浮気相手・ミラの話
私、ミラ・ルージュは婚約者が居ると知りながら、とある男性と交際しておりました。
彼の名はアレン・ナッツ、兄に誘われてやってきたマウントばかりの読書会に困惑していた私を心配して優しく声をかけてくれた人。
父と兄ぐらいしか男性と交流を持った事がない私は彼の優しさにアッサリと落ち、そのまま交際を始めてしまいました。
付き合うようになってから、彼はしきりに私の髪型を始め、服装、振る舞い方、口調に対して口に出し、その度に彼の言われたとおりにするとアレンはとても喜びました。
それが嬉しくて愛されてると感じ、幸せでした。
ある日、家族と共に出掛けている時に彼が女性と歩いている所を目撃し、後日、問いただしたところ。
「君が思ってる通りだ。俺と一緒に歩いていた女性は俺の婚約者だ」
その言葉を聞いてショックを受けました。
私は婚約者を持つ男性と恋をしていたのです。
私は身を引こうと思い、別れを切り出しました。
「俺とマリナ、婚約者はとても仲が悪いんだ。親同士の政略結婚でマリナ側は俺のことを見下して妹のことまで馬鹿にする始末。ほとほと、愛想が尽きてるんだ。
そんな時に出会ったのが君さ、ミラ。俺は君を離したくない!! 別れるなんて言わないでくれ!!」
そう言われ、強く抱きしめられました。
私を抱きしめる腕の強さに私は彼に愛されているのだと強く実感し、私はアレンの背中に手を回しました。
そして、私はアレンを婚約者から解放してあげたいと強く思ったのです。
その日から私はアレンの婚約者が誰なのか探りを入れ、そして、一つ上のマリナ・クルーゼ伯爵令嬢であることを知り、そして、婚約破棄するように迫りました。
そして、私は出会ってしまったのです。
私と瓜二つのアレンの妹、エリーゼさんに。
それからのことは余り覚えておりません。
覚えているのは私はアレンの実妹であるエリーゼさんの代わりにされていたという事実とアレンが愛しているのはエリーゼさんだけということです。
私はあれだけ愛していたアレンに嫌悪感を感じ、騙されていたこともあり私は精神を病んでしまいました。
家族は婚約者がいる男性と恋仲になったことには怒っていましたが私の憔悴ぶりを見て、優しく見守ってくれていたのが救いです。
学園に通うことが難しくなり退学することになりましたが、学園ではすでに私とアレンの話が出回ってると父から聞いたので、どのみち退学していたでしょう。
入院中はカウンセリングを受けながら日々を過し、数ヶ月過ぎた頃には外に出て本を読めるまでに回復しました。
「やあ、ミラさん。今日はどんな本を読んでるんですか?」
「こんにちは、レックスさん。今日は私が大好きな冒険小説を読んでいるの」
病院の中庭で本を読んでいたら、入院患者の一人である男性に声をかけられました。
彼の名はレックス、子爵家の令息です。
レックスさんは心の底から愛していた婚約者に駆け落ちという形で裏切られ、精神を病んでしまい、私が入院する一ヶ月前から入院しており、私が中庭で本を読むようになってから話すようになり、今ではお互いの好きな本について語り合い、読んだ本の感想を言い合う関係になっています。
「もしかして、冒険貴族・ニックの冒険ですか?」
「ええ、最新刊が出たので父が買ってきてくれたのです」
「へえ、そうなんですね。退院したら、早速、その本を買いに行こう」
「退院?」
「ああ、退院が決まったんだ。君と話すようになってから良くなってね、それでお医者様からもう大丈夫って言われたんだ」
「・・・・・・そうなんですね」
退院すると聞いて、私は悲しくなりましたがレックスさんにとっては良いことです。
彼と色んな本の話をするのはとても楽しかった、アレンを忘れるぐらいに。
そう、私はレックスさんに恋をしております。
だけど、婚約者が居る男性と騙されていたとは言え付き合っていた女なんかレックスさんとは釣り合わない。
この気持ちを永遠に打ち明けるつもりはありません。
私は笑顔で退院する彼を見送ろうと思い、彼と向き合ったとき。
「僕は君と離れたくない。君が退院したら、正式に婚約を申し込む」
真剣な顔でレックスさんは私にそう告げました。
私は信じられなくて、夢でも見ているのかと思ってしまいました。
「・・・・・・それはどういう意味ですか?」
「そのままの意味です。父にも話してあります、父は僕の心を癒やしてくれた君なら良いと許可してくれました」
「でも、私は騙されてたとは言え、婚約者が居る男性とお付き合いしていた身。私よりもきっと良い人が・・・・・・」
「ミラ・ルージュ伯爵令嬢、君が良いんだ」
真剣な眼差しで真っ直ぐな言葉に私の目から涙がボロボロと流しながら、私は小さく、彼の言葉に「はい」と返事をするのがやっとでした。
私の退院後、レックスさんは私の婚約者となり、幸せな日々を送っております。