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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
新たな大陸と謎の海賊団
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そのスナイパー、楽園を嫌う

楽園が嫌いと言うスナイパー少女ランとの話は続く。

「どうして楽園のことが嫌いなの? 楽園って、幸せになれるところじゃないの?」

「幸せになれるどころか、アタイの幸せを――いや、何でもない。これ以上は個人的な話だ。迂闊には話せないよ」


 ランさんに楽園嫌いのことを尋ねても、適当にはぐらかされてしまう。

 でもまあ、私だって旅の目的は『楽園で幸せに過ごす』ことじゃない。『楽園に辿り着いてスペリアス様にごめんなさいする』ことだ。

 楽園が本当に幸せな場所かなんてどうでもいいし、何だったら楽園が嫌いな人だっているのだろう。

 これ以上の質問はよろしくない。『相手の気持ちを尊重する』のが大事とも教わった。


「それより、一つ思い出したことがある。ロードレオの連中はライフルを含めた技術を『カラクリ』って呼んでたな。魔法とはまた違う技術らしい」

「カラクリ……? 私も初めて聞いた」

【どうにも、これまでのエデン文明とは毛色が違うな。どちらかと言えば、ロードレオ海賊団の個人的な技術っぽいか】


 話を逸らすようにランさんは話題を切り替え、ライフルやロードレオ海賊団の話に戻してくる。

 聞いてみれば、本当にロードレオ海賊団とエデン文明は無関係かも。本人達に聞かないと断言できないけど、今はそれでいいや。


「ほれほれ。そうこうしてたら、デカゲーターの肉が焼けたみたいだぞ。食べたかったんだろ? 一番美味い足肉をやるから、ガブリとかぶりつきな」

「いいの? それじゃ、いただきます」


 焚火であぶってたデカゲーターのお肉も焼けたらしく、枝に刺さった足肉を譲ってくれる。私もワニは足肉が一番好き。

 手に取ってみれば、香ばしさと滴る脂が食欲をそそる。見た目だけでも十分美味しそう。

 エスカぺ村で食べたワニ肉よりも大きいし、さてさてお味の方は――


「むんうぅ!? お、美味しい!? 歯応えはしっかりしつつも、口の中に広がる脂と旨味のハーモニー……!」


 ――まさしく絶品。エスカぺ村のワニ肉よりも美味しい。

 ボリュームの分だけ味が損なわれるんじゃないかと心配したけど、そんなことは全くない。むしろ味までボリュームアップ。

 食べ応えも十分であり、これならいくらでも食べられる。


「だろ? イケるだろ? アタイもデカゲーターは好物さ。余らすのももったいないし、ジャンジャン食べておくんなよ」

「うん、食べる! たくさん食べる!」

「アハハ! 最初は泣いてるか淡々としてるかだったのに、美味いものがでてくると急に機嫌が良くなったな!」

【まあ、そこはミラリアらしいところだな。俺としても、下手に考えすぎる姿よりはこっちの方が安心する】


 美味しいデカゲーターのお肉を食べれば、細かい悩みなど吹き飛ぶ。人との付き合いの距離感も忘れ、差し出してもらったお肉をどんどん頬張っていく。

 美味しいものに罪はない。ディストールで食べたブルホーンのお肉もエスターシャで食べたフルーツサンドも、私にとって元気の源だ。

 辛いこともたくさんあったけど、こうやって楽しく美味しいことがあると希望も満ちてくる。


「さーて。話したり食べたりしてたら、いつの間にか陽が暮れてきたか。今日はここでキャンプしようと思うけど、ミラリアはどうする?」

「ムグムグ……ひょうはへ。わはひもここてやひゅみゅ」

「……いや、食べ終えてから喋ってくんない?」

【とりあえず『自分もここで休む』と言ってる】

「なんで魔剣の兄ちゃんが通訳してんだか……」


 気がつけば夕方になり、これ以上の散策は危険な時間帯。ランさんも休むみたいだし、私もここで一緒に休もう。

 森の中で一人は危ない。私もできれば誰かがいた方が安心して休める。


「じゃあ、アタシはこっちで横になって――って、あれ? ミラリアは横にならないの?」

「私はこのままでいい。こっちの方がすぐに動ける」


 でも、やっぱり誰かに全部の信頼は託せない。いくらランさんがデカゲーターのお肉を奢ってくれるいい人でも同じこと。

 むしろ、私もランさんに関わりすぎた。またフューティ姉ちゃんのような悲劇は見たくない。

 ここはいつでも動けるよう、座って魔剣を抱えながら休むとしよう。この休み方についても、理刀流の本で学んだものだ。


「なあ。何もアタイはミラリアを取って食うつもりなんてないし、焚火に魔除けの草を混ぜて燻してあるんだ。横になって体を休めないと、疲れだって抜けないぞ?」

「大丈夫。ランさんが悪い人だとは思ってない。……それに、あんまり魔除け効果を過信しない方がいい」


 ランさんは横になって心配してくれるし、別に私も疑ってるわけじゃない。むしろランさんのことが心配。

 これまで立て続けに大切な人を失ったことは、今でも私の心に巣食ってる。もう目の前で誰かに死なれるのだけは嫌。


 ――それは対策した中であっても同じこと。


「……そこ!」



 キンッ!



「クマァァ!?」


 休む話が出た直後から、私の後ろで何かが様子を伺う気配は感じていた。少しだけ隙を見せて近づいたところを、すぐさま居合で抜刀して相手の喉元へつきつける。

 振り向いた先にいたのは、白黒の姿をした大きな熊。もしあのまま横になってたら、こいつに食べられてたかもしれない。


「こ、こいつはツキノパンダか!? 魔除けしてたのに、デカゲーターの匂いの方で釣られたか!? そこまで危険度は高くない魔物だが、油断できないな……」

「危ないところだった。えーっと……ツキノパンダさん。私達、これから休む。おとなしく回れ右して帰ってほしい」

「ク、クマァ……」


 とはいえ、もう今日は魔物を狩るつもりもない。このツキノパンダにしたって、何か害のある魔物ではないっぽい。

 ならば殺さず、素直にお帰りいただくのが一番。喉元に魔剣を突きつけて願い出れば、言葉通りに帰ってくれた。


 ――でも、後姿の毛皮のモフモフは気持ちよさそう。どうせならあそこにダイブしてみたかった。


「これで大丈夫だと思うけど、私はこのまま座って休む」

「あ、ありがとう……。ミラリアって、かなり強かったんだ」

「剣技は自信ある。Aランクとかにも負けない」

「へ、へえ……。だったらさ、アタイからお願いがあるんだけど?」


 再度瞼を閉じ始めてると、ランさんが少し起き上がりながら語り掛けてくる。私にお願いって何だろう? 保存してあるでっかい蛇のお肉が食べたいとか?

 あれは血抜きも終えてシオルトの葉で保存してある。今日はもうお腹いっぱいだし、できれば別の機会に食べたいんだけど――




「明日さ、しばらくアタイと一緒に森を散策してみない?」

ところで、ミラリアって新天地ではいつも何か食べてるのな。

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