010 -Ritsu-
平日の金曜日。快晴。今日は体育祭。
相沢律は制服から着替え、教室で蒼乃に髪を結ってもらっている。隣では「いりません」と言い続ける日向の髪を、遥が編んでいた。
「日向の髪、すごく綺麗だねー。この長さでどうやって維持してるの?」
「トリートメントして、ヘアオイルをちゃんと塗っているだけです」
「へぇ! 何のヘアオイル?」
律の髪に手を入れる蒼乃も口を開く。
「律の髪って明るいけど染めてないのよね?」
「うん、染めてないよ。中学の頃はよく怒られたけど。蒼ちゃんは染めてるんでしょ」
「ええ」
「なんか意外だよね。蒼ちゃん真面目だし、何で染めようと思ったの?」
「別に私は真面目じゃないわよ。染めたのはそうねぇ……、黒髪のままが嫌だったから? それに染められる時に染めないと機会をなくすかもしれないでしょう」
「それなら大学生になってからでもよかったんじゃない?」
「大学生になってもバイトによっては厳しいでしょう。……はい、できた」
蒼乃がスマホで写真を撮って、律の後ろ髪を見せてくれる。編み込みのハーフアップだ。
「これは……」
「お、りっちゃんと蒼乃もお揃いか」
日向の髪も完成したらし。綺麗な黒髪は、ポニーテールになっていた。いつもの遥の髪型でもある。
「ほらほら、写真撮ってあげるからスマホ貸してー」
蒼乃がスマホを遥に渡す。律の腕に蒼乃の腕が絡んできた。近い。
「ちょっと、りっちゃん笑ってよ」
笑顔を振りまく前に、緊張で顔が硬直してしまう。
「私の隣では笑えない?」
「そんなことないけど……」
「じゃあ笑ってちょうだい」
律の頬が引っ張られる。情けない姿が写真に収められてしまった。
体育祭でよく使われるハチマキ。遥から教えてもらったが、律の通う学校では多くの女子生徒がネクタイとして結ぶらしい。あの文化祭の告白コーナーといい、よく分からない伝統の一つだ。
「律、ハチマキ貸して」
遥や日向がハチマキを首にかけたところで、蒼乃が言ってきた。律のものも蒼乃のものも寸分と変わらぬ白ハチマキである。
「私がやってあげる」
「自分でできるよ」
この学校、男子は学ランであるが女子はブレザーである。冬服の際は毎日ネクタイを自分でつけているから、女子でネクタイを結べない生徒などいない。
「いいの。つけたいの」
我儘を通し、蒼乃が律の手からハチマキを奪い取る。自分で結ぶのとは勝手が違うはずなのに、蒼乃は慣れた手つきで完成させた。
「甘々ですな」
遥が余計なことを言う。そして周りで一部始終を見ていたクラスメイトから、囃し立てるような声がいくつも飛んできた。
文化祭で誕生したカップルは決して律たちだけではない。一年五組にだってもう一組いるのだ。しかし、話題に上がるのは律たちばかり。まさにトレンドの独占。
「そろそろ行きましょうか」
蒼乃は自分でハチマキを巻いた。律には他人のネクタイを結ぶことなどできないので、せがまれなくてよかったなと思う。
校内の移動でも、律が蒼乃と手を繋ぐのはデフォルトになりつつあった。隠すものでもないので、律は握られるままだ。
「体育祭って、勝ったら何かもらえるものなの?」
蒼乃が先輩と交友の深い遥に問いかける。
「んーなんか賞状がもらえるらしいよ。いらないよねぇ」
賞状って、クラス替えの時どうするのだろう。担任がもらっていくのかな。
「いやでも勝てるものは勝ちたいですな」
意外と負けず嫌いな蒼乃が「そうね」と返した。




