前編
私の名はマリナ・クルーゼ。とある国のしがない伯爵令嬢でございます。
学園に通う身である私ですが、卒業したら結婚する身でもあります。つまり、婚約者がいるということです。
婚約者の名はアレン・ナッツ、ナッツ伯爵家の跡取りです。彼との出会いは3年前、学園に入学したばかりの頃にアレンの妹であるエリーゼと親しくなったことから始まります。
彼はとてもエリーゼを溺愛しており、妹と仲良くなった私がどんな人物か、エリーゼに相応しい友人か見極めるためにお会いし、「妹の友人として、申し分ない!」と気に入られた事が切っ掛けとなり、趣味がお互い読書という事もあり急速に仲良くなった私と彼は婚約を結ぶこととなりました。
妹であるエリーゼの事になると人が変わるような人ではありますが、しっかりとエスコートしてくださり、デートは楽しませ、私に愛の言葉を囁きます、そんな彼に私が惹かれるのは時間の問題でしたわ。
それなりに私とアレンは良好な関係を築いていると思っていますが、最近、不満を抱えております。
「全く、エリーゼの婚約者は本当にダメだ。エリーゼはあんな男のどこが良くて婚約したんだ!」
不満。
彼が会う度にエリーゼの婚約者に対する愚痴ばかりしか話さなくなったことです。
私とアレンが仲を深めている間にエリーゼはお見合いをし婚約をしておりました。
その事を知ったときのアレンは酷く取り乱し、父親から一喝されるまで暴れたそうです。
何度も言いますがアレンは妹であるエリーゼを溺愛しております、それはもう目に入れても痛くないくらいに。それ故にエリーゼに対して過干渉です。
出掛ければ何処に行ったのか、どうやって過したのかこと細かく聞かれ、服装に対してもエリーゼに似合わないと口を出す。当然、友人関係にも口を出し、親しくしてもアレンの介入でダメになるという事が何度もあり、まともに友人関係を続けられたのは私だけだそうです。
エリーゼはそんなアレンに対して反発、ナッツ伯爵夫妻はアレンに妹離れするように叱りつけていたようです。
最初の頃は私には年の離れた弟が居りますが年の近い兄弟が居ないので年の近い兄妹はそういうものだと思っておりましたが、アレンのエリーゼに対する過干渉は普通ではないと、アレンがエリーゼの婚約者の愚痴を言う姿を見て、ようやく理解し始めました。
アレンもアレンで私との仲を深めていた間に愛しの妹に婚約者が出来たからか冷たい態度を取るようになっていきました。
私とアレンの関係に亀裂が入っていくのをヒシヒシと感じていました。
そして、決定的な亀裂が入る出来事が起きました。
ある日の昼休み、学園の中庭で用事があって遅れるエリーゼを本を読みながら待っていました。
「あの、クルーゼ伯爵家のご令嬢であるマリナ様でしょうか?」
とある少女に声をかけられました。
本から声をかけてきた少女に視線を向けると私は驚きました。
彼女は親友でありアレンの妹であるエリーゼにそっくりだったからです。
彼女はそんな私の態度に気にすることなく口を開き。
「彼、アレンさんと婚約破棄をして下さい!! 彼を解放して下さい!!」
そう私に訴えてきたのでした。