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14)果てしない地平線の先まで

 寂しがり屋の癖に意地っ張りで、いつでも本音を隠していた少年。


 思い返せば、世界は彼が中心だった。

 目を覚ました時から傍に居てくれた。

 寂しさを感じた夜には話しかけ続けてくれた。

 白だけの世界で、青い空も、無数の星空も見せてくれた。

 流した涙も、滲んだ哀しみも、全て受け入れて抱きしめてくれた。


「ニル……」

 この身体がヒトでありたいと願い続けるのは、彼という

存在と共にいたいから。


 小鳥がカゴから放たれ、自由な世界を得たとしても、

彼の手を、その声を、その存在を失うのならば……。


 姿形が変わっても、この存在が消えても、愛した者に

生きていてもらいたいと自分も考えていたのだから、わかる。

 そして、遺される者の心境を今、知った。


「ニル!」

 名前を呼んで走り出していた。

 一瞬の躊躇も無くホールへと飛び降りる。


「ユレカ?」

 一瞬の浮遊感の後、服と髪が舞い降りる。

 着地する前にニルに抱きとめられたものの、

互いの腰くらいまでの液状のクリーチャーが満ちており、

それらが肌を刺すようにだった。


「ニル……」

 見つめると、困ったような、泣きそうな表情のあと、

思い切り怒鳴りつけられた。

「バカ! ナニやってる! 何で来た! この、バカ!」

「ニルは一緒に生きようって約束してくれたもの!」

「ソレはソレだ! それよりも早く上がれ!」

 上から声をかけるシザー達に首を振って見せた。

 ニルの身体を抱きしめる。離れるつもりなど無かった。


「だって、あの病室にいた時からずっと、私の

『幸せ』と世界はニルだったから……ニルのいない場所で、

見つけられないよ! 代わりなんていないよ!」

「ユレカ……」

「ずっと、傍にいたいの。ニルとなら……」

 ニルが唇を噛んだ。


「……オマエ、海、見たかったんだろう? 

やりたい事があるって言ってたじゃないか! なんで……」

「海、もう見たもの」

「?」


 ニルの青い瞳に映る風景は、海だった。

 このプールの中で波立つ赤い水面が、彼の瞳には

澄んだ海原に見える。

 そこで微笑む少女は、幸せな笑顔を浮かべていた。


「私、この海が一番好きだもの」

「バカ!オレなんかの為に、全部捨てるな!」

「捨ててないよ! ニルが、その全てより

欲しかったから、ニルを選んだだけだもの!

もし、私がヒトじゃなくなってしまったら……

この腕で、また、繋ぎ止めていて欲しいから……」

 あの病室に居た時のように、二人だけで存在したい。

 どれだけ世界から隔たりを受けようと、構わなかった。


 その言葉に、ニルが瞳を見開いた。泣いている。


「バカだな……折角、自由になったのに。仲間だって出来て、

一人じゃなくなったのに。何も無かった病室とは違う。

何でもある世界なのに。……バカだ。オレを

選んだりして、ホント、バカだな……」

 ニルの腕に抱きしめられる。


「ありがとう、オマエが選んでくれたから、どんな困難も

乗り越えて見せる。オマエの人生も、命も、魂も、ずっと

オレはサポートし続ける……共に、生きたいから……」


 波打つ血の海の中、遠のきそうになる意識はニルだけを

想っていた。


 命ある者が生まれる場所が海ならば、

いつかまた、巡った命の断片が逢えるのも、この

海なのだと信じて……。




--------------------------------



 あれから数年の月日が流れたガイアシティでは、

あの日と変わらぬ日常が今も続いていた。


 オズという支配者が消え、政府の混乱もあった。

 だが、マルタの誘いでディーバに復帰したシザーが

混乱を上手く纏めていると言う。

 二人は遠方のガイアシティまで足を運んでは、

マリエンからの手紙を届けてくれたり、他愛も無い話を

しては和ませてくれていた。


「二年、か」

 背伸びをすると、少しだけ伸びた身長に今の椅子は

小さいようだった。


「二年って、長いようで短かったね、ニル」

 対になる椅子に腰掛けている相手に話しかける。

『……』


 だが、少年の姿をしたアンドロイドは、瞬きもしない。

 この店内の時計や靴、銃のように、ただ静かに

そこに『在る』だけだった。


 壊れてしまった少年人形の手を取るも、握り返す事は

もう無かった。

 手を離せば重力に従って落ちるのみだった。

 あの時、ニルを追って死地に飛び込んでから、

目を覚ましたのは廃墟となったクレイドルの中だった。


 生存者を捜索していたディーバ部隊に発見され、

しばらくマリエン達の住む場所で静養していた。

 シザー達の話でインの死を知ったマルタは

号泣していたが、賢明な彼女はインの理念を胸に

ディーバの再興をはかったと言う。


 ニルヴァーナシステムは沈静化していた。

 ふと、思う。


 犠牲者達は大地に戻り、この世界を見守ってくれる存在へと

昇華したのではないか、と。それは希望の推測でもある。

 もしくは、情念の全てをこの身が喰らったのかも

しれないとも思う。

 今も成体となる事は無かった。

 天変地異らしきものも起こらず、平穏無事に毎日が

過ぎている現状を見た結果論でしかないのだが。


 ニルは廃墟の中、寄り添うように倒れていたと言う。

 クレイドルの崩壊から庇うように、

顔や身体はヒビ割れ、片腕が折れていた。

 蒼空のようだった瞳は機能停止を示す灰色のガラス体へと

変化し、もう、二度と喋らなくなってしまっていた。


 アンドロイドにとっての脳であるAI機能が完全に壊れてしまっていると

緋牡丹から言われた。

 別のAIを入れれば、また稼動するとも言われたが、断った。

 姿形は同じでも、それはもう共に生きていたニルではない。


『ニルは、きっといつか動き出すから』


 皆に笑って見せていた。

 きっと、ニルの心は何処かに居る。

 そうでないなら、消えたりしない。

 誰もがニルの生還を絶望視しているが、自分だけは

信じ続けていた。


 『病室』に戻っているのかも知れないと、回復して真っ先に

インセクタリウムに戻った。だが、荒れ果てたそこは蜘蛛の巣にまみれ、

ニルと夢を語らった部屋も朽ちて姿を変えていた。


 今はガイアシティのマレーナの店で働きながら、ニルを

待っている。


「この人形……」


 話しかけられて顔を上げると、男が壊れたニルを

見つめていた。客が来たのだと立ち上がると、相手は

「ちょっと型が古いが、いい造形をしている。幾らだ?」と

問うてくる。


「ごめんなさい、この子、売り物じゃないんです」

「なら、何で店に置いてる?」

「いつか、帰って来る時の為に……」

 どんな身体であろうと構わない。けれど、戻って来たら

彼はこの身体に戻るような気がしていた。


「よくわからないが……。それより、店員さん、結構

可愛い顔してるな。ちょっと俺の装備、

見立ててくれないか? 仕事あがるの何時?」

 ニルに興味を示したフリは話しかける為の口実かと

気づいた時、頭に来て男から離れた。


「きょ、今日は夜までお店番だから、無理です!」

「なら、終わるまで待ってるけど?」

「終わった後は、待ってる人がいるから無理ですッ!」

「別に少しくらいいいだろ? 別に付き合って欲しいって

言ってるわけじゃないんだしさ」

「そーゆー関係は、もっと無理ですッッ!」

 運悪く店主のマレーナが配達中で不在の為、

こういう手合いが来た時は自己防衛せねばならない。


 その時、店の前でバイクの音がした。




 と、革靴の音を響かせて、また別のバイオロイド客が

入ってくる。ようやく、この客と二人きりにならずに

済むと思っていたが、その客もニルの人形を見て

『コレって……』と、話しかけてきた。


「そのコは、売り物じゃないの!」

「なら何で店に置いてるんだ」

 またか! と思いながらも「大好きなコ……だから」

と、渋々呟くと、相手が帽子を脱いだ。

 猫の耳にも似たHEDDが灰色の髪の上で揺れている。


「……オレのライバルはコイツか」


 青い瞳と日に焼けた肌、薄い唇。

 椅子の上で眠り続けるニルと、バイクの青年を

見比べる。ニルが青年になれば、こんな容貌だろうか。

 青年の足元を見ると、靴の紐は不器用に絡まり、

玉結びが無数にあった。



 昔、この店で見たのと同じモノだった。


「ニ、ル……?」

「他に誰かいるのか?」

 頬を赤らめて呟く姿も、そのぶっきらぼうな口調も

ニルそのものだった。

 凝視し続けていると、ニルが顔を逸らす。


「……やっぱり、このバディじゃ気に入らない、か?」

 どうして人間になっているのかだとか、今まで何をして

いたのかとか、問いたい事は山ほどあった。

 だが、気づいた時には走り出していたのだ。


「ニルー!」

 ニルの身体に抱きつき、頬を寄せた。

「ニル! ニル! ニルー! ニールー!」

「うわ、ゆ、ユレカ、危な……」

 相手はよろめいて後方に転んだ。

「ッ……」

「あ、ご、ごめんね、ニル、だいじょぶ?」

 背中と頭を打ったらしいニルを上から覗き込むと、

そこでナンパしていた客は「チッ! なんだよ、彼氏かよ」と

舌打ちをして去って行った。


 後に残されたのは、ニルと、それに馬乗りになっている自分だけ

であったが……。


「ニル、どうして……ニンゲン、に?」

「それは……いや、それより先に、ど、どいてくれ……」

「ご、ご、ごめんね。重かったよね」

 慌ててニルの身体から下りる。ニルは顔を逸らしたままだった。

「い、いや……」

 そこでニルが懐からカードを取り出した。


 それは身分証名書で、名前欄には『レイ』と記されていた。


「レイ?」

 レイとは、ブレアの子の名前だった。だが、あの中に

放り込まれ、既に死亡していたはずではなかったのか?


「あの日、オレは薄れゆく意識の中、オマエと過ごした日々、これから

共に生きたいという願い……そんなコトばかり考えて、

目が覚めた時、海にいた」

「海?」

「アクアヴィレッジだ」


 アクアヴィレッジと言えば、Eシティの遥か南にある海の

見える村だと聞いている。

 Eシティから川で繋がっているのがアクアヴィレッジだ。


「そこの町の人間に助けられたんだが……」

「ニル、どうしてその身体になったのかの説明が無いよ?」

「オレもよくわからないんだ。海で目が覚めた時、

オマエの事とニルヴァーナとしての過去しか無いのに、

生身の身体だったから、当初は混乱した。

オレの推測だが……ニルヴァーナとして生きた記憶が

レイにバックアップされたようなものなのかな……。

レイはニルヴァーナシステムの根幹に居たから、それぐらいしか

思いつかない」

 生身の人間がアンドロイドに宿った心を受け継いだのか?

 いや、そもそもニルヴァーナシステムとは人間の脳である。

 ならば、レイの心はニルを通して『生きて』いたのか?


「でも、生身じゃ道具が無ければ、ネットワークに

アクセス出来ないし、この身体にはナビゲーションシステムも無いから

場所もわからない。それに……」

 そこでニルが足を見せた。


「……歩き方がわからなかった」

「え?」

「突然、生身になったんだ。アンドロイドのバディとは

手足の動かし方も違うし、喋ろうとしても、

上手く言葉にならない。要介護者として施設で世話、されてたし……」

 ほとんど寝たきり状態だったのだろうか。


「起き上がるコトさえ出来なかったんだ。何をどうすれば

動くのかもわからなくて……肉の身体って、重いんだな」

 人間でも生まれた当時は這っているが、ニルは

大人の身体で赤子のように過ごしていたと言うのか。


「でも、オマエが待ってると思って必死にリハビリして

あちこち探し回った」

「そんな……電話してくれれば良かったのに……」

 呆れたように溜息をつかれた。


「喋る事も、筆記スキルに到るまで、一年半

かかったんだ。それにオマエ、

クリーチャーの海に飛び込んで、携帯壊しただろう?」

「あ! そ、そう言えば……ご、ごめんね」

「いや……。それと、思うんだが、あのホールの中は

人間の思念が渦巻いていたが、レイは

投げ込まれても生きていたんじゃないか」

「え?」


 肉食性のクリーチャーが嬰児を放置していたと言うのだろうか?


「あの中はヒトの想いが詰まっていた。志半ばで

倒れた者、我が子と別れた者、辛い経験をした者……

そんな彼等が、自分達と同じく……いや、生まれて直ぐに

捨てられた存在を哀れに思い、守っていたのだとしたら」

「どうして、そう思うの?」

「強い精神の者が、自分より弱い存在を見殺しにすると

思うか? それに、あの中にはオマエの、両親もいただろ」

「……」


「そんな人達がいたんだ。何らかの作用でクリーチャーから

守っていたのかも知れない。レイの身体も、基本は

バイオロイドだが、ブレアの母親はレムナントだった。

感情を糧に生きたIDオリジナルのスキルを受け継ぐ

レムナントの血筋なら、あのホールの中で

生きていた可能性はゼロじゃない。まあ、そう思えたのは

DNA鑑定を受けてからだったがな」


 ニルは得た身体が誰のものなのか分からず、

医療機関で鑑定を受けたと言う。


「……この身体にはブレア達の遺伝子があるらしい。

ニルヴァーナシステムにはレイも含まれていた。オレは……

レイ、だったのかな……」

 多くの悲劇を生み出したブレアを思うと、その血筋の

肉体を持つ事にニルが複雑な感情を抱いているのが見て取れた。

 逡巡しているニルの頬に触れ、視線を此方に戻す。


「ニルはニルだよ。身体が変わっても、誰の血筋でも、私の知っている

ニルだから! 不安になったら、そのたびに、

私が証明するから。……え、えっとね、そのね、

『私の大好きなニルだよ』って、教えるから……」

「ユレカ……」

 目を細めて笑うニルが「まいったな」と呟く。


「格好良く登場するつもりだったのに、オマエの方が

カッコいい。それに……」

 そう言いかけたニルがバランスを崩して後方に転んだ。

「生身は、いちいち痛い……」

 尻餅をついているニルを起こそうとすると、相手は

「……何て不便なんだ」と文句を言っている。

「もう、ニルったら。生身が欲しいって言ってたのに」

 少し虐めると、相手は照れ隠すように目を逸らした。


「こんなに不便だと想定するワケないだろ? 直ぐに

腹部からヘンな音がするし、体温調節がオートじゃないから

カゼは引くし。いちいちトイレや風呂に行かないと

いけないのが、ものすごく不便だ。風呂に入ると、

髪の毛がハネるし……」

「え? そのハネてるの、そういう髪型じゃなかったの?」

 寝癖だったのか。

 そこでニルが慌てて口を押さえた。


「あ……! い、いや、ち、違う! こういうデザイン……

いや、髪形なんだ、うん!決して、お前の居場所がわかったから

慌てて飛び出して来たとかじゃ、ないからな! 

べ、別に、オレ、寂しいとか感じてないし……」

「あはははは」

「わ、笑うなよ! 違うって言ってるだろ!」

 耳まで赤くして怒り出すニルの服を掴み、その青い瞳を見つめる。


「あ、あのね、そのね、私は……凄く寂しかったよ?」

「え?」

「ニルと一緒にいる事が当たり前だったから、いなくなって……

ずっと、寂しかった……」

「ユレカ……」

「だから、また逢えて、嬉しい。ずっと笑っていられるくらい、嬉しい」

「……」

 そう告げると、目の前の青い瞳が、一筋の雫を落とした。

 泣いている?


「ニル、涙……」

「な、泣いてない! 泣いてなんか、にゃい!」

 鼻声になって目元を乱暴に拭っている。

 背を向けたまま、しばらく肩を震わせていた涙もろい青年は、

小声で呟いた。

「……泣きたいくらい嬉しいって、本当にあるんだな……」

 そこでニルが振り返った。頬は照れて赤いままだったが。


「オレも、ずっと、逢いたかった。話したい事があって、

一緒に行きたい場所があって……」

「わ、私も、行きたい場所、いっぱいあるの……」

「ああ、海だろ?」

 それもあるが、口篭ってしまった。

 俯きながら、口を開く。


「あ、あのね、そのね、怒らない?」

「怒る? そんなの、聞いてみないと分からない」

「じゃ、じゃあ言わない」

 ニルに背を向けると、足音が近づいてきた。

「おい! その前フリで言わないって、余計に気になるだろ?

わかった、怒らないよ」

「ホ、ホントのホントに?」

「ああ。だから、何でも言ってみろ」


「だ、だって……あの、あのね、ホテル……」

「は?」

「ホテル、行きたいな?」

 素っ頓狂な声が上がり、振り返ると、真っ赤になったニルが

口元を押さえていた。


「オマエ、こ、この、バカ! あ、明るい内から……そんな、いや、でも、

オマエの気持ちとか、タイミングとか、その場の空気とかが

いいカンジだったら、さり気なく行きたいとは思ったり……し、してないけど!

オマエがイヤじゃなかったら、別に、その、あの、お、オレは

構わないケド……」

 絵に描いたような狼狽ぶりだった。本音も、駄々漏れである。

「あ、あのね、そのね、ニルと初めて此処に来た時、私、マンイーターに

攫われちゃったから……」

 それにニルはホテルで即座に熟睡していた。


 あの日の夜をやり直してみたい気持ちがあった。

 そこで、ニルが肩を落とす。

「……ああ、オレが『好きな料理何でも食わせてやる』って言ってた、

アレか……オマエ、そう言えば何も食べれなかったもんな。

そんなの覚えてたのか……まあ、別にいいけど」

 今にも膝を抱えてしまいそうなくらいに、落ち込ませてしまった。


「ち、違うの。あ、あのね、あのホテルのおフロ、凄かったの!

また、入りたいな、って。ね? ニルも一緒に行こ?」

 そこで、またニルの絶叫が店内に響いた。


「バカなコト言うなー! い、い、一緒にフロなんか入れるかー! このバカ!

は、恥ずかしいだろ! オレ、その、身体……自信、無いし……」

 そういうイミでは無かったのだが、否定すれば更に落ち込む気がした。

「ニル、身体どうかしたの?」

「べ、別にどうも何もしてない!」

 ああ、ブレアの子ならばバイオロイドなのか。

 雌雄があるのを気にしているらしい。


 そこでニルの手を握った。

「ニルはニルだもの。私がどんなになっても、ずっと傍で

励ましてくれてたニルが、男の子でも女の子でも、大好きだよ」

「ユレカ……あ、ありが……」

「それに、あ、あのね、そのね、私も女の子だから、

ニルの相談に乗ってあげれると思うの」

「……はあ?」

「生理痛で辛かったりしたら、言ってね? 女の子の悩みだったら……」

「……おい……」

 そこでニルの手が近づいたが、額を指で弾かれる。


「あうっ」

「この、バカ! バイオロイドは男でも女でもない! オマエ、そう言えば

インセクタリウムでもオレの事、女扱いしてたよな? このオレの身体の

ドコが女に見えるんだよ! もう、二度とそんな事言えないように、

バイオロイドの事、たっぷり教えてやるからな!」

 ニルに手を握られ、入り口へと連れて行かれる。




「じゃあ、行くぞ」

「え? 何処に?」

「まずは、海」

「わあ! ホントのホントに? あれ? 『まずは』?」

「う、五月蝿いな! その後の事は、その、あの、フンイキとか、あるだろ!」

「そうだね。フンイキだよね」

「……わかってないよな。ゼッタイ、お前わかってない」

 溜息交じりなニルにムッとした。


「わ、わかってるもん! ニルと一緒にお風呂に入るくらい、

もう大人だから出来るもん! 二人で背中洗いっことかするもん!」

「ば、ば、ばか! 大人は、そんな事やりたくても大声で言ったりしない!」

「あうぅ、そ、そうだよね。じゃあ、お風呂は止め……」

 だが、目の前でニルは「……ま、まあ、海で泳げば風呂には

入りたくなるだろうけどな」と、腕を組んで呟いていた。


「……あ、でも、私、まだお仕事中……」

 そこでニルが片手で電話を示すジェスチャーをして見せた。

「マレーナに予約してある。しばらくオマエを借りるってな」

「え? いつの間にしたの?」

「ムダはキライなんだ。いや、そうじゃないか……。

オマエに……その……、早く、逢いたかったから……」

「……ニル……」

「ほら、早く来い。今日は風が少し冷たいから、気をつけろよ」

 照れながらもニルがDADポケットからヘルメットとジャケットを

取り出し、手渡してくる。


 腕を引かれて店を出ると、入り口ではニヤニヤしながら

見ていたマレーナがいた。

「行ってらっしゃい! イケメンのボウヤ!」

「悪いな」

「いいのよ~でも、戻ってきたらボウヤにも

お店で働いてもらうからね!」

 そんなマレーナに手を振って応え、ニルはバイクに乗る。


「しっかり掴まってろよ」

「うん。離せって言われても、もう離さない」

「……ば、バカ。恥ずかしい事、言うな……」

「えへへ」

 その身体を抱きしめると、温もりと鼓動が染みるようだった。


 あの全ての始まりの日もニルの後ろにいた。僅かな

希望を掴む為に走り出そうとしていた。

 だが、今は違う。


 高く青く澄んだ空の下、逃げ延びる為ではなく、

互いに寄り添いあって生きる為に走り出す。


 輝く陽の光は白く伸びて、果てしない地平線の先まで

照らし続けていた。

お疲れ様でした……! 長い話を読んでくださってありがとうございます!!

この話は10年以上前に書いたものなのですが、懐かしくなって引っ張りだしてしまいました//////


サイトにはインソムニアや緋牡丹、シザーと結ばれるルートの選択肢があるVerも公開中ですので、よろしければ是非……!

https://meglion.web.fc2.com/id.html

↑名前入力式でゲームっぽくしております!

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