その少女、新たな大陸に降り立つ
ミラリアの冒険は新たな大陸、その窓口である港町ポートファイブへ。
「嬢ちゃん、着いたぞ。ここがわしらの住む町、港町ポートファイブだ」
「これが……港? 大きな船がたくさん。建物も初めて見るものばっかり。人もたくさん」
「ポートファイブはこの大陸の海運拠点だ。他国からの品も多く入るし、嬢ちゃんみたいな旅人だって多い」
ロードレオ海賊団を追い払い、なんとか無事に目的の港に船は到着。親方さんに案内されて船を降りれば、そこに広がるのはこれまでとはまた違う景色。
海が近いから風には潮が含まれて、相変わらず私のアホ毛をしょっぱくソヨソヨさせてくる。
海の近くには私の知る河原とは違い、綺麗な白い砂が積もってる。多分、あれが砂浜というものだろう。
匂いも独特で、潮の香りに油の匂いも混じってくる。建物も含め、ディストール王国やエスターシャ神聖国とは大きく違う街並みだ。
「お前らは積み荷を降ろしとけ。わしはちょっとこの嬢ちゃんと話をしてくる」
「親方さんと二人だけでお話?」
「怖いかい? だったら、他にも人をつけるが?」
「ううん、大丈夫。それに親方さん一人なら、襲われても私の方が強い」
「ハハハ、確かにな。……むしろ、わしの方が気を付けるべきか」
少し辺りを見回してると、親方さんが私を船の近くにあった建物へと導いてくる。他にも『造船ドック』と書かれた大きな建物が並び、人もたくさんいる。
でも、親方さんに案内されたのは小さな小屋の中。内装自体はしっかりしてるし、私としてもこっちの方が助かる。
――あんまり人が多いと、嫌な思い出がよみがえる。
「さて、まずは改めてわしから感謝の言葉を述べさせてもらおう。嬢ちゃんがいなければ、大切な積み荷がロードレオ海賊団の手に渡っていた。わしらの身も危険だった。本当にありがとう」
「それはもう構わない。それより、私はロードレオ海賊団について知りたい。あの人達、エデン文明を使ってるの?」
「エデン文明か……。そういえば、嬢ちゃんはディストールやエスターシャといった大陸から来たんだね。あっちの方はエステナ教団を始め、楽園信仰が根強いからな」
小屋の中にあった椅子に腰かけると、親方さんが再度海賊のことでお礼を言ってくれる。嬉しいけど、やっぱりあんまりそういうのはいらない。
それよりはこっちの目的について調べるのが優先。いい機会だし、ロードレオ海賊団を含めて話を聞いてみよう。
「生憎と、ポートファイブは向こうほど楽園信仰は深くなくてね。ロードレオ海賊団にしたって、本拠地は別に構えているらしい。奴らがどこでライフルや高速帆船といった技術を手にしたのか、そもそもどこを拠点にしてるのか、詳しいことは何も分からん」
「そうなの? こっちって、エデン文明とかはないの?」
「いや、全くないわけでもない。エスターシャ神聖国に本拠地を置くエステナ教団については、この港町にも支部がある。まあ、あそこは世界的な規模だからな」
「エステナ教団も……」
話を進めてみれば、どうにもポートファイブは楽園をそこまで信じてないっぽい。
まあ、楽園の存在だって真相は分からない。もしかすると、ディストールやエスターシャが特別だっただけかも。
それにしても、エステナ教団はここにもあるのか。これは用心した方がいい。
レパス王子やリースト司祭は、きっとまた私を追ってくる。エステナ教団には近づかない方がいいだろう。
「なら、イルフ人って知らない? こう……耳の長い人達」
「耳の長い種族か……。いや、わしは知らんな。力になれず申し訳ない」
「そう……残念」
結局、親方さんから有益な情報は得られなかった。イルフ人のことについても空振りだ。
エスカぺ村では巫女さんや鍛冶屋さんがいたのに、外の世界では随分と情報がない。エデン文明も眠ってたし、エスカぺ村の方が世界的には珍しかったのかも。
私にとっては外の世界の方が珍しくても、外の世界にとっては私の方が珍しい。理刀流のような剣技にしたって、私以外に使ってる人は見たことがない。
――あっちとこっちで見る向きが変わると印象も変わる。世の中って不思議。
「もしかして、そのイルフ人ってのも楽園絡みかい? 嬢ちゃんは楽園について探してるのかな?」
「うん。私、楽園を目指す旅をしてる。どうしても楽園に行きたい」
「わしは楽園に詳しくないが、そうなってくると情報が必要だな。情報が必要となると、多くの人が入り混じる場所が適切だろうし――」
私が楽園についての話をしてると、親方さんもそのことが気になってきたようだ。思わず返事しちゃったけど、喋りすぎちゃったかな?
あんまり知られ過ぎると、話が大きくなっちゃう。話が大きくなると、ディストール王国と同じようなことが起こりそうで怖い。
せっかく新しい大陸に来たんだし、できれば人に知られ過ぎたくない。巡り巡ってあっちの大陸でしたような思いはもうたくさんだ。
あんまり人と関わりすぎない方法がいいけど、はたして――
「そうだ、嬢ちゃん。冒険者ギルドに行ってみないかい? あそこならば、嬢ちゃんみたいな旅の冒険者も多いから、役立つ情報だって得られるかもしれないな」
「冒険者……ギルド?」
冒険もののお約束ではある。




