その少女、海を眺めて考える
ロードレオ海賊団との戦いはいったんここまで。
「フゥー……とりあえず一段落。夜の海って、眺めてると落ち着く」
【俺もこういう景色は初めて見るな。いい長めじゃないか。何はともあれ、お疲れだったな、ミラリア】
ペイパー警部とランさんの親子二人だけにして、私は洞窟から少し外に出てツギル兄ちゃんと言葉を交える。
規則的にザザーと流れてくる波の音が心地よく、緊張も解けたからか眠くなってくる。実際に寝たら風邪を引きそうなので、眼をゴシゴシして耐えるけど。
思えば、エスカぺ村にいた時はこんな夜遅くまで起きてることなんてなかった。旅に出るといろんなことに巻き込まれるし、生活も不規則になってしまう。
でも、時としてこういう場面も必要。ロードレオ海賊団が戻ってくる気配がないとはいえ、これ以上は横やりを入れられたくない。
あの親子だって、ようやく話ができる機会を得たんだ。私はその時間を守りたい。
「私もディストール王国にいた時、あの二人みたいにスペリアス様と話ができてれば……」
【後悔後先に立たずってな。過ぎたことを悔やんでも仕方ないことは、ミラリア自身がよく理解してるだろ?】
「うん、理解はしてる。でも、私はランさんとペイパー警部の親子が『羨ましい』って思う。私と違って、話し合う機会を得られたから」
【だが、その機会はミラリアがいたからこそだ。ある意味、お前の経験があの親子を結びつけたとも言える】
「……成程。そう考えると悪くない」
ちょっと嫉妬もしちゃうけど、とりあえずこれで良かったのは事実。ランさんがロードレオ海賊団に攫われることもなく、ペイパー警部とのわだかまりが消えてくれることを後は願うしかない。
ただ、ロードレオ海賊団に逃げられたのは残念。Aランクパーティーの女性二人については助け出せなかったし、どうにも歯痒い結果となった。
あの人達が使うカラクリにしても、エデン文明との関りがあるのかないのか分からない。もっと詳細を聞き出したかった。
「結局、楽園に関するヒントは大して集まってない。これからどうしよう?」
【まあ俺達からすれば、今回の一件はペイパー警部達親子との関りがほとんどだったしな。ロードレオ海賊団を追うというのも一つの手だが……】
「それもどこにいるのか分からない。困った。でも、それならそれでまた道を探すまで。この大陸にはまだ来たばかりで、行ってないところもたくさんある」
ランさん達の件は落ち着いたけど、今度はこっちの話で先が見えずに困ってしまう。楽園へと繋がる手掛かりはまだ少なく、旅はまだまだ続くことになりそうだ。
地図を開いて見てみれば、とりあえずポートファイブの北にも何やら大きな町がある様子。現状でヒントは少ないし、今度はそこを目指すのが一番か。
「ちょっと遠いところにあるけど、落ち着いて歩んでいこう。焦ってトラキロさんみたいな醜態は晒したくない」
【いや……あれはミラリアがやったことだからな? 何か違うと思うぞ?】
「でも、焦らないのは本当に大切。人との関わり方だって、まだまだで――ん?」
そうやって今後のことをツギル兄ちゃんと語ってると、洞窟の方から誰かが歩いてくる。どうやら、ランさんみたいだ。
様子を見る限り、怒ったりはしてない。きっと、ペイパー警部ともそれなりに話はできたんだと思う。
「ミ、ミラリア、待っててくれたのか。あんたにはアタイもしっかりお礼を言いたかったからな」
「そのお礼は私もありがたく受け取る。だけど、ペイパー警部がいたから私も助けに来れた。そのペイパー警部とはどうなった?」
「ああ。親父とも久しぶりにしっかりと話ができた。スナイパーライフルを盗んで今回の騒動を起こした件については怒られたが……それはアタイの責任だからな。それに、親父もほとんど泣きながらアタイの無事を喜ぶばかりで、説教どころじゃなかったね」
「それは良かった。私も安心」
多くを語ってもらわずとも、ランさんの様子から上手く話ができたことは伺える。どこかて照れくさそうだけど、これまでの悪態だって見えない。
やっぱり、親子には仲良くしてもらいたい。私とスペリアス様の経験から得た教訓だ。
「その……今回は本当に助かった。そっちの方が家庭の事情は複雑なのに、アタイ達親子の世話まで焼いてもらってさ」
「気にしないで。私も家族のことがあったから、どうしてもランさん達を放っておけなかった。ちょっとお節介だったかも」
「ハハハ、そうだとしてもありがとよ。……本当に不思議な少女だよ、あんたは。あどけなくて未熟に見えて、その心根にはしっかりと芯がある。アタイも見習いたいもんだ」
「そこはまたランさん次第。私も流石に偉そうなことは言えない。……それより、ペイパー警部はどうしたの?」
褒められるのは素直に嬉しい。でも、褒められ過ぎるとムズムズしてくる。
これまでの『嫌な予感がするから避けたい』とかじゃないけど、ちょっと限度は欲しいかも。褒められ加減ってのも難しい。
そんな気恥ずかしさもあるからか、話題をペイパー警部の方に逸らしてしまう。
唐突だったとはいえ、ペイパー警部がいてくれたおかげでランさんを助け出せた。これまでのような悲劇を繰り返さずに済んだ。
そのことについては、私もしっかり感謝を述べたい。それが礼儀。感謝されるばかりでなく、こっちから感謝するのも大事だ。
やっぱり、ペイパー警部とはもう一度顔は合わせるべきだと思う。
「親父は先に家へ帰った。……だから、ミラリアはこのままポートファイブを出た方がいい」
「ふえ? 何で?」
ミラリアちゃん、君って追われてる立場なのよ?




