◇ロードレオ拠点救出戦
ペイパー警部も一時加わり、いざランの救出へ。
「あそこの洞窟がロードレオ海賊団のアジトだ。この岩陰から様子を伺うぞ」
「誰かが立ってる。見張りなのかな?」
ペイパー警部に案内され、やって来たるはロードレオ海賊団のアジト。浜辺の近くにある洞窟の入り口で、それっぽい二人が槍を持って周囲を見渡してる。
言ってた通りだ。この場所で間違いない。
「あの見張り、かなり周囲を警戒してるな。おそらく、ランを誘拐して捕らえたことで、厳戒態勢を引いたんだろう」
「つまり、ランさんはあの中にいるってこと?」
「十中八九間違いないな。ただ、ロードレオがこういう統率の取れた動きを取る時、決まって連中の中でも最高幹部クラスが動いてる。オレッチの読みだと、副船長が指揮を執ってるはずだ」
「そういえば、ランさんを誘拐した人達もそんなこと言ってた」
ペイパー警部もロードレオ海賊団の内情に詳しいのか、色々と考えてくれる。確かに私も副船長の存在はあの時に耳にした。
多分、黒ローブの人がそう。凄いパワーの人だったし、変な語尾トリオも素直に従ってた。
あの人もこの中にいると考えると、ますます油断などできない。息を殺しつつも緊張が走る。
「ねえ、ここからどうするの?」
「……ミラリアちゃんはあの二人の注意が逸れれば、近づいて無力化できそうか?」
「できる。意識が向かなければ、コッソリ確実にできる」
「なら話は早い。今からオレッチが見張りの注意を逸らせるから、その間に無力化してくれ」
ここからの作戦についても、ペイパー警部には作戦があるらしい。岩陰で両手を組むように構え、右人差し指を見張りの方へと向け始める。
何をするんだろ? これで注意を逸らせるみたいだけど――
バシュンッ――ボンッ
「ん? なんだ?」
「そっちから聞こえたぞ?」
――次の瞬間、ペイパー警部の指先から炎が弾のように放たれた。その弾は見張り近くの岩に当たり、わずかに音を響かせる。
見張り二人の意識もそっちに向き、今ならばこっちにも気付かれない。
「今だ!」
「う、うん!」
何をどうしたのかは分からない。でも、やるべきことは決まってる。
見張りの意識が逸れている隙を狙い、縮地で一気に接近。魔剣に電撃魔法を付与させ、後ろから回り込むように斬り抜く。
スパンッ
「こ、今度は何が……!?」
「か、体が痺れて……!?」
それにより、見張り二人の無力化にも成功。電撃魔法の痺れにより、そのまま砂浜へと倒れ伏せる。
【上手くいったな】
「うん。これで当分は目も覚めない」
ツギル兄ちゃんとも確認するけど、命に別状はない。気絶してるだけ。
いくらランさんを誘拐した悪い人達でも、殺してしまうのはいけないこと。私は虐殺をしに来たんじゃない。救出に来たんだ。
「す、凄い動きだったな……。速いのに静かだし、オレッチにはまるで動きが見えなかった……」
「速さには自信がある。それより、ペイパー警部が使ったのって何?」
「ああ、あれか。火炎魔法をオレッチなりにアレンジしたものだ。炎を弾丸のように射出することで、ロードレオが使うライフルと同じようなことができる。まあ、威力や射程は数段落ちるがな」
仮にもエステナ教団のお偉いさんなだけのことはある。武器を持ってないと思われたペイパー警部には、独自の魔法という武器があった。
ペイパー警部自身にも戦う力があるのは心強い。状況を冷静に見ることもできるし、この人とならランさんも助け出せる。
「それにしても、オレッチとしてはミラリアちゃんの対応の方に驚きだな。正直に言うと、見張りどもは『殺して無力化』させるんじゃないかと思ってた」
「そんなことはしない。敵を殺すのは、狩りとして生きる時やどうしようもない場面の時だけ。そこまで徹底的にしてたら、ただの虐殺」
「……成程ね。まあ、その考え方自体は立派だと思うさ」
ただ、私への質問には失礼してしまう。こうして一緒に行動するのは初めてだけど、私はそんな野蛮じゃない。
確かにこれまで失敗続きだったけど、この心にいつも抱くのはエスカペ村での日々で得た教訓。どれだけ難しくても、それらをもう破りたくない。
「オレッチも余計な詮索して悪かったな。とにかく、今はランの救出が先だ。このまま息を潜めて、アジトの奥を目指すぞ」
「ランさんがいるとしたら、この洞窟の一番奥とか?」
「その可能性は高いな。それにこの洞窟は、確か最奥が海と繋がってたはずだ。もしかすると、ロードレオはそこから船でランを連れ出すかもしれない。そうなったら手遅れだが、焦ってことを仕損じるわけにもいかないな……!」
ともあれ、ペイパー警部も目下の課題は理解してる。どうにか冷静に状況を分析してるけど、言葉の節々にはランさんを早く助け出したい気持ちも見えてくる。
きっと、私がディストール王国にいた時のスペリアス様も同じ気持ちだっただろう。
それなのに私はあの時、ワガママ言って帰ることを拒んでしまった。あの時素直になっていれば、エスカぺ村の悲劇も起こらなかった。
悔やんでも悔やみきれない。今考えるべきじゃなくても、脳裏からどうしても離れない。
【……ミラリア。今は眼前に集中しろ。もう二度と、あんな光景は見たくないんだろ? 誰にもさせたくないんだろ?】
「分かってる。私も気持ちを切り替える」
ツギル兄ちゃんにも読まれていたのか、ペイパー警部にも聞こえないような小声で諭される。
言ってることはもっともだ。私はランさんを助けて、ペイパー警部の親子があの日の私と同じ目に遭わないようにしたい。
今はそれを優先し、静かに洞窟の奥へと歩みを進めるのみ。
「……待ちな、ミラリアちゃん。この先に敵が潜んでやがる」
「まだ一番奥じゃないよね?」
「ああ。だが、どうにも厄介なのが道を塞いでるみたいだ」
少しずつ見つからないように奥へ進めてはいるものの、途中の一本道手前の角でペイパー警部から待ったが入る。
この人、本当にこういうのが手慣れてる。火炎魔法の扱いとか状況の見方とか、ランさんのお父さんってのがよく分かる。
そして、ペイパー警部も厄介がるこの先の人物というのは――
「副船長が捕らえた女達、おとなしくしてるでヤンスか?」
「ああ。事情は別々だが、俺らロードレオに逆らえるはずがないでゴンス」
「あっ。幹部っぽい変な語尾の人達」
なお、ネームドではない模様。




