その少女、ギルドに足を踏み入れる
レッツ、冒険者ギルド。
「ここだ。この酒場が冒険者ギルドだ」
「いろんな人がいっぱい。ここのみんなも私みたいに旅してるの?」
「ああ、そうだ。冒険者ギルドには世界各地から君みたいな冒険者が訪れるから、何か情報も得られるだろう」
親方さんに案内されたのは、冒険者ギルドと呼ばれる酒場。一緒に中へ入ると、旅支度をする人達や椅子に座って談笑する人達が見える。
私を含む冒険の旅をする人達は『冒険者』と呼ばれているらしく、そういう人達の集いの場として『ギルド』というものがあるということか。ちょっとだけ理解できた。
「受付の姉ちゃん。悪いんだが、この嬢ちゃんに薬草とアイテムポーチを用意してやってくれ。ああ、金はわしが出す」
「かしこまりました。親方さんの頼みなら断れませんね」
親方さんは手際よく受付のお姉さんに話を通し、あれよあれよという間に話が進んでいく。
なんだかお金が必要だったらしいけど、そこについても親方さんが肩代わりしてくれた。スムーズに話も進んでるし、私のことなのにちょっと置いてけぼり。
「ほらよ、嬢ちゃん。今後も旅をするなら、こういった薬草といったアイテムは入り用だ。アイテムポーチがあれば、たくさんの荷物だって持てるだろう。まあ、わしにできるのはここまでだな」
「うん、ありがとう。でも、どうしてここまでしてくれたの? お金も払ってくれたよね?」
「まあ、わしとしてはロードレオ海賊団の件でしっかりお礼がしたい。それにお嬢ちゃんの様子を見ると、あんまり身元を知られたくないんだろ? ここなら同じような連中もいるし、嬢ちゃんみたいなのには最適かと思ってな」
アイテムを受け取りながら話をすれば、親方さんは私の境遇をなんとなく読み取ってくれたようだ。ポートファイブでは顔が広いらしく、ギルドにも融通が利くそうだ。
ここまでしてくれたのは嬉しいし、素直にお礼も言いたい。でも、こういう時にどうしてもディストールでの出来事が頭をよぎる。
良くしてもらって裏切られるのが怖い。また誰かが酷い目に遭うんじゃないかと心配になる。
「……まあ、嬢ちゃんもその歳で一人旅なんかしてるんだ。深い事情があるんだろう。わしも迂闊に首は突っ込まんよ。ただ、ギルドも初めてなんだから、誰か一人は詳しい人間と一緒の方が……そうだ。おーい、トラキロさん」
「なんだァ? 親方じゃねェかァ? そんなちっこい小娘なんか連れて、オレに何の用だァ?」
お礼も素直に言えない私に対しても、親方さんは気遣いしながら対応してくれる。私もギルドなんて初めてだし、実際にここで活動してる人の話も聞きたい。
そうして紹介してくれたのは、ほとんど上半身裸な服装に黒い眼鏡をかけたイカつくて大柄な男の人。椅子に座ってお酒のグラスを傾けながら返事してくる。
あんな黒い眼鏡で前が見えてるのだろうか?
「この子、少しの間ここに通うことになったんだ。トラキロさん、最近暇だろ? わしも用事があるし、色々とギルドについて教えてやってはくれないか?」
「別にオレも暇じゃねェんだがよォ。まァ、親方の頼みなら仕方ねェなァ。少しぐれェは面倒見てやるよォ」
親方さんの人望のおかげか、トラキロと呼ばれる人は渋りながらも要望を承諾してくれる。
でも、この人結構怖い。思わず親方さんの後ろに隠れてしまう。
黒い眼鏡のせいで眼元も見えないので、余計に怖さが倍増してしまう。
「ああ、怖がらなくても大丈夫だよ、このトラキロさんはわしのように船で世界中を旅して商売し、その片手間で冒険者ギルドにも顔を出してる人でね。見た目は怖いが、中々頼りになる男さ」
「頼ってくれるのはいいんだが『見た目が怖い』は余計だなァ。まァ、オレも取って食ったりはしねェよォ。焦らずに話をしようじゃねェかァ」
そんな私の不安など他所に、親方さんは最後の言葉を交えてギルドを後にしてしまった。
もうちょっと待ってほしかった。いくら親方さんが頼りにしてても、私はトラキロさんのことを何も知らない。
分かることは『見た目が怖い』ということだけ。ただでさえ人との交流が怖くなってるのに、この顔と体格は追い打ちといってもいい。
【ミラリア、怖がる気持ちも分かる。だが人に怯えてばかりじゃ、この先でも不都合が出る。旅には時として、いろんな人との交流も必要だ】
「う、うん。分かってる。私、頑張る」
【まずは最初の一言からだ。ちょっとした気になることから話題にしてみろ】
とはいえ、怖気てばかりもいられないのだって事実。トラキロさんとだって、そこまで深く関わらなければいい。あくまで少しの間だけだ。
ツギル兄ちゃんにもアドバイスを受け、とりあえずは頭の中で話題を浮かべてみる。親方さんもトラキロさんを紹介してくれたのだから、ここで私がオドオドしてたら申し訳ない。
「あ、あの……あの……」
「あァ、話がしてェなら、遠慮なく言ってくれて構わねェぞォ。オレも仕事柄、ガキの扱いには慣れてるからなァ」
「じゃ、じゃあ……質問してもいい?」
「全然構わねェぞォ。ギルドが初めてなら、聞きてェことも多いだろうよォ」
向かいの席に座り、トラキロさんとの会話チャレンジ。緊張してしどろもどろになっちゃうけど、こういう人と話ができれば一人前になれる気がする。
頭の中で話題も出揃った。トラキロさんも遠慮しなくていいとのことなので、思い切って聞いてみよう。
「その黒眼鏡、前見えてるの? どうしてそんなに怖い顔なの? 何を食べたらそんなに大きくなれるの? なんできちんと上着を着ないの? 暑がりなの?」
「なんだこのガキはァ!? ちょっとは遠慮を考えろよなァ!? 後、ギルドのことを聞けよなァ!?」
オンとオフの切り替えが苦手なミラリアであった。




