その娘、助けてもらいたい
ランの本心を聞けば、それ以上は何もいらない。
「うん、分かった。その言葉が聞ければそれでいい」
結局、ランさんだってペイパー警部と話もできずにお別れなんて嫌に決まってる。聞くまでもない話ではあった。
それでも、私はランさんから直接その想いを聞きたかった。本当に今この場で『助けてほしい』と、ペイパー警部がいる状況で言ってほしかった。
――その言葉だけあれば、余計な言葉も必要ない。
「ペイパー警部、あなたも覚悟してほしい。今からランさんを助けるため、全力でトラキロさんに挑む」
「言われなくても分かってるさ。どのみち、誘拐の現行犯を野放しになんてできないからな。……ただ、感謝はさせてもらう。上手く言えないが、ありがとよ」
ペイパー警部にも合図して、お互いに構えをとる。道は完全に示された。
後はトラキロさんからランさんを助け出すのみ。
「チィ。やっぱ、この程度の屁理屈じゃ誤魔化しにもならねェなァ。だが、二人だけでオレを簡単に倒せると思ってんのかァ?」
「あなたの力は底が見えない。勝てるかどうかも曖昧。でも、目的は倒すことじゃない」
――ヒュン
「おわっ!? ミ、ミラリア!?」
「ほォう? やっぱ、スピードは並以上だなァ」
まず優先すべきはランさんの身の安全。まずは私が動き、トラキロさんの傍で囚われているランさんを奪いにかかる。
わずかに反応をされるけど、こっちも全速力でランさん奪ったら即座に距離を置く。ランさんが向こうの手中にあるままでは、まともに戦うのも厳しい。
「これでランさんは助け出せた。ペイパー警部、守ってあげて」
「ああ! 助かった! ラン、今ロープを解いてやるからな!」
「お、親父……ごめん。アタイのせいでこんなことに……」
「今その話はいい! そういうのは全部終わってからだ!」
一度ペイパー警部の元へ戻り、ランさんのことを託す。早速火炎魔法を使い、ランさんのロープを焼き切ってくれてる。
これで救出は上手くいったけど、まだ完全に脱出とはいかない。
トラキロさんはピンピンしてるし、下手に転移魔法を使っても逃げ切れるとは思えない。ここで完全にロードレオ海賊団の追走を振り切らないと危険は残る。
「ヒィ、ヒィ! や、やっとカラクリが止まったでヤンス!」
「ト、トラキロ副船長! その盗人小娘を奪われたでゴンスか!?」
「も、もう怒ったでアリンス! トラキロ副船長! 俺らに任せてほしいでアリンス! 他の連中も集まって来てるでアリンス!」
さらには変な語尾トリオもカラクリの包囲を抜け出し、こちらにまで迫ってしまった。どうにも、トラキロさんとの話で時間を稼がれてしまったようだ。
幹部クラスだけでなく、下っ端のメンバーまで続々と集まってきてる。
人数は向こうの方が多い。本当はこっそり助け出して逃げ出す作戦だったけど、こうなってしまうとロードレオ海賊団がポートファイブにまで一気に雪崩れ込む危険性も出てくる。
――それだけは避けたい。必要ならば、この場でロードレオ海賊団を再起不能にだってしてみせる。
「ツギル兄ちゃん、準備はいい?」
【もう確認を取るまでもないだろ。だが、あのトラキロって男は想像以上の強敵と見える。油断はするな】
「うん、分かってる」
ツギル兄ちゃんにも密かに語り掛けつつ、こちらはランさんを守るように交戦準備。
ランさんのことはペイパー警部に守ってもらい、私が打って出る。
「まったく、ウチの部下どもは焦って失敗ばかりで仕方ねェなァ。いつも『焦んなよ』って言ってんだろォ?」
「す、すんませんでヤンス……」
「まァ、こうなっちまったら仕方ねェかァ。……テメェらは手を出すなァ。オレも久々に本気の喧嘩ができそうだァ……!」
「ふ、副船長がそう言うなら、俺らもおとなしくするでゴンス。巻き添えは嫌でゴンス」
「その代わり、出港準備を進めてろォ。あの小娘を奪い返したら、速攻でこの場を離脱するぜェ」
「りょ、了解でアリンス!」
向こうも向こうで色々と準備してるけど、挑んでくるのはトラキロさん一人。変な語尾トリオ達はそれぞれの行動に移り始める。
他のロードレオ海賊団も何やら慌ただしく動き始め、こっちに関わる様子すらない。
「ちょ、ちょっと!? 私らは!? 私らはどうなるのよ!?」
「助けてほしいんですけどー!?」
「……そうだった。ランさん以外にもいたんだった。待ってて。この場を切り抜けたら助けるから」
なお、Aランクパーティーの女性二人は今も船の上にある檻の中。こっちも助けたいけど、トラキロさんが交戦状態に入った以上、すぐにとはいかない。
あの二人を助ける意味も含め、ここで負けるわけにはいかない。
「オレも最近は骨のねェ奴ばっか相手で、体がなまりそうだったからなァ。ミラリアちゃんみてェな腕利きの相手は丁度いい運動になるぜェ」
「そうやって油断しないことをオススメする。私はまだ、トラキロさんに実力の全てを見せたことがない」
睨み合っての一触即発。私とトラキロさんによる一騎打ちの準備は整った。
トラキロさんの力の底は見えないけど、こっちだってまだ見せてない。
それに強敵とはいえ一対一。勝てない相手ではないはずだ。
「かかって来いやァ! ロードレオ海賊団副船長トラキロ様の力、とくと味わいやがれェエ!」
ラン(とついでにAランクパーティーの女性二人)を救うため、ついにロードレオ海賊団副船長トラキロとの激突へ!




