018 -Ritsu-
今日こそは、と意気込んで律は片付けを実行に移そうとしていた。気がつけば約束の日は明日である。他にもやる日があったろと思われる方もいるかもしれない。
なかったのだ。
英語の小テストでひどい点数を取った律は、八重樫に放課後呼び出された挙句、課題を追加されてしまった。泣く泣く課題に取り組んだ結果、今日の夜を迎えた。自業自得である。
「八重ちゃん、絶対に私に厳しい……」
遥からは「可愛がられてるんだよ」と言われたが、課題が増えるくらいなら可愛がられない方がいい。でも八重樫はとても可愛い顔をしているので、ちょっと役得な部分もある。もちろん蒼乃にそんな話はしない。
「そう、えっと……まず本から……」
声に出して行動に移す。出しっぱなしになっている本を本棚にしまっていく。律はおこづかいを現金でもらっているし、クレジットカードも持ち合わせていないので、本を買う時は紙の本だった。
「あ、これ、そろそろ続き出てないかな」
お気に入りの漫画本を手に取り、片付けが止まる。発売日を調べたら先週だった。今度出かける時に買いに行こう。どんな終わり方をしたっけな、とパラパラ中身をめくる。
やっぱ気になる終わりだ、と確かめたところで片付けのことを思い出した。
急いで本を詰める、詰める。
「次は洋服!」
母親は洗濯をしてくれるが、しまうところまではやってくれない。いや、そのくらい自分でするのは当たり前だと律も分かってはいるが、後回しにしてしまう癖が抜けなかった。
下着を出しっぱなしなんて言語道断なので、急いでしまった。他にも放り投げられているシャツやカーディガンをしまう。クローゼットがパンパンになってしまったが、断捨離はまたの機会にしよう。
「えーっとプリント、プリントかぁ……」
取捨選択が必要なものが相手となると時間がかかる。見てみると中には保護者向けのプリントが紛れている。そんなにも重要そうなものでもないし、期限も過ぎていたのでなかったことにしよう。
律は蒼乃のように要領がよくない。というか面倒くさがりである。幼馴染の遥は同じように大雑把な性格をしているので、家に来る時は気にすることもなかったが……。しっかりものの彼女が来るとなれば話が違う。
学校のロッカーの荒れ具合をすでに知られていそうな気もするが、律も見栄を張りたい。
プリントはいるものといらないものを分け、いるものはひとまずクリアファイルに、いらないのはちぎってゴミ箱に捨てた。
大体は片付けた。
ふと、律の視界にベッドが入ってくる。律が毎晩お世話になっている量産型ベッドだ。
「使わない、よね?」
恋人が家に来る。まだ、キスさえしたことのない恋人が、だ。
律は明日の天気を確認し、ゴミをまとめて一階に下りる。
リビングにはドラマを観ている母親がいた。
「母さん、明日、ベッドのシーツ洗っといてほしいんだけど」
「……いいけど」
何でわざわざ今言うの? という顔だった。しかし律のことより、ドラマの展開の方が気になったらしい。すぐに母親は律への興味をなくした。
部屋のゴミを台所のゴミと一緒にまとめていると、姉の蓮が冷蔵庫を開けにやってきた。
「りっちゃん、ゴミの日は明日だよ?」
律の地域のゴミ回収は夜に行われる。そのため相沢家では当日の夕方にゴミをまとめる習慣があった。
「知ってるよ」
思わず正直に答えてしまう。
「じゃあ何で捨ててるの?」
その通りである。そこまで多い量ではない。
「ちょっと……明日クラスメイトが来るから」
「何、はるちゃんじゃないの?」
この姉、律のこととなると細かいところまで気づく面倒くさいシスコンだった。
「誰でもいいでしょ」
「まさか彼氏!?」
ちょっと冷たく返すとこれだった。律は「違う違う」と返し、「クラスメイト」と主張する。
「女の子だよ」
「女の子だって律の魅力には惹かれるわよ」
「お姉ちゃんの心配するようなことはないから」
平然と嘘をついた。良い妹でいられないことに、良心がチクリと痛む。
「じゃあ今度は私がいる時に呼んでよね。ちなみに何ていう子?」
関係ないと言いたかったが、突っぱねても面倒くさいことにしかならないので、正直に答える。
「蒼乃」
「たまに聞く蒼ちゃんって子でしょう」
姉の前では幼馴染の名前以外出さないようにしているつもりだったが、漏れていたらしい。
「どんな子? 写真ないの?」
「今スマホ持ってない」
「それならりっちゃんの部屋に行くよ」
「写真見たら自分の部屋に戻ってよ……」
ストーカーを引き連れて部屋に戻る。律の部屋が片付いていることに蓮は驚いていた。
机の上に置いていたスマホを取り、蓮に見えないようにしてロック画面を解除する。学校では誰に見られても問題ないのに、家族には見られてはいけないなんておかしな話だ。
「ほら、この子」
直近が体育祭だったので、一緒に撮った写真を見せる。
「めっちゃ美人さんだねぇ」
「ほら、見せたでしょ。もう帰って」
「えーせっかくだし、もっとりっちゃんと話してたいな」
粘る姉を無理やり部屋から追い出す。
もし、蒼乃のことを恋人だって言ったら、蓮はどんな反応をするだろうか。困るだろうか。それともうちの娘は嫁にやらんと頑固親父スタイルになるだろうか。
蒼乃のことを考えていると、以心伝心したのか蒼乃からメッセージがきた。
『明日、制服と私服どっちで行った方がいいかしら』
いつも見る制服姿の蒼乃と、たまに見る私服姿の蒼乃を想像する。想像した私服は、この前のデートで着ていたものだ。
『どっちでもいいよ』
『やだ。律が決めて』
ちょっとだけ迷った。でもここは……。
『私服かな』
見慣れていない方を選ぶことにした。きっと今度はどの服を着て行こうか蒼乃は悩んでいることだろう。
「……そしたら、私も私服に着替えた方がいいのか」
自分の家だし、ラフでいいやと納得する。
彼女が家に来る。楽しみなようで、不安の方が大きかった。




