その警部、少女を追う
ランとペイパー警部。実は親子な二人の様相。
思わず私のことをバラされるかと思ったけど、ランさんはペイパー警部に対してシラを切った。
ありがたいけど、大丈夫なのかな? ペイパー警部ってエステナ教団でも偉い人だし、ランさんのお父さんだよね? それなのに嘘は良くないとも思う。
「こいつはミラリアと言って、かなりの大罪人だ。元々はディストール王国の勇者だったらしいが、そこで王城を爆破。王族を含む大勢の犠牲者を出したそうだ」
「へー、そうかい。そいつはまた幼そうなわりに大層な極悪人なことだ」
「それだけじゃない。まだ公には発表してないが……ミラリアはエステナ教団の聖女フューティ様を暗殺した犯人だ」
「ッ!? そ、そんな……!? わ、私……違う……!」
【堪えろ、ミラリア。……今は話を聞くしかない】
ペイパー警部は私が近くで隠れてるとも知らず、そのまま話を続けていく。元から罪を被せられていたディストール王国の一件をも口にしてくる。
それどころか、フューティ姉ちゃんが殺された件まで私のせいにされている。またレパス王子あたりの仕業だと分かっても、こればっかりは胸が締め付けられるように痛い。
――私はフューティ姉ちゃんを殺してなんかいない。できることならばすぐにでも飛び出て弁明したい。
「へー……聖女様が殺されたってのかい? そりゃまた、エステナ教団としては大変なことで」
「聖女フューティ様が亡くなられた今、各地で発生する闇瘴騒動を収めることも難しくなる。聖女の資格なんて、簡単に得られるものじゃ――」
「そういう話、もう止めてくんない? 家のことなんかほっぽり出して、そんなにエステナ教団が大事かい? 娘のアタイなんかよりさ? なあ?」
「そ、そんなつもりじゃない。オレッチだって、お前のことが心配だから先んじてミラリアのことを――」
「ああ、もう! ウザい! 用が済んだなら出てってよ! 親父の顔なんて、こっちは見たくもないんだからね! 寝るんだったらいつも通りギルドでも使わせてもらいな!」
なんとかツギル兄ちゃんに諭されて声を潜めてると、最終的にランさんが追い出す形でペイパー警部は家から出ていった。
といっても、ここはペイパー警部の家でもあるはず。凄く仲が悪そうだったし、親子で何があったんだろう?
「あ、あの……ランさん……」
「……ああ、ミラリア。ごめんよ。もう出てきても大丈夫さ。それより、アタイも少し聞きたいんだが、聖女フューティ様を――」
「ッ!? 違う! 私じゃない! 私、殺してない! フューティ姉ちゃんを殺すはずない! うあぁぁあん!」
「ご、ごめんって! 別にアタイも本当にミラリアがやったとは思ってないから!」
それを尋ねようと恐る恐る顔を出すと、逆にランさんから質問が飛んでくる。当然と言えば当然で、その内容はフューティ姉ちゃんの件について。
その話を聞くと、反射的に反論せずにはいられない。私はフューティ姉ちゃんを殺してない。殺すわけがない。
私にとって、フューティ姉ちゃんは本当にお姉ちゃんのような人だった。事情を知らなくても殺人犯の疑いをかけられては、泣きながら否定しないと心がもたない。
「本当にミラリアがフューティ様を殺してたと思ってたら、アタイはあの時親父に告げ口してたさ。だから、な? 疑ってないから泣き止んでくれよ?」
「えっぐ、えっぐ……! そ、それならいい。……でも、どうして本当のこと、言わなかったの? あの手配書、私のことだって分かってたよね?」
「ああ、まあ……アタイにも事情があってさ。……後で話すよ。今は席に着いて待っててくれ。飯の方もじきに出来上がるからさ」
ランさんは私のことを信じてくれて、これ以上の言及は控えてくれた。でも、こっちはこっちで別にペイパー刑事の件が気になる。
尋ねてみると、ランさんは話を逸らしながらも夕飯の時に語ってくれると約束してくれた。
ペイパー警部は私から見ると敵。リースト司祭と同じくエステナ教団の人だ。
とはいえ、悪い人には見えない。フューティ姉ちゃんのことも心配してくれてたし。
――それに二人の様子を見てると、あの時の私と重なって見える。
■
「ほれ、お待たせ。カラフライのタツタ揚げ、マヨソース和えだ」
「ふあぁ……! これがタツタ揚げ……! 美味しそう……!」
「ちょっとバツが悪いところも見せちゃったし、まずはたんと食べてくれよ。お礼も含めてさ」
ともあれ、私もお腹が空いている。食卓で待っていれば、ランさんが実に美味しそうな料理を大量にテーブルへ乗せてくれる。
カラフライの肉が焦げ茶色の皮で覆われ、その上に乗せられた白いソース。見た目も香りも食欲をそそる。
旅をしてるとキチンとした料理は中々食べられないし、しっかり味わっていただこう。
「ツギル兄ちゃん、見て見て。このタツタ揚げってのから、美味しそうな汁が溢れてくる」
【ええい、見せびらかすな。だが……この汁は油か?】
「揚げ物は初めてかい? だったら、このタツタ揚げはいい思い出になるだろうさ」
フォークで突き刺したツギル兄ちゃんに少し見せびらかせたくなるほど、このタツタ揚げという料理は美味しそうだ。でも、あんまり見せびらかすのもかわいそう。
私も早く食べたいし、大きく口を開けて食べてみれば――
「ッ!? こ、このサクサクとした外側に、ジュージューと溢れ出す内側に肉汁……! 口の中に充満する油の味だけでなく、上手く酸味でフォローする白ソースのデュエット……!?」
――あまりの美味しさに昇天しそうになる。単刀直入に美味すぎる。
油がたくさんあるからクセはちょっと強いけど、逆にそのクセの強さが癖になる。
やめられない、止まらない。フォークを突き刺して口へ運ぶ手を止められない。
「ハハハ! そんなにがっついてくれると何よりだ。たくさん作ってあるから、好きなだけ食べてくれよな」
「うん、食べる。それにしてもこの味、お米が欲しくなってくる。お米はないの?」
「オ、オコメ? 何だそれ? アタイはそっちの方が知らないぞ?」
「そう……残念」
この味に合うのはズバリお米だ。思わず催促しちゃうけど、ランさんはお米が何かさえ知らなかった。
タツタ揚げと違い、お米はエスカぺ村にしかないものなのか。食の世界も奥が深い。同じものがあっちこっちどこにでもあるわけでもない。
【なあ、ミラリア。食べてるところ悪いんだが、俺としてはさっきの件を……】
「あっ、そうだった。ランさん、ペイパー警部の話、食べながら聞いてもいい?」
思わず食べることに意識が全部行っちゃうけど、こっちにもまだ気になる話が残ってた。
ツギル兄ちゃんの言葉で我に返り、タツタ揚げを口に運びながら尋ねてみる。お行儀悪いけど、この話もしっかり聞いた方がいい。
――今のランさんが以前の私と重なって見えるから尚更だ。
「もうお察しの通り、あのペイパー警部ってのはアタイの父親さ。……アタイと母さんを捨てたクソ親父だけどな」
ミラリア「モグモグ。食べながらだけど続けて」




