後編
ミラとの話し合いから一週間後。
私達はナッツ伯爵邸にて、私、そしてアレンの浮気相手であるミラを交えての話し合いが行われます。
この話し合いの場にはエリーゼはいませんでした。恐らく、事態を知ったナッツ伯爵が参加させるのを拒んだのでしょう。
――実の妹と似ている女性と浮気。
この件について、知っているとは言え詳しく触れて欲しくないと思うのは私も同じ気持ちです。
「この度は愚息の馬鹿な行いのせいで迷惑をかけてしまったことを深くお詫びします」
ナッツ伯爵からの謝罪から話し合いは始まりました。
アレンは顔をあげず、ただただ頭を垂れているだけです。そんな彼に私の父が苛立ちながら、ミラと浮気したことは事実なのか聞くと。
「はい」
「ほう、すんなりと認めるんだね」
「・・・・・・・・・・・・」
「この話し合いまでの一週間の間に証拠を集めて問い詰めました」
「成る程」
父は黙ってしまったアレンをギロリと睨付けながら、彼の父であるナッツ伯爵の言葉で今のアレンの状態に納得したようです。
想像ですが証拠を集めてから言い逃れ出来ない状態にさせて、説教したのでしょう。
しおらしい姿に私はなんとも言えない気持ちになります。一応、愛していた婚約者でしたからね。
「此方からの質問よろしいでしょうか? なぜ、君は婚約者と不仲だと嘘をついてまで娘と、ミラと関係を持ったんだ?」
今度はミラの父親からそう質問されるとアレンは体をビクッと震わせるが口を開こうとしない。
ナッツ伯爵は怒鳴ったりはしないものの早く話しなさいと圧をかけているが一向に話す様子はない。
私はミラの様子を窺う。彼女はアレン同様に項垂れていました。自分がエリーゼと似ていること、似ているエリーゼがアレンの妹であることを知った彼女は今はどう思っているのでしょうか。私には想像出来ません。
「・・・・・・・・・・・・妹に、エリーゼに似ていたから」
しばらく黙っていたアレンがミラと関係を持った理由を述べました。
その内容にその場にいた全員が凍り付くのを感じました。
彼は、アレンはなんて言った?
私は彼の放った言葉に信じられなくて、彼を凝視しました。
「・・・・・・アレン、もう一度、言ってくれないか? お前がミラ嬢と関係を持った理由を」
「エリーゼに似ていたからだ!! 理由なんてそれ以外なんてない!!」
今度こそハッキリ言い放ったアレンは興奮のせいかガタンと椅子から立ち上がり、自身の父であるナッツ伯爵を睨付けました。
あんなに怖い顔をしたアレンを見るのは初めてです。
「だいたい俺が浮気した原因は貴方のせいだ父上!! 貴方がエリーゼにお見合いをさせ婚約者なんて出来なければ俺は浮気なんてしなかった!!
婚約者が出来てからエリーゼはあの男のことばかり!! 寂しさのあまり、俺はエリーゼに似ているミラと関係を持ったのさ!!
エリーゼの友達であるマリナと婚約したのもエリーゼを俺の傍から離れなくさせるためだったのに!! 貴方がお見合いなんてさせなければ全ては上手くいってたんだ!! だから、俺は自分を慰めるためにエリーゼに似ているミラと関係を持った!!
だから、俺は悪くない!! 悪いのは貴方だ!!」
アレンの叫びに誰もが閉口するしかありませんでした。
私と婚約したのはエリーゼを自分の傍に置くため? もしや、アレンはエリーゼのことが・・・・・・、そう考えると彼がエリーゼに対する態度に納得できます。
「悪いのは貴方でしょ!!!!!!」
誰もが沈黙する中、話し合いの場に割り込んできたのはエリーゼでした。
そして、アレンに近寄ると思いっきり頬を叩き。
「気持ち悪い。アンタなんか兄とは思いたくない」
そう冷たく言い放ちました。
「き、気持ち悪い? 俺はただエリーゼのことを愛しているだけで!」
「それが気持ち悪いって言ってるの!? マリナと婚約したのは私を傍に置くため? ミラと関係を持ったのは私に婚約者が出来たから? ふざけるな!!!!!! 金輪際、私にもマリナにもミラにも近づくな!!!!!!」
エリーゼの心の底からの声にアレンはその場に泣き崩れ、話し合いは終了となりました。
話し合いから一ヶ月が経ちました。
私とアレンの婚約は正式に白紙という形で婚約破棄をし、アレンは田舎にある別邸での謹慎を命じられました。
話し合いの翌日には田舎へと送られましたが、暫くして病死したという話が耳に入りました、恐らくアレンの存在は邪魔だと判断されたのでしょう。
ミラは私に慰謝料を払った後に病院に入院し学園を去って行きました、精神を病んでしまったようです。ミラはアレンに言われるがまま髪型をエリーゼと同じものにし、化粧も立ち振る舞いもエリーゼと同じようにしていたようです、何も疑問も持たずにそれを受け入れていたのはアレンを心の底から愛していたのでしょう。
それなのに妹の代わりにされていたという事実に精神を病んでしまうのは仕方ないことだと思います。
エリーゼもまた実兄からの想いを知り、精神を病みかけましたが彼女の婚約者が献身的に支え、今は婚約者と共に異国の地に旅立ちました。定期的に手紙を送ってきてくれて元気に過ごしているようで安心しました。
私は好きな本を紹介したり読んだ本の感想を言い合うことを目的とした読書会を主催し、穏やかな日々を送っています。
その読書会に参加してくださっている初老の貴婦人から孫息子の嫁にならない? とお見合いを持ちかけられ、今はお見合い相手である貴婦人の孫息子と婚約しております。
アレンのことは好きでした。けど、彼の想いを知ってしまった以上、彼に対する想いはもうありません。
彼の事は忘れて、穏やかな新しい婚約者と幸せになろうと思います。