その森、闇が走る
Aランクパーティーが逃げ出した原因は?
「あの人達って、確かAランクパーティーの人だったよね?」
【ああ。何かから逃げてるみたいだが……?】
カラフライを仕留めた私達の方に走ってくるのは、昨日ギルドでも会ったAランクパーティーの女の人二人。
リーダーの男の人はおらず、血相を変えて逃げている。
「ちょ、ちょっとどいてよ! 早くここから逃げ出さないと!」
「あんたらも逃げた方がいいしー! あれは勝ち目ないしー!」
「むぎゅっ!?」
途中にいた私にも構うことなく、手で払いのけて走り去ってしまう。あまりに急なことだったから、こっちも反応できずに尻もちをついてしまった。
謝ってほしいけど、どうにもそれ以上にヤバい感じ。あそこまで慌てて逃げるなんて、よっぽどヤバいことがあったのだろうか?
「な、なあ、ミラリア。アタイ達も逃げた方がよくないか?」
「……そう思うけど、何があったのか気になる。少し様子を見てくる」
「お、おい!? くっそ! アタイも一緒の方がいいか……!」
あの慌てようはどうも気になる。リーダーの人がいなかったのだって、何か危険な匂いがして仕方ない。
Aランクパーティーってこの辺りでは一応強い人達みたいだし、そんな人達が散り散りになって逃げるのは何かがおかしい。
ランさんに引き留められつつも、結局は一緒になって何かがあるらしい森の奥へ足を踏み入れてみる。
身長に前へ進むほど、どこか肌に突き刺さるような感触がしてくる。この感覚には覚えがある。
【……ミラリア、身構えろ。これはあの時と同じだ】
「うん、分かってる。ランさんも警戒して」
「な、なんの話をしてるんだい? この先に何が……?」
ツギル兄ちゃんも気付いてるし、やっぱりエスターシャ神聖国で見たの同じだ。ランさんにも注意を呼びかけ、私の方が前へ出る。
おそらく、Aランクパーティーが逃げ出した原因は――
「グケアァァァア!!」
「ハァ……ハァ……。た、助けてくれ……」
――闇瘴で生まれた怪物の影響。
その予想通り、森の奥地には大きな怪鳥とAランクパーティーのリーダーがいた。ただ、リーダーの方はボロボロになって地面に倒れてる。
おそらくは怪鳥に襲われるも、力及ばずに敗れたんだ。闇瘴で生まれた怪物相手には、単純な強さだけでは意味を成さないから当然だ。
他の二人も先に逃げてしまい、一人取り残されたのか。
「あ、あの鳥って、カラフライだよな!? 形はそのままだが、あんなに大きくはないぞ!? しかも体から漏れてるあれは……闇瘴か!?」
「グケアァァ!!」
「ひいぃ!? こ、こっち来んなって! こ、この!」
怪鳥のベースとなったのはカラフライらしいけど、さっきの個体のようにこっちを見て逃げ出すことはない。
それどころか今度は私達の方へ襲い掛かり、ランさんも思わずライフルで攻撃してしまう。
バシュゥン――ギュゴゴゴ
「えっ!? ま、まさか……効いてない!?」
「ランさん! 下がってて!」
「わ、分かったが……どうすんだよ!?」
「私で何とかする!」
だけど、闇瘴に犯されたカラフライの前では意味を成さない。以前の巨大サソリの時と同じく、すぐに傷を再生させながら襲い来る勢いは止まらない。
もうこうなったら狩りどころではない。ランさんには一度離れてもらうように促し、私一人で相手するのが一番。
巨大サソリの時から理刀流の技も進化させたし、立ち向かう術はある。
「ゲホ……ゲホ……。お、俺は……ここで死ぬのか……?」
「生き残れるかは分からない。でも、最善は尽くす。あなたもランさんと一緒にいて」
倒れていたリーダーにしても、このまま放っておくことなどできない。どうしようもない相手だったとはいえ、味方に見捨てられたままってのもかわいそう。
動く体力もないみたいだから、転移魔法を発動させてランさんの近くへ移動させる。今はとにかく、安全を確保するのが優先だ。
「うおっ!? いきなりアタイの傍に人が!? こ、これもミラリアがやったのか!?」
「説明は後でする。今はその人を手当てしてほしい」
「わ、分かった! どのみち、アタイではその怪鳥に敵いそうにない! 悪いんだが……頼んだぞ! ミラリア!」
ランさんとリーダーは木の陰に隠れてくれた。怪鳥も空から私を見てるし、場の準備は整ったと言えよう。
腰の魔剣に右手を添え、こちらも空を見上げて怪鳥と向かい合う。
【今回はフューティ様抜きだ。闇瘴相手でも、ミラリアだけで対抗しないといけないが……大丈夫か?】
「大丈夫。エスターシャで理刀流の修行して、巨大サソリの時よりも対抗できるはず。やってみないと分からないけど……自信はある」
【よし。なら遠慮なくやれ。俺の魔力はミラリアに預けてるから、存分に使ってくれよ】
前回の闇瘴と違い、今回はフューティ姉ちゃんが浄化してくれたりはしない。私と魔剣の力でどうにかする必要がある。放っておけば被害が拡大してしまう。
でも、いつかこういう機会が来ることだって理解してた。だからこそ、私は闇瘴に対抗可能な理刀流の技を磨いてた。
――その成果を今ここで示す時。自分を信じて挑むのみ。
闇瘴による怪物再び! 今度はミラリアのみで相手する!




