◇ロードレオ拠点救出戦Ⅱ
今度は変な語尾ーズの相手だ。
「オレッチもあの二人のことは知ってる。副船長直属の部下で、ロードレオ海賊団内部でも上位に位置する幹部だ」
「ここを通りたいけど、入口みたいに広くない。どうやって通ればいいんだろ?」
私達の行く手を阻むのは、ランさん誘拐の場にもいたロードレオ海賊団の変な語尾の二人。やっぱり幹部クラスだったらしく、ライフルを手にしながらこちらの方を向いて警戒している。
今回は道も狭く、注意を逸らすには不向き。かといって、回り道できそうなルートもない。
「こうなったら、ここで奇襲かけて後は奥まで駆け込むか。考え込んだところで、いい案も出なさそうだ」
「なら、私が先陣を切る。任せて」
「そうだな。大の大人が情けない話だが、それがベストってところか。悪いが頼んだ」
ペイパー警部も言う通り、正面からの強行突破以外に選択肢はなさそうだ。
そこからランさんを見つけたら、すぐさま魔剣の転移魔法で脱出すればいい話。ペイパー警部も指先に魔力の炎を灯し、突撃の準備はできている。
ここから騒がしくなるけど、まずは私が突っ込んで――
「お、お前ら!? 誰でアリンスか!? どうしてこのアジトにいるでアリンスか!?」
「ッ!? し、しまった!?」
「くそ!? もう一人後ろにいたのか!?」
――と思ってたら、いきなり背後から呼び止められてしまう。私もうっかりしてたけど、この変な語尾幹部って三人組だった。
心の中でいつも『変な語尾トリオ』って呼んでたのだから、そこは二人だけで終わると思っちゃいけなかった。私の馬鹿。
こっちの幹部もライフルを持ってるし、大声を出されたせいで他二人にも気付かれてしまう。まさに挟み撃ちだ。
「け、剣客小娘!? まさか、ここまで追ってきたんでヤンスか!?」
「もう一人の男は確か、エステナ教団のペイパー警部でゴンスか!?」
「チィ、先手を取れなかったのは痛手か……! こうなったら、ここで無理矢理ぶちのめすしかないな」
通路の前後でライフルを構えられ、私とペイパー警部に逃げ道はない。まさに四面楚歌。
ここはやはり、直接対決で突破するしかないだろう。私もペイパー警部の作戦に同意だ。
数ではこっちが負けるし、以前の船上と違って今回はスピードを活かしづらい狭い通路内。おまけにこの事態を聞きつけ、他のメンバーまで集まる可能性がある。
でも、負ける気はない。ランさんまでもう少しのところまで来てるし、意地でも突破させてもらう。
「まさか、俺らを倒して突破できると思ってるでアリンスか? そいつは甘い考えってもんでアリンス! カラクリ防衛システム……起動!」
ガコンッ! ガコンッ!
「えっ!? な、何!? 前後の道に何か出てきた!?」
「刃のついたローラーがそこら中に!? あそこへ突っ込めば、八つ裂きにされるぞ!?」
ただ、ここはロードレオ海賊団のホーム。単純に私達と真っ向勝負とはいかない。
変な語尾トリオの一人が壁にあったレバーを引くと、私達がいる通路の前後に現れるのは刃のついた大量のクルクル回る何か。
ローラーって言うの? 初めて見るけど、そのローラーが所狭しと敷き詰められている。
通路の先にわずかなスペースが見えるだけ。とても人が通れるスペースなどない。
「これなら袋の鼠でヤンス! この間の海上戦と違って、このアジトはロードレオ海賊団のテリトリー! 地の利はこっちのもんでヤンス!」
「海賊なのに洞窟で戦う方が強い。何か違和感」
「やかましいでゴンス! どのみちこうなった以上、先に進むことも戻ることもできないでゴンス! 仮に俺らを倒したところで、このカラクリは解除不可能! 無駄なあがきでゴンス!」
これもライフルなどと同じく『カラクリ』という技術が使われてるらしく、この海賊団は本当に異様に技術が凄い。こんなに凄い技術を持ってるなら、海賊じゃなくて素直に別の仕事で活かしてほしいとも思う。
とはいえ、そんな愚痴を言ってる余裕もない。このままでは身動きさえまともに取れない。
「ペイパー警部、どうしたらいいの?」
「オレッチだって考え中だ。ミラリアちゃんであのローラーのカラクリを切断できないか?」
「それは無理。回転が加わってる対象だと、こっちの魔剣の方が打ち負ける」
変な語尾トリオに囲まれながらペイパー警部に声をかけても、いい案など出てこない。ローラーは結構な硬度を持ってかなりのスピードで回転しており、ああなると魔剣では無理になってくる。
直接斬ろうとしても、こっちの方が弾かれる。魔法を宿して斬撃を飛ばしても、これまた回転に弾かれる。
現状でできることと言えば、変な語尾トリオを倒すことぐらい。その先のことまでは考えられないけど、まずは軽く斬り捨て御免するしかないのかな?
【……なあ、ミラリア。俺から一つ提案があるんだが?】
「え? 何? ペイパー警部もいるし、あんまり話しかけないで」
【いやまあ、この場を打開する方法だ。とりあえず、ローラーの先に見える通路まで行けばいいんだよな?】
戦うために狭い通路で腰を落としてると、今度はツギル兄ちゃんがコソコソと呟いてくる。
こっちは今から戦うのだ。あまり集中力を乱したくない。
打開する方法があるって言うけど、そもそも完全に道が塞がれてるわけで――
【転移魔法で向こう側まで飛べばいいんじゃないか?】
「あっ、そっか。その手があった」
しかもこの状況、変な語尾トリオも迂闊に動けないという。




