商売は始めるまでが一番大変!
ルクレイアの朝、空気が少し肌寒い。
市場の一角、まだ看板もない小さな屋台の前で、レアナは大きく伸びをした。
「よーし!ついに準備開始!」
彼女の新たな挑戦、「オーダーメイド商店」 の開店準備が始まる。
客が好きな材料を選び、オリジナルの香草ティーやお菓子を作る という画期的な商売だ。
「これが成功すれば、私もついに本物の商人……!」
しかし、現実は甘くない。
「さーて、まずは材料を揃えるわよ!」
レアナは意気込んで市場へ向かった。
香草ティーの葉、お菓子の材料、そして客が選ぶための小瓶や道具。
しかし——
「え、材料がない……!?」
市場の商人が申し訳なさそうに肩をすくめる。
「今ちょうど品切れでねぇ。次の入荷は……一週間後だ。」
「そんなぁ!? 開店が遅れちゃう!」
レアナは頭を抱えた。
(どうしよう……開店準備からこんなにつまずくなんて!)
その時、スピカが軽く羽ばたきながら言った。
「お前、どこで材料仕入れるか、ちゃんと調べてたのか?」
「えっ?」
「お前が前にティー売ってたときは、ダリオの伝手で仕入れてただろ?」
「……!」
言われてみれば、今までの仕入れはダリオに頼りっぱなしだった。
独立した商人として動くなら、自分で調達ルートを作らないといけない。
「……そっか、仕入れルートも大事なんだ……」
落ち込むレアナの横で、白い球体が静かに浮かぶ。
「データによると、主要市場の流通経路を把握していない商人は、長期的に失敗する確率が78% なのです!」
「うわぁ、数字で言われるとさらにグサッとくる……!」
「ちーこは完璧なのです!」
「いま完璧って言うなぁぁ!!」
「とにかく!今すぐ材料を確保しないと!」
レアナは焦るが、どうすればいいのか分からない。
すると、スピカがくちばしを鳴らした。
「お前、知り合いの商人に直接交渉してみたらどうだ?」
「でも……いきなり交渉なんて、そんなうまくいくのかな?」
「お前は誰だって? 商売をする女だろ?」
「……!」
スピカの言葉に、レアナはぎゅっと拳を握る。
(そうだ、私、もうただの「商才ゼロ」じゃない!)
よし、商人としてちゃんと交渉してみよう!
「ちーこ、他に材料を仕入れられそうな場所のデータある?」
「データによると、近くの“レイゼン商会”が香草ティーを扱っている可能性が高いのです!」
「おおっ!じゃあ、そこに行こう!」
レアナはすぐに駆け出す。
——しかし、その直後。
ちーこがぴたりと浮遊を止め、無機質な声で告げた。
「レイゼン商会の店主、最近価格を吊り上げているとの報告あり。取引するなら注意が必要なのです!」
「ええっ!? じゃあ、交渉したらぼったくられるってこと!?」
「統計的に、初回の取引で不利な契約を結ぶ確率は92% なのです!」
「それめっちゃ高確率じゃない!?!?」
レアナが青ざめる横で、スピカが「はっ」と笑った。
「お前、数字にビビってる場合じゃねぇよ。」
「いやでも、92%ってほぼアウトじゃない?」
「そういうのは実際に行って確かめるんだよ。数字だけで決めるな。」
「えええぇぇ!? でも……」
ちーこがすかさず反論する。
「統計的に、無謀な取引をする商人は早々に市場から淘汰されるのです!」
「でもよ、机上のデータじゃなくて、実際の現場は違うってこともあるだろ?」
「データは現実を反映しているのです!」
「勘も商売に必要だぜ?」
「データがあれば勘はいらないのです!」
「バカ言え、勘があるからこそデータが活きるんだろ!」
——「スピカの直感」 VS 「ちーこのデータ」 の衝突。
レアナは両者の言い合いを聞きながら、心の中で考えた。
(どっちが正しいんだろう……)
データを信じるべきか。直感を信じるべきか。
(……いや、どっちかじゃなくて、両方活かせばいいんだ!)
レアナは息を吸い、力強く言った。
「よし、実際に行ってみて、データと直感の両方を使って判断する!」
スピカとちーこが同時に反応する。
「……まぁ、そりゃそうか!」
「データ的には、それが最適解なのです!」
「じゃあ最初から言ってよ!!!」
レアナが取引先を探して奔走している頃——。
ルクレイアの中心街にある豪華な商館、その中で、静かに紅茶を飲む青年がいた。
「レアナが新しい商売を始めた?」
ユリウス・ルーエン。
大陸最大の商会「ルーエン商会」の若き後継者。
情報をもたらした部下が、深くうなずく。
「はい。オーダーメイド商店という新しい形態の商売のようですが……」
ユリウスはゆっくりとカップを置いた。
「……面白い。」
目を細めると、唇の端に笑みを浮かべた。
「なら、僕も動くとしようか。」
次回:「レアナ vs ユリウス、最初の戦い!」
レアナ、ついに材料の仕入れ交渉に挑む。しかし、そこには想定外の壁が立ちはだかる。
レイゼン商会の店主は、一筋縄ではいかない商売人だった。値段を釣り上げ、足元を見てくる取引相手に、果たしてレアナはどう立ち向かうのか。
そして、その場に現れるユリウス。大陸屈指の商会の後継者であり、レアナのライバルとなる男。
交渉の場は、一瞬で駆け引きの舞台へと変わる。
データで戦うのか。直感で切り込むのか。
それとも、レアナなりの“第三の道”があるのか。
「君に商売は無理だよ」
ユリウスの冷ややかな一言に、レアナの闘志が燃え上がる。
次回、商売対決、開幕。