024 -Aono-
待ち合わせは現地だった。蒼乃は待ち合わせ時間の三十分前に入店していた。暑いか寒いかで言えば、まだ暑い季節であるものの、蒼乃はホットティーを注文していた。
『今駅に着いたよ』
待ち合わせ時間の二十分前に律からメッセージが入った。律も大概待ち合わせより早く来る。だから二人だけで会う時は、念のため早めになんてしない。
『転ばないようにゆっくり来てね』
遥の情報によれば律は定期的に怪我をしているようだから、気をつけてもらわないと困る。
しばらくして、紅茶が冷めるより早くに律が来た。律が手にしていたのはメロンソーダではなく、みかんジュースだ。
「おはよ、蒼ちゃん」
「おはよう」
昼過ぎだけど蒼乃たちの挨拶はおはようだった。
四人がけの席で律は座る場所に戸惑ったみたいだった。蒼乃は笑顔で隣の席を軽く叩く。
律は少し周りを気にしながら、ソファタイプの隣席に腰をかける。必要なものをテーブルに出し、邪魔になる鞄は向かい側の椅子に置いた。
「隣の方が勉強教えやすいでしょう」
蒼乃が体を寄せると「うん」と小さな声が返ってきた。相変わらず可愛い。
「蒼ちゃんは何持ってきたの?」
「数学。せっかくならと思って」
律が蒼乃より高い点数を叩き出しているのは、数学と国語だけだ。国語は大して勉強するところがないので、数学を選んだ。
「律は英語よね?」
「もちろん……」
英語で赤点を取らせるわけにはいかない。もちろん英語を頑張った結果、公共で赤点とかはやめていただきたい。
「まずは課題になる問題集を進めていきましょう」
せっかくのデートではあるが、主目的は勉強である。蒼乃は律に問題集とノートを出させる。
「できるなら三周くらい解きなさい」
「えぇ」
明らかに嫌そうな声だった。
「律、数学は何周解いているの?」
「一周だけ……」
一点に突き抜いた天才型らしい。蒼乃は努力型なので、普段から問題集は解いている。
「苦手ならその分数でカバーしないと」
またもや小さい声で「はーい」と返ってきた。
二人で並んでノートを広げ、それぞれ問題を解き始める。
「蒼ちゃん、ここなんだけど」
律が蒼乃を呼ぶ時、ちょうどシャーペンを動かしていない時に肩を叩く。その素振りに蒼乃は心を躍らせる。
勉強を教える際、必然的に顔が寄る。無意識にキスしたいと思う。さすがに人目があるので蒼乃も我慢するが、邪な気持ちが体中を駆け巡る。
蒼乃の気持ちなど知らぬ存ぜぬの律は、ひたすらシャーペンを走らせている。でも律の字は少しばかり汚かった。子供っぽいと言えばいいのか。
字の綺麗さというのは一朝一夕に得るものではない。だから蒼乃は何も言わない。そのくらいの短所どうでもいいというのが本音だった。
「飲み物なくなっちゃった」
律が言う少し前に蒼乃のカップも空になっていた。
「どうする? ここいらできり上げて買い物する?」
蒼乃の提案に律は「うーん」と唸った。
「あと三十分頑張る」
「偉い」
蒼乃が律の髪を無遠慮に撫でる。「やーめーてー」と言われたが、満更でもなさそうだったので余計に撫でておいた。
切りのいいところまで進めたら、十五分オーバーだった。蒼乃的にもよく進められたと思う。
「頑張ったわね、律」
「うーん、肩凝った気がする」
大きく伸びる律の脇腹を突く。
「もう、やめてよ」
「無防備だったから」
「そりゃあ蒼ちゃんの前だもの。無防備にもなるって」
この台詞を言われるのが人前でなかったら、間違いなく襲っていたなと思う。
「律はもう少し……周りに警戒心を持った方がいいと思う」
変な輩に引っかかる前にひっかけておいてよかった。




