オーダーメイド商店、まさかの開店失敗!?
ルクレイア市場・朝
市場の中央に、新しく設置された屋台。
看板には大きく 「オーダーメイド商店」 の文字が踊る。
レアナは屋台の前に立ち、満面の笑みを浮かべた。
「ついに……ついに開店よ!!」
仕入れも無事成功し、準備は万端。
客が好きな香草を選び、自分だけのブレンドティーを作る という画期的な商売。
市場の人々もちらちらと興味を示している。
今日こそ、レアナが商売人として一歩踏み出す日だ——。
「よーし!開店——!」
「……あれ?」
……客が、来ない。
最初は、少し様子を見ているだけかと思った。
(大丈夫、興味は持ってくれてるみたいだし……そのうち誰か来る!)
しかし、10分経過。
30分経過。
1時間経過。
「……誰も来ない!!?」
レアナは額に汗をにじませながら、周囲を見渡した。
市場には、いつものように客があふれている。
しかし、レアナの屋台には誰も寄ってこない。
「なんで!? こんなに目立つ場所なのに!」
「でんと胸を張れ、お前が考えた商売だろ?」
スピカがくちばしを鳴らしながら言う。
「いやいや、こんなに誰も来ないなんておかしいでしょ!?」
「データによると、新しい商売は“最初の1週間が勝負”なのです!」
ちーこが冷静に告げる。
「統計的に、最初に客を引き込めなかった店は、リピーターを生む前に消滅する可能性が72%!」
「それヤバいってば!!!」
レアナは絶望的な気持ちで頭を抱えた。
(どうして……どうして誰も来ないの!?)
その時、市場の少し奥から、ひそひそと話す声が聞こえてきた。
「なんか、新しい店できたらしいけど……」
「うん。でも、高いらしいよ。」
「え、そうなの? なら、いつもの店でいいや。」
「———ええええっ!?」
レアナは思わず、声を上げた。
「誰がそんなこと言ってるの!? 私の店、別に高くないよ!?」
「レアナ、落ち着け。」
スピカが静かに言う。
「……あの噂、どっから出たと思う?」
「えっ?」
「データによると、“情報操作”は商売の競争において常に発生するのです!」
「つまり、誰かが意図的に流したってこと……?」
レアナがハッとしたその時、ふと視界の端に見覚えのある姿が映った。
市場の向こう、遠くのカフェで紅茶を飲みながら、こちらを見ている男——ユリウス・ルーエン。
「……あの……!」
レアナは駆け寄ろうとしたが、スピカが翼で制止した。
「やめとけ。商売は商売だ。奴が“何もしていない”なら、どうする?」
「……っ!」
そう、証拠がない。
確かに、彼の商会が何かした可能性はある。でも、それを直接指摘するのは得策ではない。
(……くそぉ!!)
レアナは悔しさを噛みしめながら、深呼吸した。
「……じゃあ、どうすればいいの?」
「データによると、対抗策は“宣伝と体験の提供”なのです!」
ちーこがセンサーを光らせながら言う。
「統計的に、新規顧客を獲得する最も効果的な方法は“試食・試飲”!」
「……あ、そうか!」
レアナはひらめいた。
「だったら、無料でティーを試飲してもらえばいいんだ!」
「まぁ、王道の手段ではあるな。」
スピカがくちばしを鳴らす。
「でもよ、ここで一つ考えとけ。」
「なに?」
「試飲すりゃあ客が来るのは間違いねぇ。でも、それで本当に“お前の商売”は伝わるのか?」
「……!」
確かに、試飲をすれば客は来るかもしれない。
でも、それは単に「無料だから来た客」になる可能性がある。
「データ的には、試飲をした客の購買率は平均42%。成功率は高いのです!」
「でも、お前の店は“オーダーメイド”がウリだろ?」
スピカの言葉に、レアナの脳内で何かが繋がった。
(そうか……ただ試飲をさせるだけじゃダメ! 私がやるべきことは……!)
レアナはグッと拳を握ると、にやりと笑った。
「スピカ、ちーこ。アイデアが浮かんだわ!」




