↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイザワ夫婦は全校生徒から祝福されている  作者: 妖精卿
相沢律はスケジュールを組む
PR
21/97

021 -Ritsu-

 夕飯がそろそろ出来上がるよと母親が知らせにきた。ずっと律(りつ)と蒼乃(あおの)は密着(みっちゃく)していたので、階段の音を聞いて慌(あわ)てて離(はな)れた。


 母親が出て行った後、律(りつ)も部屋を出ようとしたら蒼乃(あおの)に手を引かれた。何かと思って振り返ると、軽く触れるように唇にキスをされた。


「今日はもうできないでしょう。だから最後に」


 顔が熱くなるのを感じる。蒼乃(あおの)は顔色を変えていない。そんな真似をできるようになるのはしばらく先だろう。


 蒼乃(あおの)を連れて階段を下りる。肉を焼くいい香りがする。

 ダイニングに行くと三人分の食事が七割ほど用意されていた。


「律(りつ)、ご飯よそっておいて」

「それなら私が……」

「いいのいいの。お客様は座ってなさい」


 居場所を探しがちな蒼乃(あおの)を席に案内する。


「蒼(あお)ちゃんってご飯どのくらい食べる?」

「お茶碗に(ちゃわん)軽くよそるくらい?」


 律(りつ)はお客様用のお茶碗(ちゃわん)に炊きたての米をよそい、蒼乃(あおの)に見せる。「そのくらいで」とオーケーが返ってきたので食卓に並べた。自分の分はもう少し多くよそる。母親は蒼乃(あおの)と同じくらいでいいか。


 ハンバーグと野菜が乗った大きめのお皿が最後にやってきて完成。

 律(りつ)も蒼乃(あおの)の横の席に座った。


 見えないテーブルの下で蒼乃(あおの)の手が触れる。恋人の母親を目の前にしているせいか、先程とは違い手先が冷たくなっている。


「蒼乃(あおの)ちゃん、遠慮しないで召し上がれ」

「いただきます」


 蒼乃(あおの)はしっかりと手を合わせると慣れない箸(はし)を手にした。ハンバーグを食べにきたので、最初の一口もハンバーグである。


「美味しいです。お義母(かあ)さん」


 さりげなく「お義母(かあ)さん」呼びをしていることに、律(りつ)も母親も気づかなかった。

「そりゃよかったわ。おみそ汁とご飯ならおかわりあるからね」

「ハンバーグは?」


 律(りつ)が聞くと母親は即答(そくとう)で「ないよ」と返した。


「蒼乃(あおの)ちゃんは家で料理するの?」


 母親なりに気を使って蒼乃(あおの)に話しかけている。


「土日は母親と一緒に作ったりしますね」

「それは偉い。うちの子とは大違いだ」

「律(りつ)、お料理しないの?」

「……レシピを見れば作れるよ」


 お手伝いはあまりしない方であった。


「うちの子、学校でどう? ちゃんと片付けできてる?」

「あー……」


 上手い言葉を探そうとする蒼乃(あおの)。態度で律(りつ)の生活態度がバレてしまう。


「あんたね、学校でくらいちゃんとしな。見られてるじゃないの」

「だって」


 だってじゃないと怒られる。


「蒼乃(あおの)ちゃんは勉強できるんだってねぇ。爪の垢(あか)を飲ませてやりたいよ」

「まぁでも数学だけは律(りつ)の方が私より上ですし」

「それで英語を赤点取ってきちゃ意味ないわね」


 さっきからおっしゃる通り案件なので言い返すことができない。

 結局夕食の間、律(りつ)は肩身の狭(せま)い思いをしたのだった。


 律(りつ)と蒼乃(あおの)で食器を下げた後は、お待ちかねのケーキタイムだった。律(りつ)と蒼乃(あおの)は紅茶、母親はコーヒーを入れる。


「モンブラン、どうぞ」


 蒼乃(あおの)が皿に取り分けたモンブランを律(りつ)の母親に渡す。


「ありがとう、ここのモンブラン好きでね」


 律(りつ)には約束通りショートケーキが置かれた。蒼乃(あおの)はチョコケーキだった。そっちも美味しそうだなと見ていると、蒼乃(あおの)が「一口食べる?」とケーキを差し出してきた。


「ありがとう」


 さすがに親の前であーんをするわけにはいかないので、直接ケーキにフォークを立てる。


「蒼(あお)ちゃんのケーキも美味しいね。私のもどうぞ」


 ちゃんとケーキのお返しはする。


「ところで」


 一足早くモンブランを食べ終わった母親は、コーヒーを一口飲んでから言い放った。


「あなたたち付き合ってるの?」


 フォークをテーブルの上に落としたのは蒼乃(あおの)だった。拾い直してから、視線を真っ直ぐにしたまま答える。


「付き合ってます。でも、何で分かったんですか?」

「なんとなく。それにこの子の様子が妙(みょう)におかしかったからね。恋人でもできたのかなって思って。で、今日あなたが来てそうかなと思ったわけよ」


 蒼乃(あおの)から少し冷たい目を向けられる。律(りつ)的にはバレるようなことをしたつもりはない。それこそ姉から言及(げんきゅう)を受けていない。


「大丈夫、蓮(れん)には言わないから」


 蓮(れん)のシスコンぶりは親も認めるところだった。


「そうかそうか。律(りつ)もついにねぇ」

「……驚かないの? 彼女で」

「最初はちょっと驚いたわよ。でも蒼乃(あおの)ちゃんのことは前から聞いていて良い子だって知っているし、知らない子と付き合うより安心かな」


 ここまで母親が寛容(かんよう)だとは思っていなかったから、律(りつ)は度肝(どぎも)を抜かれている。


「えっと……改めて。律(りつ)とお付き合いさせていただいてます。今後ともよろしくお願いします」


 蒼乃(あおの)が丁寧に頭を下げたので、律(りつ)も真似して頭を下げた。


「いいよいいよ、そんなにかしこまらなくて」


 母親の方も少し照れくさそうだった。

 和気(わき)あいあいとそんな話をしていると、玄関の方からドタバタと音がした。三人揃(そろ)って音の方を向く。


「ただいまー。ふー間に合った」


 スリッパも履かずにダイニングに顔を出したのは、話題の一つにもなっていた《りつ》律の姉である蓮(れん)だった。


「あんた、今日はデートだから夕飯いらないって言ってなかった?」


 母親に聞かれて、蓮は「そうだよ」と認識が間違っていないことを証明する。


「急いで食べて帰ってきた」

「なんで……」


 珍しく妹の言葉を無視し、蓮(れん)は初めて見る顔の横に立つ。あまりにも近い距離に立つので、蒼乃(あおの)は身動きが取れないようだった。


「初めまして。律(りつ)の姉の蓮(れん)です」

「相澤蒼乃(あいざわあおの)、です」

「ちょっと近いよ、お姉ちゃん!」


 律(りつ)が蓮(れん)の服を引っ張る。やっとのことで離(はな)れてくれた。これはもしや姉にも疑われているのかもしれない。


「ごめんね、蒼(あお)ちゃん。うちの姉、距離感バグってて」


 蓮(れん)が帰ってきたからには、即刻蒼乃(あおの)には帰ってもらった方がいい。


「蒼(あお)ちゃん、駅まで送るよ」

「それなら私も行く」

「いや、お姉ちゃんはいらないよ」

「蒼乃(あおの)ちゃんを送った後、りっちゃんが一人になって危ないじゃないの。ねぇ、蒼乃(あおの)ちゃん」


 聞き方がずるい。蒼乃(あおの)も「ですね」としか言いようがない。


「駅まで徒歩五分なんだけどなぁ」


 結局、三人で駅まで行くことになった。絶対に気まずいだろうに、蒼乃(あおの)はそんな表情を見せない。左から蒼乃(あおの)、律(りつ)、蓮(れん)の順で並んで歩く。


 無理やりついてきたくせに蓮(れん)は自分から話題を振ろうとしない。

 気を使った律(りつ)が蒼乃(あおの)に話しかける。


「今日はわざわざ来てくれてありがとうね」

「ううん、こっちこそお招きありがとう。今度はうちにも遊びに来て」

「いいの? 絶対遊びに行くね」


 二人で話していることに嫉妬(しっと)したのか、蓮(れん)も口を挟(はさ)んでくる。


「蒼乃(あおの)ちゃんはどこに住んでるの?」


 蒼乃(あおの)が最寄り駅の名前を答える。


「学校の近くなんだね」

「はい。自転車で通ってます」

「りっちゃんと二人乗りなんかしてないよね?」

「まさか。道路交通法違反ですよ」


 蒼乃(あおの)は平然と嘘をついた。律(りつ)も顔に出ないよう努(つと)める。


「もう、お姉ちゃん。ほんとそんなに私のこと心配しなくていいから」

「心配するよー。りっちゃんが死ぬまで心配するから」

「重いんだってそうゆうの」


 律(りつ)が突き放した言い方をすると、蓮(れん)はかまってほしいと腕を絡(から)めてくる。その様子を見た蒼乃(あおの)の表情が一瞬だけ硬くなった。律(りつ)にも分かる。彼女を放(ほう)って目の前でいちゃつくなと言いたいのが。


 しかし、最後まで蓮(れん)のうざ絡(がら)みを振りほどけずに駅に到着してしまう。


「蒼(あお)ちゃん、気をつけて帰ってね。帰ったら連絡ちょうだい」

「ありがとう。じゃあ、また後で連絡するわね」


 手を振り合ってお別れをする。なんとなく声のトーンが低かったことを、律(りつ)は感じ取っていた。とは言え、相手は実の姉である。あまりヤキモチを妬(や)いてほしくはない。


「よし、律。コンビニでアイス買って帰ろう」

「私もうケーキ食べたからいらないんだけど」

「私の分はなかったもの」


 それならゆっくり外で彼氏と食べてくればいいのにと思う。

 そんなこと思いつつ、ちゃっかり律(りつ)もアイスを買ってもらったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。