三匹の獣人さん
「世界最大の夢であり、唯一の死後の世界です。
ここでは想像力が、創造力こそが力。
強く願って口にするだけで世界を変えられ、限りなく自由な生き方ができます。
歴史はとても古く、生き物が考えるようになった頃から始ま…」
服の裾を何かに引っ張られ、我に返った。
そこには赤色のワンピースを着た女の子が私を見上げていた。
「悪いことは言いません、早くここから逃げてください。
あいつらがやってきます、もうそこまで…」
一本道から青い服を着た男の子が駆けてきて、女の子の腕を掴むと、
「おい、何してるんだ、あいつらが来るぞ!」
と言って、男の子も女の子も鳥になって空高くまで飛んでいってしまった。
「おおっ、凄い!夢みたいだ、じゃなくて。
おーい、何が来るって?ねえ、ちょっと!」
叫んでも、もう遠く黒い点となった鳥達には聞こえない。
グァルル、ガァルル!
一本道を森から三匹の狼が凄いスピードで迫ってくる。
狼達は私の前でスッと人になった、わけではなく人型になったようだ。
獣人だ。
恐怖で動けない私を見下すように立ち、一番チャラそうな狼が
「おいおい、今日もこんなヒョロそうな奴かよ。
最近は痩せてんのばっかで全然だめだ」
と金の腕輪をジャラジャラ鳴らして私の髪を引っ張り体を持ち上げた。
「まあでも、女なだけマシか」
そう言って私を地面に叩きつけた。
力が強い。
「柔らかくジューシーで食べやすくて、あと脂のりが良くて焼いた時にパチパチって香ばしい香り
を漂わせて…」
もう一匹の狼は歪んだ笑みを浮かべている。
それにさっきからぶつぶつと独り言を言って、涎を垂らしている。
大丈夫かこいつ。
でも私も人の心配をしてはいられない。
左脚を痛めたようだ、音はしなかったがゲームならきっとグリィとかゴキッとか
凄い音がしただろう。
痛みより怖さの方が勝ったのか、呻き声と涙目で済んだ。
「もうへたばってんのか、元気がないぞ。起きろよ!」
何か金属のアクセサリーがついたブーツが見えた瞬間、お腹に凄まじい衝撃を感じた。
普通自分らの食べ物を蹴るか?
「それ以上はやめとけ、食べ物には感謝しなければならない」
後ろで腕をくんでいた無口狼がやっと口を開いた。
低く唸るように、脅すように。
狂った狼は独り言をやめ、尻尾を丸めたところを見ると、無口狼は怒らせると怖そうだ。
チャラ狼は一瞬驚きと恐怖を見せたが、
「なんだよ!食事の楽しみ方はそれぞれだろ。邪魔すんな」
と言って、無口狼の胸ぐらを掴んだ。
「気に入らないな。周りのことも考えろ、気分が悪くなる」
やりとりを狂った狼は、心配そうに見守っている。
今なら逃げれる。
誰もこっちを見ていない。
だが、逃げようと思っても体が痛んで動けない。
右手だけでも…
右脚だけでも…
左手をもっと遠くへ、左脚はもう動かないから。
数十メートルまでは進めた。
そんな時、狂った狼が気づいた。
「おい、女が逃げてるぞ!」
あとの二匹も気付いたのか、血相を変えて追いかけてきた。
もう少しだったのに。
逃げられたのかもしれなかったのに。
「助けて…誰か助けて!」
あぁ、また死ぬのか?
次はどうなるんだ、次があるのかも知らないのに。
力が抜けていく。
眩む視界に動くものが見えた。
森から再び何か向かってくる。
遠くから声が聞こえるが、小さすぎて何を言っているのか分からない。
「…て、…けて、…手を上に上げて!」
力強い女の人の声だ。
私はただ精一杯手を高く上げた。
ガッと腕を引っ張られる感覚と共に、体が地面から剥がされた。
「おい、何だてめぇ!」
後ろで唸る声と吠える声が聞こえるが、だんだん聞こえなくなっていった。
私を抱える腕は逞しく安心し、同時に眠気に襲われた。
私、どこに連れて行かれるんだろう。