表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/8

「アルベロッソ市の冒険者ギルド リヴァージュ・ブルー」

 翌朝、清々しい目覚めと共に、体が鈍らないよういつものルーティンをこなす。宿の温かい朝食を済ませ、女将のガーダ・ロワ・マリーに別れを告げてチェックアウト。いよいよ、ノヴァーラの南に位置する都市、アルベロッソへと向かう。


 街の停留所には、トゥクトゥクを思わせる三輪の乗り合いバスが停まっていた。それに揺られること二時間。舗装されていない道も多いのか、お尻が少し痛くなった頃、目的地へと到着した。馬車や徒歩での移動が当たり前だと思っていただけに、文明の利器に少し安心する。


 南国特有の、どこか塩辛い潮風が心地良い。空は抜けるように青く、白い壁の家々が陽光に照らされている。本当にこの街は、女神様が言っていたような危機に瀕しているのだろうか。あまりの平和な雰囲気に、思わず気が抜けてしまいそうになる。けれど、こんなにも美しい街を、死の都に変えるわけにはいかない。私は、この街の冒険者ギルドを探すことにした。


 新鮮な魚介を使ったランチに舌鼓を打ちながら、街をゆっくりと歩き回る。夕暮れが近づいた頃だろうか。ついに、目的の場所を見つけた。『ギルド リヴァージュ・ブルー』。一見すると、洒落たオーシャンビューのバーのような佇まいだ。これが、この世界のギルドの一般的な姿なのだろうか。


 扉の向こうからは、ざわめきにも似た声が聞こえてくる。気になって耳を澄ますと、皆が口々に「マカーブル」という単語を繰り返している。やはり、奴らはすぐそこまで迫っているのだ!


 壁の陰に身を潜め、気配を探る。しかし、エミリアの鋭敏な知覚能力をもってしても、その恐ろしい敵の存在を捉えることはできない。こんな近くまで来ていたのに!得体の知れないプレッシャーが、じわりと肌を粟立たせる。


 私は少し早足で、ギルドの中へと足を踏み入れた。


 騒然とした雰囲気の中、ギルドの中央で、ひときわ冷静さを保っている男がいた。すらりとした浅黒い肌の、かなりのイケメンだ。黒髪にエキゾチックなターバンを巻き、一見すると派手な装飾品に見えるそれは、全てが精巧な魔道具で、微かな音すら立てていない。エミリアとエミーナの研ぎ澄まされた感覚が、彼が明らかに上級のレンジャーであることを告げていた。


 彼は、怯えた様子の商人に対し、落ち着いた声で丁寧に話しかけている。


「詳細をしっかりと確認する必要があります。もし本当にマカーブルが現れたのであれば、一刻も早く対処しなければなりません。」


 おっと、この声、ただ者じゃない。かつてオタクだった私の、隠された能力がそう告げている。


 彼が奥へと移動しようとしたため、私は少し慌てて声をかけた。い、いきなり声をかけるなんて、まるで逆ナンじゃないか!こういう時こそ、経験豊富なエミーナ姉さんがいてくれたら……。


「あなたが、ヴェイル・アグラディアですね。」


 私の問いかけに、彼は少し訝しげな表情を浮かべ、こちらを向いた。「オレが、ヴェイル・アグラディアだが……」


 おおお……眩しい!イケボすぎる!もし、恋愛経験が皆無の私やエミールだけだったら、間違いなく一瞬で堕ちていたかもしれない。恐るべし、ハーフダークエルフ。


 私は、彼の瞳をまっすぐに見つめながら、静かに言葉を紡いだ。「あなたに、お話があるの。私の名前はエミリア。女神ステシアより、勇者として力を授かった聖剣士よ。」


「エミリア……さん?あなたが、私に話があるというのは、一体どのようなことでしょうか?」


 彼の警戒の色を帯びた視線を受け止め、私は覚悟を決めて続けた。「あなたに、力を貸してほしいの。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ