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おやすみ前の短いお話

賢者の帰還

作者: 夕月ねむ

 きっと、友達だと思っていたのは、僕だけだったんだろう。そっと打ち明け、相談した、そのセンシティブな内容を、幼馴染はあっさり他人に漏らした。


 以来、僕は教室で孤立し、陰口を叩かれ、クスクスと笑われている。当たり前だ。前世の記憶を夢に見ている……なんて、僕だって、自分のことじゃなかったら信じない。


 こことは別の世界で、前世の僕はそこそこ有名な魔法使いだった。『賢者様』なんて呼ばれていたくらいに。


 日本には魔力も魔法もない。それが苦しい。窮屈で、不安で、落ち着かない。もう一度魔法が使えたら。そんなことを考えていたからだろうか……







 幼馴染が妙に真剣な顔で話しかけてきた。

「夢のこと、喋ってごめん」

 今更謝罪されても、僕の居場所は戻ってこないだろう。いいよ、なんて。言えるわけなかった。


 一緒に帰ろうと言われて、方向も同じだから仕方なく歩き始めた。


 そうしたら。地面が光って。


 召喚魔法だった。引き摺り込まれそうになった幼馴染の腕を咄嗟に掴んだ。僕にはその魔法を解除することもできた。できたのに。


 抗えなかった。

 魔力の気配が懐かしくて。このままついて行ければと、思ってしまった。







 召喚された先は僕が前世を過ごした世界で。賢者のことを知っている人たちがいて。僕は魔力と魔法を取り戻した。


 ああ。やっときちんと息ができる。


 幼馴染は勇者だとか言われていた。だけど。本人は異世界に連れてこられたことに酷くショックを受けていて、あまり落ち着いて話ができる状態じゃなかった。


 僕は彼を守ることにした。

 召喚を阻止しなかった罪悪感もあった。けど、何より今の僕はとても強いのだ。無力な子供は守らなきゃいけないだろう。


 勇者の使命とやらに胡散臭さを感じて、僕は勇者の代役を申し出た。途端に、偉そうな大人たちの顔色が悪くなる。


 前世の名前を使って、脅して、聞き出した。ちょっと魔法も使った。ちょっとだけだ。本当に少しだけ。


 そいつらは、勇者を戦争の道具にしようとしていた。そんなこと、させられるわけがない。


 僕は幼馴染を連れて城を飛び出し、前世で世話になっていた国に身を寄せた。僕のことを覚えていた人たちが、戸惑いながらも歓迎してくれた。


「賢者様が随分と可愛らしくなってしまわれた」

 なんて言われたのは心外だけど。


 顔見知りの国王に入手した情報を伝えた。戦争はできる限り回避する。そう約束してもらえて、ホッとした。


 幼馴染は僕に改めて謝罪してきた。まさか、本当に前世や異世界が存在するとは思わなかった、と。


 それは仕方がないだろう。百聞は一見に如かずなんて言葉もあるし。そう簡単に信じられるようなことじゃない。そもそも僕が腹を立てたのは信じる信じないじゃなくて……いや、今更だ。

 僕と幼馴染はもう一度、友達になった。


 僕は今、召喚した異世界人を送り返す魔法を研究している。幼馴染は「もういい」なんて言っているけど、彼を家族に会わせてやりたいんだ。


 ただ、勇者の力に目覚めた彼は、毎日とても楽しそうなので……


 もしかしたら、僕が開発するのは『異世界と手紙のやり取りをする魔法』くらいがちょうどいいのかもしれない。









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