◆闇瘴鳥フィアフライⅡ
味方の援護を受け、起死回生のチャンスを掴む!
「ランさん!?」
「驚いてる暇はないぞ! アタイだって、隙を作るぐらいはできる! おい、鳥公! こっちがいることも忘れんなよ!」
怪鳥を怯ませてくれたのは、ランさんのライフルによる一撃。翼の一部が焦げ、空中でわずかに悶えている。
でも、それも長くは続かない。すでに再生は始まり、今度はランさんに襲い掛かろうと狙ってる。
――そんなことは許さない。
「ツギル兄ちゃん! この一撃で決める!」
【ああ! 気合入れろよ!】
私としてもこれが最後のチャンスだ。位置取りとしてもこっちが真上で、怪鳥の頭上を取れている。
満身創痍の中での起死回生。ここで決めなければ、ランさんにまで被害が及ぶ。それだけは絶対に避けないといけない。
――もう優しくしてくれた人を失いたくない。
「ハァァアア! 聖天理閃!!」
ズパァァアンッッ!!
「ゲッ!? ギャァ……!?」
上空で魔法陣を下向きに展開し、急降下しながらの一閃。落下の加速とも合わさり、さらには怪鳥のバランスも崩れたまま。
そこから全霊で放つ聖天理閃は今度こそ怪鳥の体を引き裂き、苦悶の声を上げているのが頭上で聞こえてくる。
「ふんぎゅっ!? ちゃ、着地……失敗した……」
「ミラリア!? 大丈夫か!?」
「わ、私のことより、怪鳥の方は?」
「どうやら倒せたみたいだ。あっちも墜落して倒れたまま、体から闇瘴っぽいのを噴き出してる」
ただ、こちらも後のことを考える余裕すらなく、地面へ転がりながら着地する。とりあえず大丈夫だし、今気になるのは怪鳥の方だ。
駆け寄ってくれたランさんにも確認すれば、確かに怪鳥の方も地面へ倒れ伏している。
力なく横たわったその体から溢れているのは、巨大サソリの時と同じ闇瘴。しかも今回はフューティ姉ちゃんの聖女パワーなしでも浄化できているのが見て分かる。
やはり、理刀流をマスターして聖天理閃を完成させたのは正解だったか。私の理刀流に魔剣の力が合わされば、闇瘴という脅威にだって立ち向かえる。
理刀流にしたって、そもそもはフューティ姉ちゃんが剣術書を遺してくれたから覚えられたもの。この技だって無駄にしたくない。
「す、凄いな、ミラリアは……。アタイも闇瘴の恐ろしさは知ってるが、戦って勝つどころか浄化までできるなんて……」
「私の大切な人がこの技を覚えさせてくれた。……それより、ランさんに言いたいことがある」
「え? な、なにさ? ちょっと怖い顔しちゃって……?」
こうやって無事に聖天理閃を決めるまで運べたのも、ランさんが隙を作ってくれたおかげ。そこは素直に感謝したい。
だけど、どうしても素直になれないことがある。そのことがあるから、どうしても眉をひそめて物申してしまう。
「上手く行ったからよかったけど、ランさんも危なかった。ああやって囮になるような真似はやめてほしい。ランさんにもしものことが――あたっ!?」
「あんたは何を言ってんだか……。アタイが手を出さなきゃ、そっちこそあのままやられてただろ?」
ランさんが怪鳥をライフルで撃ち、狙いがそちらへ向いてしまったことには物申したい。だって下手をすれば、ランさんが殺されてたかもしれない。
そんなのは嫌。絶対に嫌。もう見たくない。
そのことを指摘すると、ランさんが私の頭にチョップを加えてくる。ちょっと痛いし、自慢のアホ毛が崩れるからやめてほしい。
「あのさ……ミラリア。自分達を守るために戦ってる人間がいて、自分は指を咥えて見るばかり。そんなの面白くないし、できる限りの支援はしたくなるのが人情だろ?」
「人情……? で、でも、ランさんじゃあの怪鳥を倒せなかった」
「だったら、ミラリアはもしアタイの立場だった場合、素直に指を咥えて見てたってのかい?」
「……見てなかった。できる限りのことはしたくなる」
でも話を聞いていくと、ランさんの言い分も分からなくはない。確かに立場が逆だったら、私だってランさんの力になろうと動いてた。
どれだけ己の無力を理解しても、動きたくなる時はある。それが『人情』ってものだと思う。
そう考えればチョップされるほど怒られたのも納得。ランさんの気持ちを考えれてなかった。
「まあ、アタイも助けてもらったのは事実さ。ちょいと叱った後だけど、そこは感謝させて頂戴な」
「うん。こっちも感謝してる。ランさんの援護がないと危なかった」
「だろだろ? そういう感謝は素直にしてほしいもんだ。……それにしても、どうしてまた闇瘴なんか発生したんだ? ここいらではカラフライが怪物化する事例なんて初めてだぞ?」
自分なりにもランさんの気持ちには納得できたけど、今度は別の疑問点が浮上。闇瘴のことはエスターシャ神聖国と同じく、こっちの大陸でも有名な話らしい。世界的に問題視されてるも本当だったようだ。
ただ、こういった怪物化は初めてとのこと。エスターシャ神聖国の巨大サソリについても『珍しい事例』って、リースト司祭あたりが言ってた。
そのことが気になるのか、ランさんは当たりを見回しながら考えこんでいる。
「……ん? あれ? あそこに誰かいるような……?」
「誰かいる? 誰がいるの?」
すると、ランさんが一ヶ所へ不思議そうに目を向ける。少し遠くの崖の上らしいけど、確かに人影が一つ見える。
よく目を凝らしてギリギリ分かるぐらいだけど、私も注視してみれば――
「……えっ!? あの人ってまさか……眼鏡メイドさん!?」
ただのチョイ役では終わらない人。




