表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/14

失敗に次ぐ失敗、商売は甘くない

 市場の喧騒の中、レアナは自信満々に立っていた。目の前には、きちんと並べた香草ティーの袋がずらりと並んでいる。


「よし、これで私の実力を証明する!」


 育ての親であるダリオに「商才ゼロ」と言われた屈辱を晴らすため、彼女は独力で商売を始めることにした。


 貴族の間で話題の香草ティー。

 これを仕入れて売れば、間違いなく利益が出るはずだった。安く買い、高く売る。それが商売の基本である。


「貴族も飲んでる香草ティーです!美味しくて健康にもいいですよ!」


 市場の客に向かって呼びかける。しかし、通行人たちは足を止めることなく通り過ぎていく。興味を示す者すらほとんどいなかった。


(……あれ?)


 隣の屋台では、焼きたての肉の串が並び、香ばしい匂いが漂っている。通りがかった客がふらりと吸い寄せられ、次々と買っていくのが見えた。


 一方、自分の前に積まれたティーの袋は、何の匂いも発していない。**視覚的なアピールが弱い。**それは明らかだった。


 それでも諦めるわけにはいかない。


「やっぱり宣伝よね!」


 レアナは姿勢を正し、より大きな声で叫んだ。


「買ってください!今なら特別価格です!」


 しかし、通行人はほとんど振り向かない。


「貴族が飲んでるんですよ!?どうして買わないんですか!?」


 声のボリュームを上げたところで、状況は変わらなかった。


 隣で見守っていたスピカが、ぽつりとつぶやく。


「……お前、それ、自分で飲んで美味しいと思ったのか?」


 レアナは、一瞬固まった。


「……え?」


 スピカは小さな翼を広げ、首をかしげる。


「いや、だからさ。お前、これを“売りたい”のか?それとも、“売れそう”だから売ってるのか?」


 レアナは困惑しながら、スピカを見つめた。


「スピカ、それは違うの。商売っていうのは、売れるものを売るのよ!」


 彼女は優しくスピカの頭をなでた。


「可愛いねぇ、スピカ。でも、商売のことは鳥にはちょっと難しいかな?」


 スピカは頬を膨らませ、羽をバタつかせる。


「おいおい、可愛い扱いすんな!俺はマジで言ってんだけど!」


「はいはい、ありがとね。おやつにナッツ買ってあげるから。」


「ちがう!ナッツじゃねぇ!」


 レアナは笑いながらスピカをなだめたが、頭の片隅には違和感が残った。しかし、すぐに気を取り直し、再び商売に集中する。


(とにかく、売れなきゃ話にならない!)


 レアナは次なる策を講じた。


「場所が悪かったのよ!ここは庶民向けの市場だし!」


 そう考えた彼女は、屋台をたたみ、貴族の屋敷が近い高級街へ移動した。


 しかし、数時間経っても客は一人も来なかった。


(おかしい……この近くには貴族が住んでいるはずなのに……)


 そこで、彼女はある重大な事実に気づく。


 貴族は、市場で買い物をしない。


 スピカが呆れたように言った。


「お前、貴族って普通は召使いに買わせるもんじゃねぇの?」


 レアナは口を開いたまま固まった。


「……っ!」


 だが、負けるわけにはいかない。今度は、価格を大幅に下げることにした。


「今なら半額!!」


 しかし、これも大失敗だった。


 貴族向けの高級品を安売りしたことで、「この商品は安物だ」という印象を与えてしまった。


 スピカはため息をついた。


「お前さ、安いものに高級感を感じると思うか?」


 レアナの手がわずかに震えた。


「……っ!」


(どうして…?どうして売れないの!?)


 次に思いついたのは、宣伝方法の改善だった。


「美味しいです!!!飲んでみてください!!!!!」


 だが、その場で大声を張り上げるだけでは、誰の興味も引けなかった。


「……お前、もうちょっと考えろよ。」


 スピカの冷静な声が、レアナの耳に届く。


(……なんでこんなにダメなの?)


 資金は尽きかけ、倉庫には売れ残ったティーの袋が山積み。


 完全な行き詰まりだった。


 力なく座り込むレアナの視界に、白く光る球体がふわりと浮かんでくる。


「データによると、これは“在庫地獄”の典型なのです!」


 耳慣れた無機質な声。


「……ちーこ?」


 白い球体のポンコツAIは、光るセンサーを向けながら、淡々と続ける。


「統計的に、これは“典型的な初心者の失敗パターン”なのです!」


 レアナの顔がひきつる。


「……うぐっ……」


「さらに、富裕層向け商品を庶民市場で売るのは“致命的なミスマッチ”なのです!」


「……うっっ……!!」


「そして、原価計算を考えない価格設定は、“長期的には赤字転落コース”なのです!」


「ぐわああああ!!!!もうやめてえええ!!!!!」


 スピカが苦笑しながら、レアナの肩をつついた。


「おい、こいつメンタル崩壊しかけてるぞ。」


「事実を述べただけなのです。」


 ちーこは冷静に答えた。


 レアナは両手で顔を覆い、ガタガタと震えた。


(もう……ダメかもしれない……)


「ちーこは完璧なのです!では、解決策を提案するのです!」


 商才ゼロ、瀕死状態のレアナに、一筋の光が差し込む。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ