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アイザワ夫婦は全校生徒から祝福されている  作者: 妖精卿
アイザワ夫婦の体育祭一年目
10/21

010 -Ritsu-

 平日の金曜日。快晴。今日は体育祭。


 相沢律(あいざわりつ)は制服から着替え、教室で蒼乃(あおの)(かみ)()ってもらっている。(となり)では「いりません」と言い続ける日向(ひなた)(かみ)を、(はるか)が編んでいた。


日向(ひなた)(かみ)、すごく綺麗だねー。この長さでどうやって維持してるの?」

「トリートメントして、ヘアオイルをちゃんと()っているだけです」

「へぇ! 何のヘアオイル?」


 (りつ)(かみ)に手を入れる蒼乃(あおの)も口を開く。


(りつ)(かみ)って明るいけど染めてないのよね?」

「うん、染めてないよ。中学の頃はよく怒られたけど。(あお)ちゃんは染めてるんでしょ」

「ええ」

「なんか意外だよね。(あお)ちゃん真面目だし、何で染めようと思ったの?」

「別に私は真面目じゃないわよ。染めたのはそうねぇ……、黒髪のままが嫌だったから? それに染められる時に染めないと機会をなくすかもしれないでしょう」

「それなら大学生になってからでもよかったんじゃない?」

「大学生になってもバイトによっては厳しいでしょう。……はい、できた」


 蒼乃(あおの)がスマホで写真を撮って、(りつ)の後ろ(がみ)を見せてくれる。編み込みのハーフアップだ。


「これは……」

「お、りっちゃんと蒼乃(あおの)もお(そろ)いか」


 日向(ひなた)(かみ)も完成したらし。綺麗な黒髪は、ポニーテールになっていた。いつもの(はるか)の髪型でもある。


「ほらほら、写真撮ってあげるからスマホ貸してー」


 蒼乃(あおの)がスマホを(はるか)に渡す。(りつ)の腕に蒼乃(あおの)の腕が(から)んできた。近い。


「ちょっと、りっちゃん笑ってよ」


 笑顔を振りまく前に、緊張(きんちょう)で顔が硬直(こうちょく)してしまう。


「私の(となり)では笑えない?」

「そんなことないけど……」

「じゃあ笑ってちょうだい」


 (りつ)(ほお)が引っ張られる。情けない姿が写真に収められてしまった。


 体育祭でよく使われるハチマキ。(はるか)から教えてもらったが、(りつ)の通う学校では多くの女子生徒がネクタイとして結ぶらしい。あの文化祭の告白コーナーといい、よく分からない伝統の一つだ。


(りつ)、ハチマキ貸して」


 (はるか)日向(ひなた)がハチマキを首にかけたところで、蒼乃(あおの)が言ってきた。(りつ)のものも蒼乃(あおの)のものも寸分(すんぶん)と変わらぬ白ハチマキである。


「私がやってあげる」

「自分でできるよ」


 この学校、男子は学ランであるが女子はブレザーである。冬服の際は毎日ネクタイを自分でつけているから、女子でネクタイを結べない生徒などいない。


「いいの。つけたいの」


 我儘(わがまま)を通し、蒼乃(あおの)(りつ)の手からハチマキを(うば)い取る。自分で結ぶのとは勝手が違うはずなのに、蒼乃(あおの)は慣れた手つきで完成させた。


「甘々ですな」


 (はるか)が余計なことを言う。そして周りで一部始終を見ていたクラスメイトから、(はや)し立てるような声がいくつも飛んできた。


 文化祭で誕生したカップルは決して(りつ)たちだけではない。一年五組にだってもう一組いるのだ。しかし、話題に上がるのは(りつ)たちばかり。まさにトレンドの独占。


「そろそろ行きましょうか」


 蒼乃(あおの)は自分でハチマキを巻いた。(りつ)には他人のネクタイを結ぶことなどできないので、せがまれなくてよかったなと思う。


 校内の移動でも、(りつ)蒼乃(あおの)と手を(つな)ぐのはデフォルトになりつつあった。隠すものでもないので、(りつ)(にぎ)られるままだ。


「体育祭って、勝ったら何かもらえるものなの?」


 蒼乃(あおの)が先輩と交友の深い(はるか)に問いかける。


「んーなんか賞状がもらえるらしいよ。いらないよねぇ」


 賞状って、クラス替えの時どうするのだろう。担任がもらっていくのかな。


「いやでも勝てるものは勝ちたいですな」


 意外と負けず嫌いな蒼乃(あおの)が「そうね」と返した。

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