◆海猛虎トラキロ
VS 海猛虎トラキロ
ロードレオ海賊団副船長、ついに出撃。
トラキロさんが雄叫びを上げたのを合図に、私も魔剣で居合の構えを取って正面へと突撃する。
対するトラキロさんは特に動こうともしなければ、武器も持たずに素手で構えるのみ。実力に自信はあるみたいだけど、流石に油断が過ぎる。
「そうやって構えてても、私の居合には対処できない。速攻で決める。……斬り捨て御免!」
こっちも時間はかけたくない。トラキロさんの懐へ縮地で潜り込みつつ、素早く居合で腹部を狙う。
ハッキリ言ってガラ空きだ。まるで『狙ってください』と言わんばかりにガラ空きだ。
そうやって私のことを舐めたのが命取りに――
スパ――ギンッ!
「えっ!? な、何!? 堅い!?」
「対処できてねェだとォ? 違うなァ。……対処はできてんだよォ!」
――なると思ったのに、私の居合は全くトラキロさんに通らなかった。別に外したわけじゃない。確かにお腹に居合は入った。
でも、食らったトラキロさんは余裕で言葉を返してくる。何より、魔剣の刃が当たった時の感触がおかしい。
それこそ、人間を斬った感触じゃない。亀の甲羅とかでもなく、まるで鍛え抜かれた鋼を斬った感触だ。
ただ、トラキロさんのお腹は完全に無防備。ほぼ半裸な上半身に鎧のような防具はない。
――なのにこの硬さ。明らかにおかしい。
「テメェの剣技も他では見ねェスゴ業だが、こっちも海を渡って世界を巡る海賊だァ! 他人が見たことねェ力だって、この身に宿してあるんだよォ!」
ブォオン!
「ッ!? す、凄いパンチ!? ちょ、ちょっと掠った……!?」
トラキロさんに居合によるダメージは全くない。すぐさま私の方へと体をひねり、右拳を振り下ろして襲い掛かってくる。
その速度は流石の一言。樽を軽々と投げ飛ばすパワーが、そのまま直接飛んでくるのは怖い。なんとか距離を置きながら回避するも、わずかに掠ってしまう。
ダメージはほとんどないけど、その時の感触もやっぱりおかしい。拳までまるで鋼みたいに硬い。
「……トラキロさん。あなたの体、どうなってるの? 普通の体じゃないよね?」
「ダハハハ。まァ、普通じゃねェのは認めてやるよォ」
「もしかして……エデン文明の力?」
「……中々に興味深い言葉を口にするなァ。もっとも、オレも詳細までは知らねェがよォ」
こんな力を前にすると、まず可能性として上がるのはエデン文明との関わり。ロードレオ海賊団が使ってるカラクリという技術もあるけど、こうやって肉体を改造するのはレパス王子に近い。
あっちは再生能力が異常だったけど、こっちは防御力が異常。形は違うけど、異常という点においては似通ってる。
【気になるかもしれないが、今はあいつを倒すことだけ考えろ。あのパワーが相手だと、一撃もらえばアウトだぞ……!】
「分かってる。次はもっと強力な一撃を入れる」
ただ、ツギル兄ちゃんの言葉を聞いても気を引き締め直さないといけないのは事実。普通の居合で全く太刀打ちできないのなら、今度は魔法効果を融合させて斬るしかない。
鞘に納めた刀身に宿らせるは衝撃魔法。元々はツギル兄ちゃんとの合体技でもあった震斬だ。
ズパァ――ギィインッ!!
「おっとォ! 今のは少し危なかったかァ!? 威力にすれば120の斬撃かァ! 本当にそっちもまだ底を見せてねェみたいだなァ!」
「う、嘘!? これも効かないの!?」
集中しながら居合一閃。トラキロさんの後方へ駆け抜けながら、刀身に宿した魔力と一緒に斬り裂く斬撃。
これならば鋼鉄であっても斬れると自負してる。でも、トラキロさんはまたも耐え抜いてきた。しかも、以前の『レベル』みたいにこっちの技を数値化する余裕付き。
踏ん張るような構えで耐えてこそいるものの、やっぱりダメージが入ったとは言えない。刃が当たった時の感触も、頑丈なんてレベルじゃない。
――鋼とかよりも強固な肉体。私の剣技が何一つ通用しない。
「そろそろ、オレの方からも仕掛けさせてもらうぜェ。覚悟しやがれェェエ!!」
「くうぅ!? パ、パワーが違いすぎる……!?」
トラキロさんにしても、さっきまで私の攻撃を受けてたのは様子見に過ぎなかったのだろう。お返しとばかりに攻勢へと転じ、両の拳で激しく殴りかかってくる。
武器も何も持ってない。だけど、単純なパワーで圧倒されている。肉体の強度も相まって、私にできるのは回避ばかり。
防御なんて意味を成さない。下手をすれば、防御ごと弾かれてしまう。
「だったら……反衝理――」
「シャラァァアア!!」
「ガフッ……!?」
反衝理閃によるカウンターを試みるも、これさえも通用しない。
トラキロさんの攻撃は鞘に納めた魔剣でも受け流しきれず、構えを破られて体ごと吹き飛ばされてしまう。
ドガァァン!
「ケホッ、ケホッ! ハァ、ハァ……! ツ、ツギル兄ちゃん……大丈夫……?」
【お、俺は大丈夫だ! それより、ミラリアの方こそ大丈夫なのか!?】
「大丈夫……って言えないかも。こっちがどれだけ素早く動いて技を出しても、トラキロさんにはまるで通用しないし……!」
近くに積まれた木箱に後ろから突っ込み、全身が衝撃で痺れる。かなりの距離を吹き飛ばされたし、パワーの差は歴然。
スピードはこっちの方が上だけど、トラキロさんも反応はできている。絶対的な守りを持って圧倒的な破壊力を持った一撃。
――マズい。勝ち筋が見えない。こっちに決定打がない。
「オレのパンチを食らってまだ意識があるのは大したもんだが、守りに入るのは得策と言えねェなァ。オレもペイパー警部に見つかった以上、口封じが必要になってくる。テメェの相手ばかりはしてらんねェなァ」
「あ、あの二人に手を出さないで……! 私、まだ戦える……!」
強がりながら立ち上がるものの、絶体絶命なのは変わらない。トラキロさんはまだまだ余裕だし、このままでは本当にペイパー警部やランさんにまで被害が及ぶ。
それだけは嫌。エスカぺ村のような悲劇を二度も見たくない。
でも、この状況でどうやって対抗すれば――
「お、おい! トラキロ! オレッチの方を見やがれ!」
「ペ、ペイパー警部!?」
「あァん? 外野が口を挟むなよォ?」
圧倒的な力を前にピンチだが、ペイパー警部に秘策あり。




