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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
新たな大陸と謎の海賊団
65/503

その少女、遭難する

Q.これって遭難ですか?

A.そうなんですよ。

【泳いで渡れるわけないだろ!? 正気か!?】

「大丈夫。荷物についても濡れないよう、あらかじめビニルの皮でくるんでおいた。防水性抜群」

【そういう意味じゃない!】


 イカダも思ったより壊れるのが早く、気がつけば残った丸太は三本だけ。他の丸太は海の上で流されていった。

 でも、慌てることはない。焦る心配はない。フューティ姉ちゃんからもらったお小遣いに手帳に聖水。それらも含めて荷物を塗れないようにまとめ、海を泳ぐ準備をする。


【お前、次の大陸までどれぐらいあると思ってるんだ!? まだ影も見えないんだが!?】

「安心して。私はエスカぺ村の『川水泳大会』でもチャンピオンだった。泳ぎには自信がある」

【だから! そういう問題じゃ! ないんだって! 無茶苦茶なんてレベルじゃないぞ!? 途中でバテるぞ!?】

「むぅ……ツギル兄ちゃんは心配性。そもそも、海だって大きな池。お魚だって泳いでるし、途中で食料も補給できる。水分だってたくさんある」


 準備運動を始めても、ツギル兄ちゃんは嫌々言ってばかり。普段は私がワガママ言うのに、今回ばかりはツギル兄ちゃんの方がワガママだ。

 エスカぺ村水泳チャンピオンを舐めないでほしい。水も食料もあるのだから、実質海全体が休憩ポイントにもなる。


【……なあ、ミラリア。お前、エスカぺ村にあった『ツケモノ』のことを覚えてるか?】

「ツケモノ? あのしょっぱい野菜? うん、覚えてる。ご飯のお供になるけど、私は苦手な味だった」

【ああ、そのツケモノだ。あれは野菜を塩水に浸し、余計な水分を抜くことで出来上がる】

「その話が今の状況とどう関係するの?」


 私としては不安要素もないのに、ツギル兄ちゃんは静かながらもどこか脅すような口調で話を続けてくる。こういう時、魔剣の姿だと表情が見えなくて卑怯だと思う。

 そもそも、ツケモノの話なんて今は関係ない。塩水に浸すと水分が抜ける理由だってどうでもいい。

 確かにツギル兄ちゃんはツケモノ好きだったけど、別に今しなくても――




【海の水は塩水だ。このまま陸まで泳ごうにも、その前にミラリアはツケモノのように水分が抜ける】

「……え? マジなの?」

【ああ、マジだ】




 ――と思ったら、思いっきり今の状況と関係あった。なんてことだ。海の水って、川や池の水とは違うんだ。

 どおりでさっきからアホ毛に感じる風がしょっぱいわけだ。ツケモノを作るのと同じ塩水が風にも含まれてたら当然だ。

 そんな水は飲めない。塩辛いのは嫌いだし、逆に水分が抜けてしまう。


 ――神様はどうしてそんな余計な味付けを海にしたのだろうか?


【さらに言うと、いくらミラリアの泳ぎが得意でも、目的地までが遠すぎる。水の中に長いこと浸かれば体温を奪われる。……それだけで十分死ねる】

「……ツギル兄ちゃん……助けて……!」

【うん、遅い! だから俺は止めたんだ! こんなイカダで海を渡れるわけないだろ!? もう元いた陸地も遠くなってるし、助けようなんかないぞ!?】


 私って、本当に馬鹿だった。海の大きさも塩水のことも知らず、大した準備もせずに飛び出してしまった。

 思わずツギル兄ちゃんに泣きながら助けを求めるも、こうなってはどうしようもない。魔剣のままのツギル兄ちゃんを責められない。

 せっかくフューティ姉ちゃんが道を示してくれたのに、この結末は酷すぎる。もうイカダの丸太も一本だけになっちゃったし、なんとかバランスをとって持ちこたえるのが精一杯。

 でも、海に落ちたらその先は地獄。ちょっとは泳げても助かりそうにない。


 ――フューティ姉ちゃんにあの世で顔向けできない。


「ど、どうしたら……!? どうしたら助かるの……!?」

【お、俺だって必死に考えてる! こっちも海に沈んでそのまま海底で錆びつくのは――あっ!?】

「な、何!? 何か見つけたの!?」

【船だ! 正面に船が見えるぞ!】


 それでも、私は最後まで諦めない。それはツギル兄ちゃんとて同じこと。

 どうにか海にドボンしない方法を考えてると、ツギル兄ちゃんが声を上げて正面を見るように促してくる。

 ちょっと遠いところにあるけど、あそこまで辿り着ければ助かるかもしれない。

 エスカぺ村で『渡りに船』って言葉を聞いたことあるけど、今がまさにその状況。九死に一生とはこのことだ。


【ミラリア! あの船まで転移魔法で飛べ! 時間はないぞ!】

「分かった。丸太の上でバランスとるのも疲れたし、難しくてもやってみる」


 もうこのイカダはとっくに限界だ。そもそも丸太一本だけになってるので、イカダでもなくなってる。

 こんな状況で転移魔法を使うのは難しいけど、これ以外に助かる方法はない。距離的にもギリギリで居合を放つのも難しくても、ここでやらなきゃ沈んで終わる。


 ――目指すは眼前の船。心を落ち着け一意専心。なんとしてもあそこまで転移してみせる。



 キンッ――ヒュンッ



「……ツギル兄ちゃん、うまくいった。船の上まで来れた」

【……ああ。確かに『船の上』まで転移できたな】


 こんな危機的状況でも、私と魔剣の力は絶大。どんな困難だって乗り越えられる。

 丸太の上でなんとか居合と同時に発動させた転移魔法で、私達は無事に船の上へと転移できた。

 もう海に落ちる心配はない。フューティ姉ちゃんから託された荷物だってバッチシ持ってる。これで問題はない。




【ただ……なんで『船の上空』に転移したんだよぉぉお!?】

「……ごめん。ミスった」




 転移した先が船の遥か上空であることを除けば。

波乱万丈な兄妹の旅。

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