういうことがある。本当に作りすぎているのかは分からない。小学生の頃はもっと頻度が多かった。
「夕飯なに?」
「唐揚げ」
「はるちゃんの好きなやつじゃん」
母親がタッパーにつめた大量の唐揚げを渡してくる。袋を受け取り、重たいリュックは玄関に置いて再び外に出た。
遥の家はすぐそこの低層マンションだ。オートロックなので、共同玄関にある呼び出しボタンで三〇二を押した。
テスト期間だけど家にいるだろうか。
『はい』
いた。
「はるちゃん、私、律だよ」
『りっちゃんか。まぁいいや、上がって』
ドアが開く音がした。中に入る。
来るのは夏休みぶりな気がする。その時も唐揚げを届けた。エレベーターに人はいない。みんな、帰るのが遅いのかなと思う。ここら一帯は所謂ベッドタウンだ。
小谷瀬家の前に到着し、インターフォンを押すと「はいはーい」と声がして扉がすぐ開いた。しかし、そこにいたのは遥ではなかったので律は驚いた。
「絢先輩」
律と遥の小中学生時代の先輩。学年は一つ上で、高校はお隣の英鈴高等学校に通っている。身長は蒼乃や遥よりも高い。
「どうしたの、りっちゃん」
とりあえず中に入ってと言われ、玄関で靴を脱ぐ。スリッパがない家なので、靴下のままリビングに通された。
「りっちゃん! さっきぶり」
遥はキッチンにいた。どうやら夕食の準備中だったようだ。
「母さんが唐揚げ作りすぎたから持っていけって」
「あはは、前もそう言ってたね」
遥は遠慮することなく袋を「ありがとう」と言って受け取った。わくわくと子供のように中身を取り出している。
「絢先輩どうしてここに? そちらもテスト期間なんじゃないんですか」
「そう。暇だから後輩の顔見に来ちゃった」
テスト期間だから暇というのは矛盾した話だった。
「一人だと食事も余りがちだから、絢ちゃんにも食べていってもらおうと思ってね。そうだ、りっちゃんも食べていく?」
「私はいいよ。母さんがまだまだ唐揚げ作ってるからね」
律は役目を果たしたので帰ろうとしたが、絢に手を掴まれる。
「りっちゃん、久しぶりなんだから少し話そうよ」
「あ、はい」
絢先輩と呼んではいるものの、一般的な先輩後輩の関係よりは近いものがある。遥なんてちゃんづけで呼んでいるし。
「絢先輩は部活の方、順調なんですか」
しばらく話しそうだったので、律と絢はソファに腰を下ろした。
「まぁ順調かな。怪我なくやってるよ」
絢は身長を活かしたバスケ部に所属している。英鈴高校は部活動のレベルが高く、大学は推薦を狙っているのだとか。
「りっちゃんこそ怪我してない?」
「してません」
「で、りっちゃんに恋人ができたんだって?」
律はちらりと台所に立つ遥を見た。目を逸らされた。
「はるちゃんからどこまで聞いてるんですが……」
「美人で勉強もスポーツもこなす女の子」
大体は聞いているらしい。多分、写真も見ていることだろう。
「むしろモテてんのにりっちゃん全然その気配なかったもんねー。なに、彼女のどこが気に入ったのさ」
勘弁してほしい。それとも原稿用紙十枚分の意見を述べようか。
「え、どこまでいったの? もうキスはした?」
久しぶりに会ったというのに、下世話な話が好きな人だ。
「はるちゃんがいるのに答えるわけないでしょう」
「えーあたし気になるなぁ」
何かを炒める音と共に遥の声が飛んでくる。
「嫌だよ。明日から気まずいわ」
「明日は土曜日だよ」
「そういうことじゃなくて……」
律が困っていると、遥と絢が仲良く笑った。
「もう帰る」
律はソファから立った。絢が玄関までお見送りをしてくれる。
「恋愛相談があったらいつでも乗るよ?」
怪しい相談先であった。
「気をつけて帰ってね」
「うん。絢先輩も帰り遅くならないようにね」
「うーん、うん。そうだね。またね」
お腹が空いた。寄り道をしないで帰ろう。




