その少女、クエストに挑む
ギルド案件はまあ、一般的な「クエスト」というものです。
「えーっと。メンバーはお嬢ちゃん一人で、ギルドへの正式登録はなし。……登録してないからこっちもアフターケアとかは保証できないけど、大丈夫なのかい?」
「大丈夫。私、一人の方が都合いい」
「まあ、非登録者相手だから、こっちもとやかく言わないけど……」
少しでもお金は欲しいし、ギルドの使い方についても学んでおきたい。そんなわけで、まずは一人でポートファイブ近くの森までやって来た。
ギルドに正式登録せず、一時的な案件受注なのが功を奏した。変にサービスなんていらないし、今の私は一人で色々やりたい。受付の人も深入りしないでくれる。
不安はあるけど、誰かを巻き込んじゃうのはもう嫌。いざとなったらもらった薬草も使い、逃げるが勝ちとしよう。速さには自信がある。
「それにしても、最近は変な非登録冒険者が多いな。火を噴く長筒を持った少女に、どこか黒そうなメイドさんとか」
「確かに変な人達だ」
「いや……その『変な人』の括りにはお嬢ちゃんも入ってるんだけど?」
私以外にも冒険者はいるし、私以上に変な人もいるっぽい。こういうのって『木を隠すなら森の中』だったっけ? 変な人が多ければ多いほど、私の存在も誤魔化せる。
なんだか受付の人には呆れられたけど、森の中に入る許可はもらった。ここで狩りをして獲物をギルドに納品すればお金がもらえる。頑張ろう。
【にしても……だ。本当にフューティ様のお小遣いは使わないのか?】
「使わないったら使わない。これは亡くなったフューティ姉ちゃんのために使うって決めてる」
【使うって……何に?】
「……そこまでは考えてない」
【俺もミラリアの気持ちは理解できるが、変に使わないままじゃフューティ様にも申し訳ないぞ?】
「私が納得できないから嫌」
【……逞しくなってきても、妙に頑固なところは変わらないか】
なお、この旅でフューティ姉ちゃんからもらったお小遣いは使わないことにしてる。聖水にしたって大切なものだから、迂闊に使うことなんてできない。
これらは必要な場面を見極めて使う。無駄に使って台無しにすると、私は私が許せない。
「とりあえず、ギルドの案件を今は進める。ここに書いてるものをできる限り集めればいいって聞いた」
【魔物の肉や牙に爪……そういったものから、山菜といったものまであるな】
「魔物狙いの方が報酬は大きい。美味しいお肉もあるみたいだし、こっち優先で」
【……お前って、本当に食い意地だけは一人前だよな。無闇やたらに狩りをするのもどうかと思うぞ?】
「無駄にはしない。命に感謝して食べる。有効活用することこそ、スペリアス様の教え」
ツギル兄ちゃんと話しながら森を歩いてると、なんだかエスカぺ村での懐かしい気持ちになってくる。
あの頃も村の結界内とはいえ、森でよく狩りや山菜採取をしたものだ。思えば当時は、体験する全てが修行だったとも言えよう。
狩りをするということは、こっちが狩られる可能性もあるということ。
刈り取った命は無駄にせず、使える限り有効に使う。肉もしっかり食べて、自分が生きる力にする。
スペリアス様の教えは私にとって、いつか再会できる日の指標ともなる。教えを破って無様な姿で再会などできない。
――ただでさえスペリアス様の言葉を破って迷惑かけてるのに、これ以上は許されたことではない。
「キシャァァアア!!」
「あっ。でっかい蛇」
【こいつって、報酬対象だったよな? 確か被害報告も出てて、討伐依頼も一緒になってたっけ?】
「なら話は早い。斬り捨て御免」
そんなわけで、私も無闇に斬り捨てるわけじゃない。ツギル兄ちゃんにも確認してもらい、迷惑もかけてる巨大蛇を斬り捨て御免。
こんなに大きい蛇は初めて見た。エスカぺ村のある大陸では見たことがない。
でも弱い。エスカぺ村に潜んでた蛇は小柄ながら群れで攻め寄せ、人間の体に巻き付いてくる強敵だった。動きも素早かったし、私も何度かやられたことがある。
あれに比べたらなんてことない。エスカぺ村の蛇は服の間に入ったりもして気持ち悪かったけど、大きいだけなら怖くない。
「大きいだけなら怖くない。とりあえず、また血抜きすればいいのかな?」
【そうだな。それから牙と鱗を回収しろ。回収したらアイテムポーチに入れて、ギルドに持っていけば金と交換してくれる】
「成程。アイテムポーチって便利。……ところで、お肉は美味しいの?」
【やっぱ、そこは重要なんだな。まあ毒はないし、食べられなくはないそうだ】
仕留めた巨大蛇をどうにか工夫して血抜きしつつ、ツギル兄ちゃんに今後のやり方を教えてもらう。
てか、ツギル兄ちゃんって別に本とか読んでないよね? ギルドでの説明を聞いただけで喋ってるよね? よくそんなにスラスラと言えるものだ。
感心するけど生意気だ。魔剣のくせに生意気だ。
「とりあえず、お腹を裂いてみよう。血抜きもできるし、お肉の鮮度も確かめて――」
「ギャオォォオン!!」
「あっ。今度はさらにでっかいワニ」
【こいつ、ミラリアが仕留めた巨大蛇を狙ってないか?】
そうこうしていると、休む間もなく新手の魔物が襲い掛かってくる。今度のワニはさっきの蛇より大きい。
しかも狙いは私というより、仕留めた蛇の方だ。私のお肉を狙うとはいただけない。
ただ、このワニも美味しそう。エスカぺ村でも修行でワニと戦うことがあれば、ワニをみんなで食べることもあった。
ワニ肉って、いい感じの歯応えで私は好き。ここは返り討ちにして、今日の晩御飯にでも――
バシュゥンッ!!
「ギャオォ……オォン……」
「……ふえ? か、勝手に倒れた?」
――などと考えてたら、居合を放つより前に巨大ワニが崩れ落ちていく。
近寄ってみれば、頭の辺りがなんだか焦げ臭い。目を向けてみれば、頭に丸く焦げた跡がある。
これって何がどうなってるの?
【どうやら、別の誰かが先に仕留めたみたいだな。集約された火炎魔法を遠方から射出したってところか】
「じゃ、じゃあ、その誰かはどこ?」
【ワニの頭にある焦げ跡を逆に辿ってみろ。方角的にはそっちだ】
とりあえず分かることとして、私が狙ってたワニを横取りされたっぽい。
これはちょっと怒る。せっかく久々のワニ肉が食べれると思ったのに。
とりあえず、横取り犯の顔を拝んでみよう。こんなことをするんだから、きっとトラキロさんよりも悪そうな顔で――
「よっしゃー! アタイの獲物だね! ナイススナイプ!」
「ふえ!? お、女の子!? しかも持ってるのって……ライフル!?」
ミラリアの獲物を横取りしたのは、ライフルを持った謎の少女。




