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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
新たな大陸と謎の海賊団
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その少女、ギルドを知る

無知ゆえに無礼。それが剣客少女ミラリア。

「成程。その黒眼鏡は『グラサン』といって、内側からは見えるようになってる。体格は自前で、服装は趣味。納得できた。後、ついでにギルドの使い方についても」

「いやァ……どちらかというと『ついで』はオレの個人的な話じゃねェかァ?」


 とりあえず、トラキロさんについて気になることは聞けた。ギルドについても、トラキロさんの方から教えてもらった。

 なんでもギルドは冒険者が集まるだけでなく、手に入れたアイテムを売ってお金にできるとか。近くに魔物が潜む森もあり、そこで狩りをすれば金策にもなる。

 今後もお金は入り用だし、後で少し試してみよう。


「そういえば、ギルドには『冒険者登録』ってのもあるんだよね? 私、してないよ?」

「冒険者の中には脛に傷持ってたりで、あんまり名前を明かしたがらねェ奴も多い。嬢ちゃんだって、目立ちたくない理由があんだろォ?」

「確かにそう。ちょっと情報とお金が入ればそれでいい。……トラキロさんも登録してないの?」

「あァ、してねェなァ。……脛に傷あるからじゃねェぞォ? 登録すると、ランク分けされたりで面倒だからなァ」


 それと、今の私はギルドを使ってはいるけど、一時的なもので正式な利用者ではない。ここも親方さんが事情を察し、登録を控えてくれたのだろう。

 だって私、まだ名前すら名乗ってない。名乗ってないから登録なんてできない。海に出てから『嬢ちゃん』とか『小娘』呼びばっかり。


「むぅ……一応、トラキロさんにはお世話になってる。だから、名前だけは名乗っておく。私の名前、ミラリア」

「ほォほォ、ミラリアかァ。自分から名前を名乗るとは、中々行儀がいいじゃねェかァ。まァ、短い間でもよろしくしてやるよォ」

「うん、よろしくされる」

「……やっぱ、行儀は悪いのかァ?」


 とりあえず、私もずっと子ども扱いは嫌。実際に子供でも嫌。トラキロさんの名前も知ってるし、私も名乗らないとフェアじゃない。

 なんだか感心と呆れを同時にされたけど、こういうのにも慣れてきた。むしろ、呆れられてる分にはあまり深く人と関わらずに済む……と思う。




「おやおや、トラキロさん。まともにギルドの案件もこなさず、そんな幼い少女と何を話してるのかな?」

「正式登録してないから、ランクを気にする必要もない。私達のように真面目に活動してるパーティーと違って、いいご身分よね」

「私らAランクパーティーが来てやったんだから、ちょっとは愛想よくしなさいってのー」




 少しトラキロさんの怖さにも慣れてきて話をしてると、何やら男一人に女二人の一団がこちらへ近寄ってきた。

 その様子はとても嫌味満々。確かにトラキロさんは昼間からお酒を飲んでて、見た目も怖くて愛想もよくない。

 でも、私には色々と教えてくれてる。この態度はカチンと来る。


「ミラリア、そう焦んなよォ。こいつらは『Aランクパーティー』って肩書で、幅を利かせてる連中だァ。ギルドってのは、登録された連中のランクが階級みてェにもなる。Aランクとなれば、この辺りじゃ最高ランクだなァ。オレに言わせりゃ、どいつもこいつもガキだがよォ」

「フン! ランクなしの未登録風情が、俺達を下に見るんじゃない! Aランクの意味を分かってないのか?」

「そうやって『ランクが凄いんだぞー』ってやる姿が、オレにはガキ臭く見えんだよォ。テメェらも焦った態度をとるんじゃねェよォ。人には人の事情があるってもんだァ」


 とはいえ、言い寄られてるトラキロさん自身は余裕そのものだ。むしろ私やAランクパーティー相手にも『焦るなよ』と諭す素振りまで見せる。

 これは私もトラキロさんを見くびってたと言わざるを得ない。こんな半裸で厳つい見た目なのに、意外と心はダンディーだ。


「あなたもそんなむさい男じゃなくて、私達とお話ししない?」

「やだ、しない。あなた達とパーティーなんかしない。誕生日だってまだ先」

「……もしかして、盛り上がる方のパーティーと勘違いしてる? ちょっと馬鹿な子って感じー」


 さらには私にまで声をかけてくるけど、ここはトラキロさんを見習って大人の対応をしよう。

 Aランクのパーティーだから、きっと凄く賑やかに盛り上がるんだとは思う。そういうの、興味あるけど今はしない。

 大人とは無闇に騒いだりしないものだ。多分。


【……まあ、それで構わないぞ。多分、お前はパーティーの意味をはき違えてるだろうが】

「え? 違うの? 誕生日パーティーみたいなのだよね?」

【あー、確定ではき違えてるな、うん。まあ、対応自体は問題ないし気にするな】


 ツギル兄ちゃんも小声でコメントしてくれて、少しは褒めてくれる。ちょっと気になる物言いだけど、一応はこれでいいとのこと。

 Aランクの人達はどこか高圧的だし、仲良くするしない以前の話。私としては関わりたくもない。

 このまま椅子に座って、適当に流して――




「思考も変わってるが、持ってる剣も変わってるな。俺にも少し見せて――」

「ダメ! これ、私の魔剣! 私だけの魔剣!」




 ――と思ったけど、リーダーっぽい男の人が腰の魔剣に手を伸ばしてきたので、思わず椅子から飛び降りて逃げてしまう。

 この魔剣は私の武器である以上に、ツギル兄ちゃんの魂が宿ってる。それを赤の他人に触れられたくない。

 ツギル兄ちゃんだけは間違いなく私の味方で、これからも一緒にいてくれる。だから渡せるはずがない。


【ミ、ミラリア? 俺としても助かったが、今さっき大声出して動いたせいか、周囲の視線まで集めてるぞ? つうか、居合の構えをとるなよ?】

「だって、この人達がツギル兄ちゃんを勝手に取ろうとするから……!」

「……剣に向かって独り言とは、どこか頭のかわいそうな少女のようだ。ただ、構えてくるならば俺も容赦はできない」


 思わず腰を落として居合を打てる構えまで取ってしまい、周囲の人達の目線まで向いてしまう。

 しかもあろうことか、リーダーの人まで背負っていた槍を私に向け、完全に交戦態勢だ。


「おいおい、あのAランクの奴、あんな小さい女の子とやり合うのかよ?」

「流石にかわいそうだろ? 誰か止めた方がよくね?」

「だ、だけど、Aランクに逆らったら後が面倒だし……」


 ただ、周囲の人達は心配こそしても、止めることまではしてくれない。トラキロさんも言ってた通り、ランクが絶対ということか。

 でも、私だって引き下がれない。こうなったら、少しだけ本気で相手してみよう。


「俺は女の子だからって甘く見ないぞ? 向かってくるなら容赦はしない」

「それ、私のセリフ。この魔剣に迂闊に手を出すなら、相手が誰でも容赦しない」

ミラリアにとって「魔剣に勝手に触れられる」ことは「たった一人の家族を奪おうとする」ことと相違ない。

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