その海賊、商船を襲う
一難去ってまた一難。今度は海賊がお相手だ。
「ねえねえ、親方さん。その長い筒で何を見てるの?」
「望遠鏡のことか!? これは遠くを見る道具――って、そんなことを話してる暇はない! ロードレオ海賊団の船が、どんどんこっちに近づいてるぞ!?」
なんだかよく分かんないけど、確かに親方さんが見てる方角には船が見える。しかもかなりのスピードでこっちの船に来てる。
同じように帆のついた船だけど、そこに何か描かれてるっぽい。遠いから見えづらかったけど、近づいてくれば見えそうだ。
「バッテン印に……猫の顔?」
「間違いない! あの速度の帆船に猫ドクロの海賊旗! ロードレオ海賊団だ!」
「大砲も装備してるし、この船を狙ってるのか!? 噂には聞いてたが、とうとうこの海域にまで魔の手が……!?」
「お、恐ろしいことになったぞ……!? あのスピード相手じゃ逃げ切れない……!?」
ようやく私にも確認できたのは、悪い表情の猫とバッテン印が描かれた帆の船。そういえば、私も耳にしたことがある。
ロードレオ海賊団って悪い人達がみんなを困らせてて、フューティ姉ちゃんやペイパー警部も危惧してたっけ。
要するに、海の上で襲ってくる泥棒ってことか。外の世界って、悪い人の種類も多い。
船のみんなも怖がってるし、これは一大事かもしれない。
――ただ、海賊旗と呼ばれるマークはそんなに怖くない。むしろ猫かわいい。
「オラオラ! 俺らが誰かはご存じでヤンスね~!?」
「泣かぬ子も喚き叫ぶロードレオ海賊団とは、俺らのことでゴンス! 痛い目に遭いたくなきゃ、積み荷を寄こすでゴンス!」
「逆らったらこのライフルが火を噴くでアリンス! さっさと従うでアリンス!」
あっという間にこっちの船へロードレオ海賊団の船が横付けし、何人かが乗り込んでくる。変な語尾の男三人組が率先して前に出てきて、以前の野盗のように脅してくる。
その三人の手に持たれたのは、鉄でできた筒のような何か。先端の穴をこちらに突きつけてくるけど、だから何なのだろうか?
「親方さん。あの鉄の筒は何?」
「わ、わしも初めて見るが『ライフル』と呼ばれるものだろう……! なんでも、小型ながら大砲のように扱えるとか……!」
「このライフルの恐ろしさが分かってるでヤンスね? だったら、逆らわない方がいいのも分かってるでヤンスね?」
「ぐうぅ……!? 船員の安全には代えられないか……!?」
親方さんは素直に従う態度を見せてるけど、私には正直怖さが分かんない。別に先端がとがってるわけでもないし、筒状だから強度も弱そう。
小さな大砲なんて言われても、私は大砲さえもよく分かってない。何かが飛んでくるらしいけど、そんなに痛いのかな?
「ねえねえ、海賊さん。そのライフルって武器、どんな威力なの? 私、興味ある」
「な、なんでゴンスか? このガキ? 俺らが怖くないんでゴンスか?」
「ライフルを全く知らねえみたいでアリンスね~? だったらここで、このガキをマトに試し打ちでアリンス!」
「や、やめろ! その子は関係ない! 止めてくれぇぇえ!!」
こういう時は直接聞くのが一番。変な語尾トリオの前に出て、ライフルというものについて尋ねてみる。
すると試しに威力を見せてくれるらしく、変な語尾トリオがライフルの先端を私に受けてくる。
親方さんは焦ってるけど、私としてはライフルの方への興味が上。そんなに心配しなくても、何かが飛んでくるだけなら問題ない。
「撃つでヤンスゥゥウ!!」
バキュン! バキュン! バキュン!
キン! キン! キン!
「……びっくりした。思ったより速かった」
「……え? へえ!? このガキ、ライフルの弾を弾いたでゴンス!?」
「こ、腰の剣を使ったでアリンスか!? で、でも、全然見えなかったでアリンスよ!?」
想像より凄いスピードで尖った弾みたいなのが飛んで来たので、少し焦った。とはいえ、これぐらいの速度ならやっぱり問題ない。
速いことは速いけど、私の居合の方がずっと速い。抜刀して飛んで来た三発全部を弾けばいいだけのこと。
でも、確かにこれは怖いかも。当たってたら危なかった。
【……ミラリア。相手は海賊なんだから、変な興味を示すな。怪我したら危ないだろ?】
「だって、気になったもん」
【好奇心より自分の身を優先してくれ。俺を不安にさせるな】
ツギル兄ちゃんにも小声で叱られつつ心配されてしまった。確かにちょっと甘く見てたかも。
外の世界には、まだまだ私の知らない武器まである。何も知らずに迂闊な行動をとるのはとても危ない。
――旅の道中とは、なんとも危険に溢れている。
「お、おい! 何を剣に向かってコソコソ独り言してるでヤンスか!?」
「そんな余裕をぶっこけるのも今の内でゴンス!」
「こうなったら……者ども! かかるでアリンスゥゥウ!!」
「向かってくるの? だったら、こっちも容赦しない。……斬り捨て御免」
後の教訓は別として、今の現状でも十分危険だ。変な語尾トリオだけでなく、後ろに控えていた残りの海賊も号令で動き出す。
ライフルを持ってるのは変な語尾トリオだけで、他の海賊は剣といった近接武器。ならば問題はない。
ヒュン――スパンッ! スパンッ!
「うおぉ!? なんだ!? 剣が斬れた!?」
「こ、このガキ、速いぞ!? み、見えねえ!?」
縮地で海賊一団の中へ突入し、すれ違いざまに居合で武器破壊。理刀流の技をマスターしたことで、基礎能力も向上している。
これなら魔剣の魔力を解放せずとも、居合だけで十分渡り合える。ちょっと人数が多いぐらいならこれで十分だ。
高速で居合を繰り返し、海賊を次々に戦闘不能へ追い込む。
「このガキ!? 何者でヤンス!?」
「こ、こうなったら、こうするでゴンス!」
ただ、変な語尾トリオだけは簡単にいかない。遠距離に対応した武器だからか、他の海賊とも距離を置いて様子を伺っている。
多分、この三人がリーダーなのだろう。こいつらを倒せば全部終わる。
下っ端海賊は大体片付いたし、後は変な語尾トリオをさっさと倒して――
「やいやい、剣客小娘! おとなしく抵抗を止めるでアリンス! こいつがどうなってもいいでアリンスか!?」
「ぐうぅ!? わ、わしを人質とは卑怯だぞ!?」
「あっ、親方さんが」
……処女作でも似たような連中がいたけど別人です。




