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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
新たな大陸と謎の海賊団
72/503

その冒険者、少女を甘く見る

ハッキリ言えば、ミラリアは並の軍隊が相手でも勝てるぐらいには強い。

「何? ちょっと武器に触ろうとしただけでムキになっちゃって?」

「リーダー! そいつ生意気だから、やっちゃってって感じー!」


 私達が睨み合ってそれぞれ武器を構えると、外野でAランクパーティーの女二人が茶化してくる。

 私にとって、この魔剣はただの武器じゃない。ツギル兄ちゃんの魂が宿り、エスカぺ村のみんなが繋いでくれた意志の証だ。

 何にも知らずに茶化さないでほしい。私も流石に怒る。


「その腰の剣は抜かないのかい?」

「抜かない。もう準備はできてる」

「フン。気に食わない眼をしてくれる。だが、俺が持つこの槍『パルスピア』の前で、鞘に納めたままの剣は意味を成さない。……それでも俺は手を抜かない。Aランクの全力、出させてもらうぞぉぉお!!」


 ギルドの中はいつの間にか私とAランクパーティーリーダーとの決闘場だ。向こうが手に持った槍は何やらゴテゴテした装飾がついてて、見た目は強そうでまあまあカッコいい。

 その槍で刺突の構えをしながら、ダッシュで間合いを詰めてくる。


【まったく……なんで決闘なんかに発展するんだか】

「だって、勝手にツギル兄ちゃんに取ろうとした。許せない」

【まあ、ほどほどに相手してやれ。あの槍自体に特別な力はない。強度はそこそこだが、装飾はただのハリボテだ】

「動きも大したことない。ディストールの兵士よりは上だけど、十分目で追える」


 とはいえ、トータルで見ても大した相手ではないのは明らか。Aランクとやらがどれぐらい凄いのは別として、今の私の相手ではない。

 魔剣の力に理刀流の技。これらが合わさり最強に見える。

 鞘に納めたままの魔剣に震斬(ブレスラッシュ)の効果を付与。突き出そうとしてくる槍の動きを目で追いつつ、刀身を鞘走りさせる。



 ズパンッッ!!



「えっ!? なっ!? ば、馬鹿な!? 俺のパルスピアが……真っ二つだと!?」


 突き出された槍を屈んで回避しつつ、体をしならせて居合一閃。ちょっと硬い程度の槍だって、魔力を纏えば斬り捨て御免。

 ものの見事に槍は切断され、斬られた先端は宙を舞った後に床へと突き刺さる。

 これにて、急遽始まった決闘も終焉。私の勝利をもってして決着となった。


「な……なんなのよ!? その剣は!? なんでリーダーのパルスピアが斬れるのよ!?」

「パルスピアは上級武器だしー! そんなショボい剣で斬れるはずないしー! そもそも、抜いたところも全然見えなかったしー! 絶対何か反則してるしー!」

「槍が斬れたのは単純に柔いからと、当人の技術不足。魔剣の力と太刀筋を見切れないのが悪い。刃を向け合う勝負に、反則も何もない」


 パーティーの女二人もまたまた外野から口を挟んでくるけど、言ってることはただの負け惜しみ。こちらは魔剣を腰で整えて、元々座ってた椅子に座り直す。

 Aランクってここでは凄いって聞いたけど、全然大したことなかった。とはいえ、この勝利で油断は禁物。

 私は今でも臨戦態勢。もしもここから反撃しようものなら、再び斬りかかる備えはできている。


「く、くそ! 俺らがこんな舐められたままで終われるか! おい! 別の武器を――」

「焦んなよォ、Aランクのクセによォ。オレの見立てでも、テメェらが勝てる見込みなんかねェよォ。この嬢ちゃん、今だって気を抜いてる様子がねェ。不意打ちさえも無駄だってことに気付けねェのかァ?」

「ぐうぅ……!? きょ、今日のところはここまでにしておいてやる! だが、次はこうも行かないからな! 覚えてろ!」


 私に備えができてることを悟ったのは、向かいの席に座ったままのトラキロさんだった。まだ挑みかかろうとするAランクパーティーを諭し、これ以上の戦いを止めてくれる。

 その話を聞かされて、イソイソとギルドを後にするAランクパーティー。騒ぎ立てていた他のお客さんもおとなしくなり、店の中も一気に静かになった。


「トラキロさん、ありがと。私もあんまり何度も戦うのは嫌」

「そうかァ。だが、ミラリアの腕前は大したもんだァ。まだ全容は見せてねェだろうが、オレの見立てではAランクパーティーをレベル30とするならば、ミラリアはレベル70ぐらいってェところかァ?」

「……むぅ? その『レベル』って何?」

「オレ独自の価値基準だァ。気にするんじゃねェよォ」


 私としてもこれで助かった。戦うのも下手に騒がれるのも嫌。ギルドの空気も元に戻っていくし、なんだかんだでトラキロさんにはお世話になる。

 ただ、同時にちょっと気になることもある。実はトラキロさん、凄く強いんじゃないかな?

 私達の決闘についても、もしかすると目で追えてたのかも。そうだとしたら、このギルドにいる誰よりも強くてもおかしくない。

 よく分かんないけど、さっきの決闘で強さの指標まで見えている。Aランクとかの指標よりも細かそうだ。


「まァ、それだけの実力がありゃァ、ここのギルドが紹介できる案件もこなせるだろうよォ。できればさっきの連中みたいにパーティーを組んだ方がいいが……」

「それはやめておく。私、一人で行動したい。……他の人と一緒は避けたい」

「だよなァ。まァ、一人でも問題ねェとはオレも思ってる。こっちも別件で用事があるし、後は一人でやってくれやァ」


 その後のことについても少し語ってくれると、トラキロさんは席を立ってギルドを出ていった。

 そういえば、トラキロさんも親方さんと同じように船の仕事もあるんだっけ。ギルドを登録せずに使ってるのも、そういった仕事の背景があるからって言ってた。

 何はともあれ、私の実力なら一応はやっていけそうなのは分かった。今から試し程度に案件とやらを受けてみよう。


【ところで、ミラリア。俺には気になってることがあるんだが?】

「気になってること? 何?」

【お前、フューティ様からお小遣いをもらってたよな? あれは使わないのか?】


 早速と思って席を立つと、ツギル兄ちゃんが何やら疑問を述べてくる。

 確かに私はフューティ姉ちゃんから結構な額のお小遣いをもらった。別に忘れてたわけでもない。

 今でもしっかり荷物にしまってるし、これがあれば当面の資金に難儀はしない。別にギルドの案件を受けずとも、しばらくは旅ができる。


 ――ただ、私はこのお金を使いたくない。




「このお小遣い、元々はフューティ姉ちゃんのお金。……だから、フューティ姉ちゃんのためになる形で使いたい」

ミラリアにとって、もらったお小遣いには特別な意味がある。

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