012 -Ritsu-
体育祭の日でも昼休みは冷房の効いた教室で過ごすことになっている。小学生の時なんかは家族でレジャーシートを敷いて大きなお弁当をつついたものだが、今はいつもの昼休みとさほど変わらない風景が広がっている。
律のお弁当は母特製。今日は体育祭ということもあって、お弁当サイズの小さなハンバーグが入っている。
蒼乃もお弁当。いつぞやか、お弁当は主婦の母親が作っていると言っていた。さっきハンバーグと唐揚げを交換した。
遥はいつもと変わらず、学校近くのコンビニ。遥の家は母親しかいないので、遥が気を使ってお弁当を作らなくていいと言っている。
日向もいつもはコンビニが多いが、今日はお弁当だった。四人の中で一番豪勢だった。
律はこっそりと遥に視線を向けた。コンビニのおにぎりを片手に、蒼乃とリレーの話をしている。律が知り合った頃から、遥には父親がおらず、運動会のお弁当も相沢家と一緒に食べていた。そのことを律が気にする必要はないことを分かっているものの、体育祭がくると思い出してしまう。
「どうしたのー? りっちゃん。ハンバーグ食べないならあたしがもらっちゃうよ?」
「それはダメ!」
律のレスポンスがあまりにも速かったことに、三人が揃って笑う。
「りっちゃんは昔からハンバーグが好きだなー。でも確かにおばさんのハンバーグ美味しいもんね」
不覚にも遥が発した言葉に、蒼乃の目が食らいついた。言わなくても分かる。「食べたことあるの?」と言いたいのだろう。
「いや、そんな深い関係はないから! うちの家、親がほとんどいなかったから、りっちゃんママが気を使ってくれてね!?」
「まぁまぁ蒼ちゃん。今度、うちに招待するから」
今度は「え?」と三人の目が律に釘付けになった。恋人を家に招待することの重要性を分かっていないのは律だけだった。
「律、少しは警戒した方がいいですよ。犬の皮を被ったオオカミかもしれません」
「? 蒼ちゃんってどちらかと言うと猫じゃない?」
日向の忠告にも天然で返す律。
「言質取りましたからね。今度、絶対、私を家に招待してちょうだい」
蒼乃の圧がすごい強い。律は押され気味に「うん」と返した。
「そうだ、蒼乃。りっちゃんの家に行くなら、蓮ちゃんには気をつけた方がいいよ〜」
「蓮ちゃん?」
「えっとね、蓮ちゃんって言うのは私のお姉ちゃんなの。三つ上の大学生なんだけど……」
律は難しい顔をする。自分で言うのはちょっと躊躇われるからだ。代わりに遥が続きを話してくれた。
「蓮ちゃんね、すんごくシスコンなの。妹ラブで生きている人だから、恋人ができたなんて知ったら大変だよー。ね、まだりっちゃんは言ってないんでしょ」
「言ってません……」
妹の目から見ても、姉はシスコンをこじらせていた。恋人がいるなんて申し出た日には、暴れ回るかもしれない。デートの服を相談できなかったのには、こういった理由がある。
「楽しみだなー。彼氏じゃなく彼女を連れてきた時の蓮ちゃんの反応」
「見世物じゃないわよ」
もはや見世物のような存在なのである。妹が風邪を引いたという理由で彼氏とのデートをすっぽかし、浮気を疑われて別れたことのある人だ。小学生の頃は、律にちょっかいをかける男子がいたら泣いて謝るまで追いかけ回していた。おそらく律の両親は娘の恋愛に寛容的な人だが、姉は簡単に受け入れてくれないだろう。
「まぁ、まずはお姉ちゃんのいない日にしよう」
付き合ったばかりなのに修羅場なんてまっぴらごめんだ。
「面白い話を聞けるのを楽しみにしていますね」
「他人事だと思ってー」
「他人事ですので。せいぜい頑張ってください」




