その少女、お呼ばれされる
レッツ、お呼ばれ晩御飯。
「ここがアタイの家だ。入っておくんな」
「中は結構広い。一人で住んでるんだっけ?」
「うーん……まあね。とりあえず、そこの椅子に腰かけてな」
ギルドを後にして、私が連れてきてもらったのはランさんのお家。二階建ての民家で、一人で暮らすにしては広い。
気にはなるけど、こっちも深い事情に踏み込むのはいけない。ランさんと同じように気を遣い、おとなしく椅子に座って待ってるとしよう。
「ちょいと待ってな。今、カラフライのタツタ揚げを作ってやっからよ」
「タツタ揚げ……? 何それ? 美味しいの?」
「ああ。ポートファイブのちょっとした名物さ。ミラリアみたいな食いしん坊なら、是非とも食べておくべき一品さ」
「ふあぁ……! 楽しみ……!」
【本当に食べることには貪欲だよな……】
どうやらランさんは夕飯をご馳走してくれるらしい。しかも、献立はお昼に捕らえたカラフライを使った料理。
『タツタ揚げ』なるものは初めてだけど、美味しいに決まってる。ランさんの食に関する目利きはデカゲーターで保証済みだ。
これは楽しみ。ツギル兄ちゃんと話しながら、出来上がるのを待って――
チリン チリン
「むぅ? ベルの音?」
「こんな時間に来客か? ……って、ヤッバ!? あいつ、帰ってきやがったのか!?」
――いると、急に玄関から聞こえてくるベルの音。どうやら、この家に誰かが来たらしい。
せっかくのご馳走前なのにタイミングが悪い。思わず頬を膨らませて不機嫌になっちゃう。
でも、もっとマズそうな反応をするのはランさんの方。台所の窓から来客の顔が見えたらしく、それを見て何やら慌て始める。
「ミラリア! 悪いんだが、この部屋に入っておとなしくしててくれ! 絶対に出てくるなよ!?」
「う、うん。分かったけど、いったい何があって――」
「説明は後でする! いいから隠れてて!」
椅子に座ってた私の腕を引っ張り、何やら近くの部屋へと押し込められてしまう。こっちは状況も何も分からないけど、家の主であるランさんに従うしかない。
でも、何がどうしてこうなったのかは気になる。
「……ちょっと覗いてみる」
【盗み聞きは良くないぞ?】
「どのみち、ここだと声は嫌でも聞こえる。バレないようにちょっと見てみるだけ」
【まあ、俺も気になるからな。こっそり覗いてろよ?】
部屋で隠れるように言われたけど、ランさんがどうしてああも慌ててたのかは気になる。ちょっと悪いことだけど、ただ待ってるだけってのも嫌。
どのみちこの扉じゃ話し声は筒抜けだし、少しだけ開いて様子を見させてもらおう。とりあえず、誰がこの家に来たんだろ?
「その……ただいま、ラン。今帰ったぞ」
「おーおー。長いことを家を空けた警部さんが、どの面下げて『ただいま』なんて言うんだかね? ……このクソ親父が」
「あ、あれって……ペイパー警部……!?」
【大声は出すな。これはどうにも、盗み聞きする理由が増えたな】
わずかな隙間から覗いてみれば、この家にやって来たのは私も知った顔。エステナ教団警備部隊長のペイパー警部だ。
まさかこっちの大陸に来てまで会うとは思わなかった。いや、それよりも気になることがある。
――今ランさんはペイパー警部のことを『親父』って言ってなかった? 親父って『お父さん』ってことだよね? この二人、親子だったの?
「なかなか帰れないのは悪かったと思ってる。だが、オレッチにも仕事があって……」
「へーへー、そうですかい。仕事の方を優先して、母さんの死に目にも顔を合わせないってかい? そんなにエステナ教団だの楽園だのって方が大事なんだろ? 娘のアタイなんかほっといてさ」
「そ、そんなつもりは……ないんだが……」
「知らないね、親父の気持ちなんかさ。実際にこっちはいつも一人で生活してる。仕送りするだけで父親面しないでほしいもんさ」
だけど、二人の間に流れる空気は険悪だ。とても親子がする雰囲気じゃない。
この空気は私がスペリアス様の言葉を無視してディストール王国にとどまった時に近い。どっちが悪いかは分かんないけど、お互いの距離感が遠い。
「で? またなんで急に帰ってきたわけ? 近くに寄ったから顔を見に来たとか?」
「ま、まあ……そうなんだが。それと、一つ聞きたいことがあってな」
「聞きたいこと? ……って、それ手配書じゃんか。また仕事のことかよ……」
「まだ正式に交付する前の手配書だ。だが、エステナ教団からは率先して身柄確保を求められててな。一度目を通してほしい」
ランさんの方は『話したくもない』って空気だけど、ペイパー警部はそのまま話を続けていく。懐のコートから丸まった紙を取り出し、ランさんの前で広げ始める。
何より気になるのは、その時ペイパー警部が口にした『エステナ教団が優先してる手配書』といった都度の言葉。フューティ姉ちゃんの件があるから、なんとなくその手配書が誰のものか分かってしまう。
「腰に剣を携えて、黒髪とアホ毛が特徴的な少女だ。こいつに見覚えはないか?」
「や、やっぱり……私……!?」
必死に口を押えて様子を見てれば、ペイパー警部の持った手配書に描かれたのは私の顔。自慢のアホ毛が特徴的に描かれ、私を知ってる人ならすぐに判断できてしまう。
これはマズい。本当にマズい。
ランさんは私のことを知ってるから、ここに隠れてることを喋って――
「……いや、知らないね。そんな奴、見たこともないさ」
ペイパー警部再登場。(というか、本格始動)




